[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ

文字の大きさ
上 下
75 / 107
本編

妖精の様な悪魔 side ランバート

しおりを挟む
 予定よりも早く始まった劇団の公演。妖精の様な女性が、森の中で倒れていた男性を助け介抱する。そんな始まりの物語は歌と踊りを交えて話が進む。回復した男性が実は隣国の貴族で命を狙われ、再び毒矢を受けて倒れる。倒れた男性にすがり嘆き悲しむ女性が立ち上がった次の瞬間、窓ガラスの割れる音と共に何が入って来た。
 広間に響く悲鳴、近衛兵が誘導して広間の人々を外へと避難させる。出口へと向かう人々と反対に、俺達は入って来た何かと対峙した。

「来たか」

 上着を脱いで剣を構える。ゆっくりと立ち上がった何かは、黒い髪と瞳を持つ男性の姿でイリーナを見た後、俺に視線を向けた。

「クソガキ」

 そう言った男性を無視して、小さな舞台に向かって走り出す。その先には妖精の様な女性が劇団員が逃げ惑う中で、いまだに微笑みながら立っていた。下手な変装はするもんじゃないな、魔物。
 混乱するイリーナの目の前で女性に斬りかかると、微笑みながら素手で剣を弾いた。

「もうバレたか、クソガキ」

「黙れ大根役者」

 妖精の様な愛くるしい笑顔で舞台衣装のまま上げた手は、爪が伸び刃物の様になっていた。変装は解かないのか?コイツの本性はどれだか知らんが……

「右腕は使えんらしいな」

 左手だけ爪を伸ばし右手はそのまま。俺の後ろに立つイリーナにニヤリと嫌な笑みを向けた。以前の戦いでの後遺症か、それとも油断を誘う作戦か……どちらにしても

「貴様は殺す」

「はっ!殺ってみろクソガキ」

 その言葉を合図に打ち合いが始まった。剣を振り下ろしても爪で弾き返す。視線は動かさず足元を払えば飛び上がり回避された。やはりコイツは違う。

「貴様の手の内なんぞお見通しだ」

 そう言った次の瞬間、俺を跳び越えてイリーナの元に向かった。しかし、彼女の前には新た人物がいた。甘いのはどっちかな。

「待っていたぞ、魔物」

「なっ!エルフ!!」

「バーカ、彼女が狙いと分かってて一人にするかよ!」

 オーウェン殿に気を取られた隙に後ろから斬りかる。身体を捻って避けたが、変装のせいで間合いが上手く取れず剣先が背中を掠めた。クソ!踏み込みが足りなかったか!

「チッ」

 思わず出た舌打ちと共に剣に魔力を溜めながらイリーナの前に移動した。最初に窓から入って来た偽者が、魔物の側にはいくとヤツに吸い込まれて、俺の見慣れた黒い髪と憎悪が浮かぶ黒い瞳で睨んできた。

「我が主の復活の為、娘を寄越せ!」

 叫び共に魔力の塊が飛んで来る。剣で弾きながら再びヤツの懐に飛び込み腹に剣を突き立てた。

「クッ……」

 口の端から魔物特有の黒い体液が溢れる。しかし、手応えが無さすぎて警戒して俺は、直ぐに剣を抜くと後ろに跳び下がった。ボタボタと体液を流しながら口の端が僅かに上がる。警戒を強めろと言わんばかりに剣の魔石が激しい光を放った。

『奴ハ本体デハナイ!』

 ドラゴン殿の言葉を聞いて、反射的に魔力を広げて探せばイリーナの背後に新たな気配を発見した。

「イリーナ、後ろ!」

「え?」

 俺の声に反応した彼女が振り返った時には遅かった。ヤツが彼女の手首を掴むと駆け付けた俺の目の前で闇の中に一瞬で消えた。振り下ろした剣が床に当たり大きな音が響く。



俺の目の前でイリーナはヤツに拐われてしまった



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

身分違いの恋に燃えていると婚約破棄したではありませんか。没落したから助けて欲しいなんて言わないでください。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるセリティアは、ある日婚約者である侯爵令息のランドラから婚約破棄を告げられた。 なんでも彼は、とある平民の農家の女性に恋をしているそうなのだ。 身分違いの恋に燃えているという彼に呆れながら、それが危険なことであると説明したセリティアだったが、ランドラにはそれを聞き入れてもらえず、結局婚約は破棄されることになった。 セリティアの新しい婚約は、意外な程に早く決まった。 その相手は、公爵令息であるバルギードという男だった。多少気難しい性格ではあるが、真面目で実直な彼との婚約はセリティアにとって幸福なものであり、彼女は穏やかな生活を送っていた。 そんな彼女の前に、ランドラが再び現れた。 侯爵家を継いだ彼だったが、平民と結婚したことによって、多くの敵を作り出してしまい、その結果没落してしまったそうなのだ。 ランドラは、セリティアに助けて欲しいと懇願した。しかし、散々と忠告したというのにそんなことになった彼を助ける義理は彼女にはなかった。こうしてセリティアは、ランドラの頼みを断るのだった。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

処理中です...