[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ

文字の大きさ
上 下
57 / 107
本編

悪夢 sideランバート

しおりを挟む
『ランバートさん』

うん?イリーナか、どうした?

『ほら、見て……私の心臓……取られちゃった』

 胸に穴を開け口から血を流すイリーナが笑う。ガラス玉の様な眼で俺を見詰め、そして、責める。

『貴方のせいで……魔物に襲われたよ』

 違う!コレは現実じゃない……夢だ。分かっている。ヤツの仕業だ。魔王の配下の一人、夢を操り心を支配する。唯一、仕留め損ねたアノ魔物。……クソ!イリーナの顔がチラついて集中出来ない……何処だ?ヤツは何処にいる。

『護るって言ったのに……ランバートさんの嘘つき』

 イリーナが、ガラス玉の様な眼から涙を流す。
……その姿で言うな……止めろ……止めろ!!
 何度も視た夢の中の光景と分かっていても彼女の涙が俺の心を抉った。


『人殺し!もっと早く来てくれれば、お母さんは助かったのに!』

 イリーナだけだった筈が、何時の間にか人が増えてきた。

魔物に襲われていた村の子供。

家族を亡くした父親。

 次々、現れては俺を責める。遅いと、もっと早くと何度、言われただろう……俺一人では限界だと思った。だが、仲間になりたいと言った魔法使いは、俺の傍では魔力に圧されて魔法が使えないと言って去った。俺の怪我を治そうとした何処の国の聖女は、触れないと治療出来ず真っ青な顔で一言。

『化け物!』

 そう叫んで走り去った。俺の魔力が人を傷付ける。家族も友と呼びたかったアイツも……俺は……


『確りしなさい!娘を護るって言ったでしょ!!』

……娘?誰だ、アンタ。護る?……あぁ、イリーナ……そうだ……俺は見付けたんだ。

……俺の唯一を……



 勢いよく身体を起こすと、汗で服が湿っていた。少し上がる息を整える。点滅するの蒼い光に気付いて視線を向けると、剣の魔石が強い光で点滅している。こんな事は初めてだ。

「ドラゴン殿、どうした?」

『奴ノ気配ガスル……何処ダ?』

「奴?魔王の配下の事か?」

『アア、ソ奴ダ。夢ヲ操ル……我ノ仇』

 仇?ドラゴン殿に何があったかは知らんが、誰だか知っているようだ。執念深いく慎重で厄介な相手は、もう五年ほど姿を見せていない。魔力を練り上げ広げて探したが、王都一帯に魔物の気配はない。
 遠隔か?この城の何処かにヤツの魔力を中継する魔具がある筈だ。もう一度、魔力を練り上げようとしたが、魔力を集まらず失敗に終わった。

「何だ……魔力が……掴めない?」

 今まで無尽蔵にあった溢れる自分の魔力を感じ取れない。手のひらに魔力を集めてみても、纏まる事なく指の間から零れ落ちる。産まれて初めて自分の魔力が足りないと感じた俺は、戸惑いと不安を感じた。

「どうすれば魔力は回復する?」

『人ナラバ、睡眠ト食事ダ。奴ノ狙イハ、回復阻止ダロウ』

 回復阻止と言われて気づいた。俺は悪夢を視る様になってから一晩、寝ていた事があったか?寝ては起きて、再び寝て、また、起きる……

「もう一ヶ月は真面まともに寝てないな……」

『限界ガ近イゾ。友ハ、マダ帰ラヌノカ』

 何処と無く焦った印象のドラゴン殿の声が、やけに頭に響く。昔は、こんな事が何度もあったが……あぁ、そうか……イリーナと出会ってから、彼女が傍で寝る様になってから視ていなかった。

 情けねぇな。俺は歳下の彼女に助けて貰ってばかりだ。早くなんとかしねぇと後、一ヶ月半で彼女の御披露目パーティーだ。


その前に中継する魔具を探し出してぶっ壊す。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

処理中です...