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本編

くだらない理由 side ランバート

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「理由を話して貰おうか」

 俺が一歩、踏み出せば女は更に下がる。師匠を避けて横に逃げようとして、オーウェン殿の目の前で動きを止めた。

「話す気が無いならばコレを使うが良いか、魔眼の主よ」

 オーウェン殿が懐から出したのはエルフの飲み薬。何の薬が入っているのか分からないが、黒い液体がビンの中で揺れていた。師匠は中味が分かったのか顔色が変わるが、女は分かっていない様で震えながらビンを見詰めていた。

「私の責任で許可致します。“真実の語り”を飲ませましょう」

「真実の……かた……り……ッ!!」

 初めて聞いたその薬は、一度飲めば一生、真実しか話せなくなるという。隠したい相手の為の小さな嘘すら言えなくなる。その薬を使う意味を知った女の態度は急に変わった。話すから止めてくれと師匠の足元にすがり付きながら、部屋を荒らした事を認め理由を話し始めた。

 理由はイリーナが羨ましかったから。平民が上位貴族と同じ扱いを受け、貴族である自分は家の都合で汗水垂らして働くなんて可笑しい?しかも、俺が彼女の傍に居ることが悔しい?王族や上位貴族なら納得出来ただと……

「……くだらない」

 一言だ。その一言に尽きる。俺の隣に誰が居るかは俺自身で決める。他人にとやかく言われる筋合いは無い。

「勇者様ほどの方が平民を選ぶ理由は何ですか!もっと高貴な方や役に立つ方は他にもおります」

「あ?高貴?役に立つ?だからどうした?」

「おい、地が出てるぞ」

 師匠、地が出てるからなんだってんだよ。ご丁寧な話し方なんざ、ヤってられるか!

「知るか……クソ女、鬱陶しい視線を向けてきてウゼェんだよ」

 貴族だ高貴だ?知るか。俺の出自しゅつじを知らないのか……俺の言葉が変わった事に気付いた女は、目を大きく開いて驚いたようだ。勝手に理想の勇者様を押し付けられても迷惑なんだよ。

「俺も平民だから、そんなもん関係者ない。それとも、お前に彼女以上の何があるか?」

「わ、私も貴族です!他の貴族との繋がりもあります」

「だから?そんなもん、要らねぇよ」

 俺の必要無いと言う言葉に驚いているのか目を丸くしている。貴族の繋がりが全てではないと理解出来ないのか、“あり得ない”と何度も呟いていた。

「大体、俺に触れもしない人間が隣に必要か?」

 そう言うと、女は弾かれた様に勢いよく顔を上げて俺の顔を見た。今更、驚く事か?有名だろうが、俺の魔力が周囲に影響を与える事は……

「彼女は触れると言うのですか!!」

 さっきからギャーギャー煩い。……見せれば大人しくなるか?まぁ、どうでも良い。彼女以外の女など……

「……これ以上、彼女を傷つけたら……貴様を消す」

 殺気を孕んだ俺の言葉を聞いた女が、目を見開いた後、フラッと床に倒れた。気絶したか弱いな。

「やっと静かになったか」

 オーウェン殿が大きなため息を吐き出すと、薬を片付けると別の飲み薬を取り出した。

「小僧、イリーナに飲ませろ」

 彼から薬を受け取ると、師匠と共に女の後始末をすると言って揃って部屋を出て行った。師匠が言うにはこの屋敷の物は国の財産だから、女は国益を損ねた行動として厳しい罰が下るらしい。後は国の仕事か……



 二人だけ残された静かな室内に、彼女の苦し気な息遣いだけが聞こえる。手の中にある薬を見ていた俺は、後で師匠に殴られる覚悟を決めた。

「……イリーナ、身体を少し起こすぞ」

 彼女の背中に腕を挿し込み上半身を起こすと、薬を口に含み口移しで飲ませた。少しの呻き声の後、薬を飲み込む音がする。口の中に薬が残っていない事を確認した後、再び彼女の身体を横たえた。

「う~ん……ランバートさん?」

「あぁ」

 目を覚ました彼女はボンヤリしていて、視線が定まっていない。

「……わ……たし……どうし……ゴホッ」

 何か話そうとした彼女が咳き込む。彼女の背中を擦りながら、落ち着くまで待った。

「今は声を出すな。部屋に撒かれた薬品で肺に影響が出ている。魔具のお陰で犯人は分かったから後は任せろ」

 言葉を聞いた彼女が黙って頷くと、布団から手を出して俺の腕に触れた。その手を握り締めると、安心したように微笑んだ彼女は再び目を閉じた。直ぐに寝息が聞こえ始める。薬の効果か少しだけ呼吸が落ち着いている事に安堵した俺は、彼女の手を布団に戻すと、ベッドの橫の椅子に座った。


次は男の方だな……
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