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本編

箱の中身

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 夜になって私達は、中庭で見付けた黒い箱の様なモノを囲んで様子を見ていた。夕食前にオーウェンさんが森から戻って来てくれて、今も一緒に箱を見ている。

「隠す為か、今は何も感じない」

 エルフの鑑定でも中身が分からない謎の箱の様なモノは、外から魔石や鍵穴も見当たらず開ける事も出来ずにいた。夜になっても変化は無く、徐々に間違いだったのかと不安になってきた時だった。カチッと小さい音が鳴り箱の様なモノが動き出す。板がズレて隙間から丸い物体が見えた時、私はランバートさんの大きな手で目隠しされた。

「見ない方が良い……これは酷い」

「あぁ、小僧の判断は正しい。奴は何人、あやめたか計り知れんな」

 お義父様とオーウェンさんが結界を強化する声が聞こえる。二人係で閉じ込めたのは、亡くなった人々の怨念だと言っていた。

「中身は亡くなった人々の身体の一部だ。しかし、人間だけでココまで魔力が高まるとは……」

 オーウェンさんが疑問を言葉にした時、ガタンと大きな音がした後で結界が壊れる音が聞こえた。

『ミツケタ、ミツケタ……ミコ……ケシテ』

 私とランバートさんの周りを何かが話ながら飛び回る気配がする。

『ケシテ、ケシテ。ミコ、ハヤク、ケシテ』

「ミコ?誰の事?」

 私が思わず聞き返した時、ランバートさんの手に力が入った。

『ミコ、オマエダ。ヒイロノミコ、ケシテ』

 私がミコ?ミコって何?私が訳も分からないまま、飛び回るモノに手を伸ばすと生暖かい何かが乗る。

『ジョウカ、ハヤク、ハヤク』

「ジョウカって……浄化の事?分からないわ」

『ミコ、デキル』

 言葉を覚えたての幼い子供の様な話し方で何かが話し掛ける。その正体が見たくて、私はランバートさんの手を動かそうと、何も乗せていない手を重ねた。

「お前、魔王の目玉か?」

 彼に重ねた手から緊張が伝わる。目玉って言っていたよね?私に話し掛けているものが目玉?口も無いのに?

『ソウダ。ケシテ』

「剣で斬った時、浄化しただろう」

『ジョウカノマエニ、ツカマッタ。ハヤク、ケシテ。ツカマルマエニ』

 繰る返し『ケシテ』と言う目玉が泣いている気がして胸が苦しい。どうしたら良いんだろう……想いが発動の切っ掛けになるなら、目玉の幸せを願えば良いの?

『……ミコ、ナゼ、ナク?』

「泣いているのは貴方でしょう?もう良いよ。我慢しなくて良いよ。いっぱい泣いて気が済んだら帰ろう?」

『カエル?ドコニ?』

「家族の元に」

 私の言葉を聞いて目玉が黙る。私の手に目玉から微かな震えが伝わってくる。

 『カゾク……カエリタイ……』

 手の中で震える目玉を、両手で包み込む様に掴んだ。誰かの息を飲む音が聞こえる。ランバートさんが目隠ししていた手を放すと、私の目の前には手の中で震えて濡れる赤い瞳の目玉があった。その姿はまるで迷子の幼子の様で、魔王と言われても分からなかった。

「そうだね……帰ろうか」

『ウン、カエル』

 シューッと何かが蒸発する様な音が聞こえ始めると、目玉の周りに黒いモヤモヤしたものが現れた。それは目玉を飲み込もうと動き始める。直ぐ様、オーウェンさんが結界でモヤを閉じ込めて、ランバートさんが剣で切ると弾け飛ぶ様に結界と一緒に消えた。

『……』

 目玉はモヤが完全に消えるまで黙って見届けると、再び震えて濡れる。私は震えが治まるまで待っていた。

『ゴメンナサイ……ゴメンナサイ』

 小さな声で謝罪を繰り返す目玉を指先でソッと撫でる。泣いている子供の背中を撫でる様に、ゆっくりと撫でているといつの間にか震えは止まっていた。

『オネガイ、ゼンブ、ケシテ』

「全部って、まだあるの?」

『アル。クライドコカニアル』

「約束するよ。必ず消すから、もう帰ろうか?」

『ウン、カエル。アリガト』


 私の手の中で一瞬だけ震えた目玉は霧の様に溶けて消えていった。

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