上 下
92 / 107
本編

犯人の行方

しおりを挟む
 次に目を覚ましたら太陽が高い位置にあった。オーウェンさんが来てから何時間寝てたんだろう。身体を起こして辺りを見ると、書類を整理するお義父様がいた。

「お義父様、おはよう」

私が挨拶するとお義父様は弾かれた様に勢いよく立ち上がり、座っていた椅子は大きな音を立てて後ろに倒れた。顔をグシャリと歪めたお義父様は、今にも泣きそうに見えて何も言えなくなった。

「バカ娘、何度心配掛けたら気が済むんだ」

「ごめんなさい」

 素直に謝ると、大きなため息を吐いた後、ベッドの橫ある椅子に座った。

「喉は大丈夫か?他に痛い所は無いか?」

「大丈夫。ちょっとダルいくらい」

 そうかと言ったお義父様は真面目な話があると言って、私が寝ている間の出来事を教えてくれた。

 魔具は正常に発動して犯人の姿が記録されていた事。二人の犯人のうち女性だけは捕まって牢屋に入った事だった。

「女性の方は、お前が羨ましかったそうだ」

 そう言われても何とも言えなかった。自分でも幸運が重なって起きた奇跡だと思っているしね。それより、女性が厳罰になると言う事が気になった。

「厳罰とは正確に言えば貴族で無くなるって事だ。今までの生活がいかに恵まれたものが実感させ反省させる」

「具体的に聞いても良い?」

 あぁ、と返事をしたお義父様が教えてくれたのは、修道院で生活する事だった。それが厳罰になるのか疑問に思っていたら、お義父様に苦笑された。

「貴族ってのは食事は他の人が作ってくれる。侍女をしていたとしても洗濯は誰かがしてくれる」

「そうか重労働になりそうなことを経験してないから」

「そうだ。早朝の水仕事や真冬の洗濯を自分でやる。他人がして当たり前だった事をやるんだ。キツいぞ」

 お義父様の説明を聞いて納得した。貴族なら機織りもしないし籠だって買うだけ。修道院では、それらを自分達で作って売る。買う側から作って売る側へ変わるって、今までの考え方を変えないといけない。これは大人になると難しいだろうな。

「もう一人の男は厄介だ」

 女性の事を考えていた私は、男性が厄介だと聞いて驚いた。え?すんなり捕まるとは思ってなかったけど、顔も分かっているのに厄介って何で?

「侯爵の元当主なんだが行方を眩ました。息子も行方を知らんそうだ」

 魔力持ちで多数の魔具を侯爵家から持ち出していて、何が無くなったかまだ把握しきれていないらしい。今から確実に分かっているの魔具は二つ。防御壁を張る為の魔具と姿隠しの魔具。
 この二つだけでも厄介だけど、魔力の高い元当主は複数の魔具を同時に発動する事が出来る。持ち出した魔具次第では、公開指名手配をする事に決まった。

「桶の中に薬品を入れたのも、おそらく男の方だ」

 元侍女の女性は手紙と部屋の中を切り裂いたけど、薬品はやってないと証言したらしい。同室の人に確認すると、騒ぎが起きた時間に起床していた事が分かった。

「元当主の方だが、多分、俺に対する嫌がらせだ。すまん」

 突然、真面目な顔でお義父様が話し出したのは二人の関係。同じ歳で魔力も多く比較される事が多かった。学園での成績や魔法の精度、夜会でのダンスまで。お義父様からみたら“くだらない”と無視していた事だったけど相手は違った。

「俺の魔具を踏みつけたのは、その男だ」

「え?」

「……十年ほど前か……魔眼の暴走で男は足に深い傷を負い、王族に不敬を働いたとして当主の座を下ろされた」

 お義父様が泣きそうに顔を歪めながら語ったのは、魔眼を抑える魔具が壊れた時の話だった。
 その当時は王族として仕事をしていたお義父様が城内を移動中の事だった。

『貴様が目障りなんだよ!』

 廊下を歩いていたお義父様は突然、後ろからそう叫ばれて振り向いた。顔の前を何かが掠めたと思った時には、魔具を盗られ踏みつけられていた。徹夜続きで疲れていたお義父様は、咄嗟に防御しようとして魔力が暴走。相手は左脚に深い傷を負って倒れた。大きな物音に気付いた警備の騎士が駆けつけた時には、二人揃って倒れていたらしい。

「その後、事情聴取で不敬罪が確定した男は、就任して一年程で当主の座を下ろされ、俺はここを出た」

 そう言った後、お義父様がもう一度、私に謝った。

「もう謝らないで。悪いのは逆恨みしている元当主なんだから」
 
 面倒臭い元当主を、どうやって探そうかな。姿隠しの魔具をもっているのなら……逆手に取っちゃえば良くない?どうせならランバートさんやギルドの人達も巻き込んで……

「お義父様、ちょっと手伝って欲し事があるんだけど良い?」

 多分、今の私は意地の悪い顔をしていると思うけど、ちょっとお義父様?逃げようとしないでね。


 逆恨みの上に部屋の物まで台無しにした面倒臭い男は、こっちから捕まえに行ってやる!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜

津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」  理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。 身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。  そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。 アリーセは思った。 「これでようやく好きな様に生きられる!」  アリーセには特別な力があった。 癒しの力が人より強かったのだ。  そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。 ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。  これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。

平凡な高校生活を送る予定だったのに

空里
恋愛
高校生になり数ヵ月。一学期ももうそろそろ終わりを告げる頃。 僕、田中僚太はクラスのマドンナとも言われ始めている立花凛花に呼び出された。クラスのマドンナといわれるだけあって彼女の顔は誰が見ても美人であり加えて勉強、スポーツができ更には性格も良いと話題である。 それに対して僕はクラス屈指の陰キャポジである。 人見知りなのもあるが、何より通っていた中学校から遠い高校に来たため、たまたま同じ高校に来た一人の中学時代の友達しかいない。 そのため休み時間はその友人と話すか読書をして過ごすかという正に陰キャであった。 そんな僕にクラスのマドンナはというと、 「私と付き合ってくれませんか?」 この言葉から彼の平凡に終わると思われていた高校生活が平凡と言えなくなる。

処理中です...