上 下
91 / 107
本編

声が出ない

しおりを挟む
 目を覚ますと、荒らされた部屋とは別の部屋で寝ていた。いつの間に寝てた?……ここは何処?

「起きたか」

 橫から聞こえた声に気付いて視線を向けると、ランバートさんが背伸びをして椅子から立ち上がった。

「声は出せるか?」

 彼にそう言われて喉の違和感に気付いた。少し痛みを感じて小さな声で話そうとしたけど、声を出した途端、咳になって言葉にならなかった。

「……まだ話さない方が良さそうだな。部屋に撒かれた薬の影響だ」

 咳が止まらない私の背中を擦りながら彼が教えてくれたのは、魔具が正常に動いて犯人が分かった事と長い時間、薬を吸ったせいで肺や喉が荒れている事だった。だから声が出ないのか……

「水を飲むか?」

 頷くと水の入ったコップを渡してくれた。少しずつ飲んでいるのに喉が痛くて半分も飲めずに、彼にコップを返すと何かと呟いた。

「昨日、薬は飲ませたが回復には時間が掛かるらしい」

 彼がオーウェンさんの薬を飲ませてくれたらしい。薬を飲んだなら問題ないよね。うん?……飲ませたって寝てる私にどうやって?
 疑問が浮かんで彼に尋ね様と思って視線を向けると、左頬が腫れている事に気付いた。え?何で腫れてるの?薬は肺を焼く物だって言ったから関係ないよね?
 状況が理解出来ずに首を傾げていると、彼が私から視線を反らした。……何か隠してる?

「……なに……を……ゴホッ」

 隠す理由を尋ねようと思ったけど、水を飲んだくらいじゃ声は出せなくて、直ぐに咳に変わった。思ったより喉が荒れてるなぁ。

「声を出すな……俺が薬を口移しで飲ませたから師匠に殴られた」

 彼から疑問の答えを聞いて納得した。口移しで飲んだのかぁ………うん?……って事は知らないうちに私キスしたって事!?しかも、お義父様が殴った?驚き過ぎて開いた口が塞がらないよ。しかも、魔力暴走した時も口移しで飲ませたから二回目!?ちょっと待った!一回目の話し今、初めて聞いた!!

「……ごめん……緊急と判断して勝手にやった」

 緊急って事は分かったけど、何で黙ってたの?あー、話せないのは不便!書くもの下さい!身振り手振りで伝えると、紙とペンを持って来てくれた。

『緊急は分かりました。何で教えてくれないんですか?』

 やっと言いたい事が伝えられる。紙にサッと書くと、内容を読んだ彼が頬を指で掻きながら私から視線を反らした。

「……その……気不味くなりたくなくて言えなかった」

『そうじゃなくて、私、お礼言ってない。飲ませてくれて、ありがとうございました』

 私が紙に書いたお礼を読んだ彼が、瞬きを繰り返した後、こっちに視線を戻した。

「怒ってないのか?」

 彼の言葉に頭を縦に振って同意すると、やっと納得したのか笑顔に戻った。
 
『でも、何で殴られた?』

「あ~、師匠の焼きもちと同意無しにキスしたって事らしい」

 ……はぁ?同意無しにキスした……私、寝てるのに?あ!逆か。寝てる私にしたから怒ったって事だよね……仕方なくない?薬を飲まなきゃ今頃、もっと痛いよね?

『でも、緊急だったのに?』

「……頭では理解出来ても気持ち的に納得出来ないって言われた」

 それって子離れ出来ない親バカ?お義父様の言葉と行動に二人揃ってため息を吐いた時、扉を叩く音がしてランバートさんが警戒しながら扉に近付いた。

「誰だ」

「小僧、さっさと開けろ」

 外から聞こえた声はオーウェンさんだった。彼が鍵を開けて中に招くと、頬の腫れに気付いて片眉を上げた。

「なんだ、その無様な顔は」

「師匠のせいですよ」

 “師匠”と聞いてオーウェンさんがため息を叩くと、仕方ないかと呟いて私の傍に来た。

「……筆談していたのか……喉を診せろ」

 私が顔を上げて喉元を開けると、オーウェンさんが手で触れて魔法で状態を確認した。

「喉の腫れは今だけだ。数時間後には声をだせるだろう」

 声が出る様になると言われてホッとしていたら、新しい飲み薬を差し出してきた。……この薬を飲め?……紫色してますが毒じゃないよね?私が受け取りを躊躇っていると、オーウェンさんがランバートさんに視線を向けた。

「自分で飲めぬのなら、小僧に飲ませて貰うか?」

 ニヤリと意地悪な笑みを浮かべたオーウェンさんの手から、慌てて薬を取ると一気に飲み干した。に……苦い……けど喉の痛みが減った?

「この薬は痛み止だ。まだ魔力が回復していないから寝ろ」

 今、起きたのにって思ったけどオーウェンさんが何か呟いたのと同時に、強い眠気がきて私はそのまま眠ってしまった。意識が途切れる寸前、彼らが何か話していたけど意味を理解する事は出来なかった。



『女は牢屋に入れたが男が見付からなかった』


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい

tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。 本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。 人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆ 本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編 第三章のイライアス編には、 『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』 のキャラクター、リュシアンも出てきます☆

死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される

葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」  十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。  だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。  今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。  そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。  突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。  リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?  そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?  わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜

津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」  理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。 身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。  そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。 アリーセは思った。 「これでようやく好きな様に生きられる!」  アリーセには特別な力があった。 癒しの力が人より強かったのだ。  そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。 ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。  これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。

平凡な高校生活を送る予定だったのに

空里
恋愛
高校生になり数ヵ月。一学期ももうそろそろ終わりを告げる頃。 僕、田中僚太はクラスのマドンナとも言われ始めている立花凛花に呼び出された。クラスのマドンナといわれるだけあって彼女の顔は誰が見ても美人であり加えて勉強、スポーツができ更には性格も良いと話題である。 それに対して僕はクラス屈指の陰キャポジである。 人見知りなのもあるが、何より通っていた中学校から遠い高校に来たため、たまたま同じ高校に来た一人の中学時代の友達しかいない。 そのため休み時間はその友人と話すか読書をして過ごすかという正に陰キャであった。 そんな僕にクラスのマドンナはというと、 「私と付き合ってくれませんか?」 この言葉から彼の平凡に終わると思われていた高校生活が平凡と言えなくなる。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...