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本編
散歩
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騎士団の魔具の修理を始める時に、忙しくなるからとダンスの練習とマナー講座は三日に一回に変更になった。ところが、魔力が回復したお陰か、以前より修理の速さが上がり倉庫に積み上げられていた魔具の修理は五日で終了した。
最初の予定では一ヶ月は掛かると考えていた王様と団長さん。どうせならと団員が現在、使用中の魔具の点検と補修もする事になり、休日の人や休憩時間中に騎士団の食堂の片隅に座って受け付けしている。団員の休憩時間が終わったから、今日の分は終了。今は、ランバートさんの迎えを待っていた。
「イリーナ」
彼の声が聞こえて顔を上げると、彼がドアから顔だけを覗かせている。私は食堂を出て彼の案内で、城壁内の中庭へ向かった。本当の事を言えば、城下を散策したり観光だってしたいけど襲撃を考えると迂闊に外へは出れなかった。
「凄い!噴水がある」
「屋台が無いのが残念だがなぁ」
「お昼は食べていないのですか?」
彼は唸りながら食べても足りないと言った。私が作ったご飯を食べた時はなかった、飢えや渇きを感じるらしい。回復効果のせいかなぁ?
「最近は……味がしない気がして」
「ランバートさん、それは別の理由がありそうですね。オーウェンさんの丸薬を飲みますか?」
ウッと小さな声が漏れる。前回、知らなかったけど、苦味を残したままで丸薬を作ったらしい。二度と飲みたくないとか。でも、味がしないのは絶対に可笑しいよ。
噴水の傍の日陰にあるベンチに並んで座ると、彼は背もたれに身体を預けて天を見上げて息を吐き出した
「疲れているなら帰りましょう」
大丈夫と繰り返すけど、彼の目の下には隈が出来ていて明らかに可笑しい。何を聞いても答えてくれない彼に、私は一つの提案をした。
「隣に居ますから、少し寝て下さい」
「いや、イリーナが暇だろう?」
「貴方の体調の方が心配ですよ」
苦笑いで返すと、渋々頷いた彼がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ、膝かして」
「へ?膝?」
ベンチから足を投げ出し頭を私の膝の上に乗せた彼が目を閉じる。あーと一言漏らした後、直ぐに静かになった。長い睫毛に縁取られた蒼い瞳は見えなくなって、規則正しい寝息が聞こえる。やっぱり疲れてたんだ……仕事が忙しいのかなぁ。
歳上の彼が目を閉じると少し幼く見えた。そのせいか、無意識に彼の頭を撫でていた。さらさらで艶やか、羨ましい髪……
『コ奴ハ寝タカ?』
「寝ましたよ、ドラゴンさん。静かに」
『済マヌ。オ主ニハ話サネバナラヌ事ガアル』
彼の腰に差してあるドラゴンさんの剣。小さな声で話始めたのは、最近の彼の様子。毎晩、悪夢に魘される彼は、夜中に何度も飛び起きているらしい。しかも、悪夢の原因は……
「魔王の配下が生きている?」
『恐ラク、我ガ探シテイル魔物ダ』
「探して?……ドラゴンさんが会った事があるの?」
『アル。奴ハ執念深イ……嫌ナ感ジガスル』
ドラゴンさんは小さな声で、だけどハッキリと魔物だと言った。執念深いって……彼に復讐しているって事?それとも病気?……もっと私も役にたてたら良いのに。今度、お菓子でも作ろうかな?食べたら少しは元気になってくれるかな。
「私も気を付けますね」
『頼ムゾ……コ奴ハ、良イ嫁ヲ持ッタナ』
……嫁?……え?誰が?へ?わ、わ、私!?……まさかお義父様が嫉妬したって言ったのもコレが原因!!待って!そんな話してないから!ドラゴンさん聞いてる!え?旅の話しただろう?しましたよ。両親の話ですよね。一緒に旅をするんだろう?……あ、アレ……そう言う意味!!
ドラゴンさんからの指摘で、顔が真っ赤になった頬を両手で押さえる。急に恥ずかしくなって、今更ながら彼の顔が真面に見れない。一人で焦る私に、ドラゴンさんはため息を吐いて何か言ってたけど、聞いてる余裕なんてなかった。
『コ奴モ、不憫ヨノ』
最初の予定では一ヶ月は掛かると考えていた王様と団長さん。どうせならと団員が現在、使用中の魔具の点検と補修もする事になり、休日の人や休憩時間中に騎士団の食堂の片隅に座って受け付けしている。団員の休憩時間が終わったから、今日の分は終了。今は、ランバートさんの迎えを待っていた。
「イリーナ」
彼の声が聞こえて顔を上げると、彼がドアから顔だけを覗かせている。私は食堂を出て彼の案内で、城壁内の中庭へ向かった。本当の事を言えば、城下を散策したり観光だってしたいけど襲撃を考えると迂闊に外へは出れなかった。
「凄い!噴水がある」
「屋台が無いのが残念だがなぁ」
「お昼は食べていないのですか?」
彼は唸りながら食べても足りないと言った。私が作ったご飯を食べた時はなかった、飢えや渇きを感じるらしい。回復効果のせいかなぁ?
「最近は……味がしない気がして」
「ランバートさん、それは別の理由がありそうですね。オーウェンさんの丸薬を飲みますか?」
ウッと小さな声が漏れる。前回、知らなかったけど、苦味を残したままで丸薬を作ったらしい。二度と飲みたくないとか。でも、味がしないのは絶対に可笑しいよ。
噴水の傍の日陰にあるベンチに並んで座ると、彼は背もたれに身体を預けて天を見上げて息を吐き出した
「疲れているなら帰りましょう」
大丈夫と繰り返すけど、彼の目の下には隈が出来ていて明らかに可笑しい。何を聞いても答えてくれない彼に、私は一つの提案をした。
「隣に居ますから、少し寝て下さい」
「いや、イリーナが暇だろう?」
「貴方の体調の方が心配ですよ」
苦笑いで返すと、渋々頷いた彼がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ、膝かして」
「へ?膝?」
ベンチから足を投げ出し頭を私の膝の上に乗せた彼が目を閉じる。あーと一言漏らした後、直ぐに静かになった。長い睫毛に縁取られた蒼い瞳は見えなくなって、規則正しい寝息が聞こえる。やっぱり疲れてたんだ……仕事が忙しいのかなぁ。
歳上の彼が目を閉じると少し幼く見えた。そのせいか、無意識に彼の頭を撫でていた。さらさらで艶やか、羨ましい髪……
『コ奴ハ寝タカ?』
「寝ましたよ、ドラゴンさん。静かに」
『済マヌ。オ主ニハ話サネバナラヌ事ガアル』
彼の腰に差してあるドラゴンさんの剣。小さな声で話始めたのは、最近の彼の様子。毎晩、悪夢に魘される彼は、夜中に何度も飛び起きているらしい。しかも、悪夢の原因は……
「魔王の配下が生きている?」
『恐ラク、我ガ探シテイル魔物ダ』
「探して?……ドラゴンさんが会った事があるの?」
『アル。奴ハ執念深イ……嫌ナ感ジガスル』
ドラゴンさんは小さな声で、だけどハッキリと魔物だと言った。執念深いって……彼に復讐しているって事?それとも病気?……もっと私も役にたてたら良いのに。今度、お菓子でも作ろうかな?食べたら少しは元気になってくれるかな。
「私も気を付けますね」
『頼ムゾ……コ奴ハ、良イ嫁ヲ持ッタナ』
……嫁?……え?誰が?へ?わ、わ、私!?……まさかお義父様が嫉妬したって言ったのもコレが原因!!待って!そんな話してないから!ドラゴンさん聞いてる!え?旅の話しただろう?しましたよ。両親の話ですよね。一緒に旅をするんだろう?……あ、アレ……そう言う意味!!
ドラゴンさんからの指摘で、顔が真っ赤になった頬を両手で押さえる。急に恥ずかしくなって、今更ながら彼の顔が真面に見れない。一人で焦る私に、ドラゴンさんはため息を吐いて何か言ってたけど、聞いてる余裕なんてなかった。
『コ奴モ、不憫ヨノ』
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