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本編
闇の中で見付けたモノ
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「イリーナ、後ろ!」
「え?」
ランバートさんの声に反応して振り返った時には腕を捕まれていた。驚いた次の瞬間、私の目の前は真っ黒いモノに覆われて意識を失った。
バチ、バチ、バチ
何が弾ける様な音で意識を取り戻すと、左腕を押さえて踞る魔物がいた。見た事のない石壁の薄暗い部屋の中で寝かされているらしい。お義父様とオーウェンさんが付加した防御魔法に弾かれた魔物の腕から黒い体液が流れている。
「っ……おのれクソガキ……エルフ迄も仲間にし私の行く末を阻むか」
魔物は私が意識を取り戻した事に気付かず、フラフラと歩きながら部屋を出て行った。何が動く音がして部屋が真っ暗になる。足音が聞こえなくなってから身体を起こすと、木の骨組みだけのベッドの上だった。
「ここは……」
顔を動かして辺りを見回すけど暗すぎて手元しか見えない。手元しか?どうして手元が見えるの?
浮かんだ疑問は直ぐに答えが出た。ドレスの中に隠している護り石が、ボンヤリと光っていた。
「ランバートさん」
服の上から護り石に触れると仄かに温かい気がする。護り石の温もりに元気を貰って、もう一度辺りを見回すと小さな一人用の丸い机と椅子が見える。その机の上には何が置いてあった。ゆっくりと足元に気をつけながら近付くと、ガラスの容器の中には液体の中に浮かぶ手が見えた。声が出そうになったのを、自分で口元を押さえて堪える。脚が小刻みに震えて前に進めなかった。大きな手……まさかコレが魔王さんが言ってた
「魔王さんの一部?」
小さな呟きに反応するように指が微かに動く。目玉と話が出来たのと同じ様に意志疎通が出来るのかもしれないと思った私は小さな声で質問をしてみた。
「もしかして魔王さんの子供さん?」
私の問いに先程より大きく指が動く。言葉は出ないけど意思はあるらしい。
「魔王さんがあなたを待ってるよ。お父さんの所に帰ろうよ」
今までで一番ハッキリと指が動いた。そうだよね。こんなに暗い所で一人は嫌だよね、家族の元に帰りたいよね。
『……カ……エル』
絞り出す様な声で返事が聞こえた。私は小さなこの子が両親に囲まれて、大きな声で笑う姿を想いながらガラス容器に触れた。
「お父さんも、お母さんも待ってるよ」
『オ……トウ……オカ……ア』
この子が泣いてる気がして、私は両手で包む様に手を動かした。抱き締めてあげたいけど、容器の中では出来ない。蓋が開くか分からないけど、容器の上を触るとパンッと乾いた音と共にガラス容器が弾けた。
「え!?ど、どうしよう……」
中の液体が机の下に溢れて辺りはびしょびしょに濡れたけど、腕は空中に浮いたままだった。目玉の時と同じ様に手を差し出すと、腕が動いて私の手を掴んだ。
「さぁ、帰ろう」
そう言うと腕が痛いくらいの強さで私の手を握り返した。宥める様に腕を擦ると淡い水の様な光と共に、空気に溶ける様に静かに消えた。
『ありがとう』
小さな男の子の声で、そう聞こえた気がした。
「貴様!!主の身体を何処へやった!」
「え?」
ランバートさんの声に反応して振り返った時には腕を捕まれていた。驚いた次の瞬間、私の目の前は真っ黒いモノに覆われて意識を失った。
バチ、バチ、バチ
何が弾ける様な音で意識を取り戻すと、左腕を押さえて踞る魔物がいた。見た事のない石壁の薄暗い部屋の中で寝かされているらしい。お義父様とオーウェンさんが付加した防御魔法に弾かれた魔物の腕から黒い体液が流れている。
「っ……おのれクソガキ……エルフ迄も仲間にし私の行く末を阻むか」
魔物は私が意識を取り戻した事に気付かず、フラフラと歩きながら部屋を出て行った。何が動く音がして部屋が真っ暗になる。足音が聞こえなくなってから身体を起こすと、木の骨組みだけのベッドの上だった。
「ここは……」
顔を動かして辺りを見回すけど暗すぎて手元しか見えない。手元しか?どうして手元が見えるの?
浮かんだ疑問は直ぐに答えが出た。ドレスの中に隠している護り石が、ボンヤリと光っていた。
「ランバートさん」
服の上から護り石に触れると仄かに温かい気がする。護り石の温もりに元気を貰って、もう一度辺りを見回すと小さな一人用の丸い机と椅子が見える。その机の上には何が置いてあった。ゆっくりと足元に気をつけながら近付くと、ガラスの容器の中には液体の中に浮かぶ手が見えた。声が出そうになったのを、自分で口元を押さえて堪える。脚が小刻みに震えて前に進めなかった。大きな手……まさかコレが魔王さんが言ってた
「魔王さんの一部?」
小さな呟きに反応するように指が微かに動く。目玉と話が出来たのと同じ様に意志疎通が出来るのかもしれないと思った私は小さな声で質問をしてみた。
「もしかして魔王さんの子供さん?」
私の問いに先程より大きく指が動く。言葉は出ないけど意思はあるらしい。
「魔王さんがあなたを待ってるよ。お父さんの所に帰ろうよ」
今までで一番ハッキリと指が動いた。そうだよね。こんなに暗い所で一人は嫌だよね、家族の元に帰りたいよね。
『……カ……エル』
絞り出す様な声で返事が聞こえた。私は小さなこの子が両親に囲まれて、大きな声で笑う姿を想いながらガラス容器に触れた。
「お父さんも、お母さんも待ってるよ」
『オ……トウ……オカ……ア』
この子が泣いてる気がして、私は両手で包む様に手を動かした。抱き締めてあげたいけど、容器の中では出来ない。蓋が開くか分からないけど、容器の上を触るとパンッと乾いた音と共にガラス容器が弾けた。
「え!?ど、どうしよう……」
中の液体が机の下に溢れて辺りはびしょびしょに濡れたけど、腕は空中に浮いたままだった。目玉の時と同じ様に手を差し出すと、腕が動いて私の手を掴んだ。
「さぁ、帰ろう」
そう言うと腕が痛いくらいの強さで私の手を握り返した。宥める様に腕を擦ると淡い水の様な光と共に、空気に溶ける様に静かに消えた。
『ありがとう』
小さな男の子の声で、そう聞こえた気がした。
「貴様!!主の身体を何処へやった!」
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