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本編
犯人の行方
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次に目を覚ましたら太陽が高い位置にあった。オーウェンさんが来てから何時間寝てたんだろう。身体を起こして辺りを見ると、書類を整理するお義父様がいた。
「お義父様、おはよう」
私が挨拶するとお義父様は弾かれた様に勢いよく立ち上がり、座っていた椅子は大きな音を立てて後ろに倒れた。顔をグシャリと歪めたお義父様は、今にも泣きそうに見えて何も言えなくなった。
「バカ娘、何度心配掛けたら気が済むんだ」
「ごめんなさい」
素直に謝ると、大きなため息を吐いた後、ベッドの橫ある椅子に座った。
「喉は大丈夫か?他に痛い所は無いか?」
「大丈夫。ちょっとダルいくらい」
そうかと言ったお義父様は真面目な話があると言って、私が寝ている間の出来事を教えてくれた。
魔具は正常に発動して犯人の姿が記録されていた事。二人の犯人のうち女性だけは捕まって牢屋に入った事だった。
「女性の方は、お前が羨ましかったそうだ」
そう言われても何とも言えなかった。自分でも幸運が重なって起きた奇跡だと思っているしね。それより、女性が厳罰になると言う事が気になった。
「厳罰とは正確に言えば貴族で無くなるって事だ。今までの生活がいかに恵まれたものが実感させ反省させる」
「具体的に聞いても良い?」
あぁ、と返事をしたお義父様が教えてくれたのは、修道院で生活する事だった。それが厳罰になるのか疑問に思っていたら、お義父様に苦笑された。
「貴族ってのは食事は他の人が作ってくれる。侍女をしていたとしても洗濯は誰かがしてくれる」
「そうか重労働になりそうなことを経験してないから」
「そうだ。早朝の水仕事や真冬の洗濯を自分でやる。他人がして当たり前だった事をやるんだ。キツいぞ」
お義父様の説明を聞いて納得した。貴族なら機織りもしないし籠だって買うだけ。修道院では、それらを自分達で作って売る。買う側から作って売る側へ変わるって、今までの考え方を変えないといけない。これは大人になると難しいだろうな。
「もう一人の男は厄介だ」
女性の事を考えていた私は、男性が厄介だと聞いて驚いた。え?すんなり捕まるとは思ってなかったけど、顔も分かっているのに厄介って何で?
「侯爵の元当主なんだが行方を眩ました。息子も行方を知らんそうだ」
魔力持ちで多数の魔具を侯爵家から持ち出していて、何が無くなったかまだ把握しきれていないらしい。今から確実に分かっているの魔具は二つ。防御壁を張る為の魔具と姿隠しの魔具。
この二つだけでも厄介だけど、魔力の高い元当主は複数の魔具を同時に発動する事が出来る。持ち出した魔具次第では、公開指名手配をする事に決まった。
「桶の中に薬品を入れたのも、おそらく男の方だ」
元侍女の女性は手紙と部屋の中を切り裂いたけど、薬品はやってないと証言したらしい。同室の人に確認すると、騒ぎが起きた時間に起床していた事が分かった。
「元当主の方だが、多分、俺に対する嫌がらせだ。すまん」
突然、真面目な顔でお義父様が話し出したのは二人の関係。同じ歳で魔力も多く比較される事が多かった。学園での成績や魔法の精度、夜会でのダンスまで。お義父様からみたら“くだらない”と無視していた事だったけど相手は違った。
「俺の魔具を踏みつけたのは、その男だ」
「え?」
「……十年ほど前か……魔眼の暴走で男は足に深い傷を負い、王族に不敬を働いたとして当主の座を下ろされた」
お義父様が泣きそうに顔を歪めながら語ったのは、魔眼を抑える魔具が壊れた時の話だった。
その当時は王族として仕事をしていたお義父様が城内を移動中の事だった。
『貴様が目障りなんだよ!』
廊下を歩いていたお義父様は突然、後ろからそう叫ばれて振り向いた。顔の前を何かが掠めたと思った時には、魔具を盗られ踏みつけられていた。徹夜続きで疲れていたお義父様は、咄嗟に防御しようとして魔力が暴走。相手は左脚に深い傷を負って倒れた。大きな物音に気付いた警備の騎士が駆けつけた時には、二人揃って倒れていたらしい。
「その後、事情聴取で不敬罪が確定した男は、就任して一年程で当主の座を下ろされ、俺はここを出た」
そう言った後、お義父様がもう一度、私に謝った。
「もう謝らないで。悪いのは逆恨みしている元当主なんだから」
面倒臭い元当主を、どうやって探そうかな。姿隠しの魔具をもっているのなら……逆手に取っちゃえば良くない?どうせならランバートさんやギルドの人達も巻き込んで……
「お義父様、ちょっと手伝って欲し事があるんだけど良い?」
多分、今の私は意地の悪い顔をしていると思うけど、ちょっとお義父様?逃げようとしないでね。
逆恨みの上に部屋の物まで台無しにした面倒臭い男は、こっちから捕まえに行ってやる!!
「お義父様、おはよう」
私が挨拶するとお義父様は弾かれた様に勢いよく立ち上がり、座っていた椅子は大きな音を立てて後ろに倒れた。顔をグシャリと歪めたお義父様は、今にも泣きそうに見えて何も言えなくなった。
「バカ娘、何度心配掛けたら気が済むんだ」
「ごめんなさい」
素直に謝ると、大きなため息を吐いた後、ベッドの橫ある椅子に座った。
「喉は大丈夫か?他に痛い所は無いか?」
「大丈夫。ちょっとダルいくらい」
そうかと言ったお義父様は真面目な話があると言って、私が寝ている間の出来事を教えてくれた。
魔具は正常に発動して犯人の姿が記録されていた事。二人の犯人のうち女性だけは捕まって牢屋に入った事だった。
「女性の方は、お前が羨ましかったそうだ」
そう言われても何とも言えなかった。自分でも幸運が重なって起きた奇跡だと思っているしね。それより、女性が厳罰になると言う事が気になった。
「厳罰とは正確に言えば貴族で無くなるって事だ。今までの生活がいかに恵まれたものが実感させ反省させる」
「具体的に聞いても良い?」
あぁ、と返事をしたお義父様が教えてくれたのは、修道院で生活する事だった。それが厳罰になるのか疑問に思っていたら、お義父様に苦笑された。
「貴族ってのは食事は他の人が作ってくれる。侍女をしていたとしても洗濯は誰かがしてくれる」
「そうか重労働になりそうなことを経験してないから」
「そうだ。早朝の水仕事や真冬の洗濯を自分でやる。他人がして当たり前だった事をやるんだ。キツいぞ」
お義父様の説明を聞いて納得した。貴族なら機織りもしないし籠だって買うだけ。修道院では、それらを自分達で作って売る。買う側から作って売る側へ変わるって、今までの考え方を変えないといけない。これは大人になると難しいだろうな。
「もう一人の男は厄介だ」
女性の事を考えていた私は、男性が厄介だと聞いて驚いた。え?すんなり捕まるとは思ってなかったけど、顔も分かっているのに厄介って何で?
「侯爵の元当主なんだが行方を眩ました。息子も行方を知らんそうだ」
魔力持ちで多数の魔具を侯爵家から持ち出していて、何が無くなったかまだ把握しきれていないらしい。今から確実に分かっているの魔具は二つ。防御壁を張る為の魔具と姿隠しの魔具。
この二つだけでも厄介だけど、魔力の高い元当主は複数の魔具を同時に発動する事が出来る。持ち出した魔具次第では、公開指名手配をする事に決まった。
「桶の中に薬品を入れたのも、おそらく男の方だ」
元侍女の女性は手紙と部屋の中を切り裂いたけど、薬品はやってないと証言したらしい。同室の人に確認すると、騒ぎが起きた時間に起床していた事が分かった。
「元当主の方だが、多分、俺に対する嫌がらせだ。すまん」
突然、真面目な顔でお義父様が話し出したのは二人の関係。同じ歳で魔力も多く比較される事が多かった。学園での成績や魔法の精度、夜会でのダンスまで。お義父様からみたら“くだらない”と無視していた事だったけど相手は違った。
「俺の魔具を踏みつけたのは、その男だ」
「え?」
「……十年ほど前か……魔眼の暴走で男は足に深い傷を負い、王族に不敬を働いたとして当主の座を下ろされた」
お義父様が泣きそうに顔を歪めながら語ったのは、魔眼を抑える魔具が壊れた時の話だった。
その当時は王族として仕事をしていたお義父様が城内を移動中の事だった。
『貴様が目障りなんだよ!』
廊下を歩いていたお義父様は突然、後ろからそう叫ばれて振り向いた。顔の前を何かが掠めたと思った時には、魔具を盗られ踏みつけられていた。徹夜続きで疲れていたお義父様は、咄嗟に防御しようとして魔力が暴走。相手は左脚に深い傷を負って倒れた。大きな物音に気付いた警備の騎士が駆けつけた時には、二人揃って倒れていたらしい。
「その後、事情聴取で不敬罪が確定した男は、就任して一年程で当主の座を下ろされ、俺はここを出た」
そう言った後、お義父様がもう一度、私に謝った。
「もう謝らないで。悪いのは逆恨みしている元当主なんだから」
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「お義父様、ちょっと手伝って欲し事があるんだけど良い?」
多分、今の私は意地の悪い顔をしていると思うけど、ちょっとお義父様?逃げようとしないでね。
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