49 / 107
本編
あの時の言葉は
しおりを挟む
ランバートさんに部屋まで送ってもらった私は、リリーさんと髪飾りを外して着替えた。
「勇者様、ずっと笑顔でしたね」
「ランバートさん、いつも笑顔ですよ。あと子犬みたいな時もありますよ」
「え?子犬……ですか……想像出来ませんね」
驚きの表情で私を見る彼女に笑いが漏れる。前の町であった出来事を話すと、また想像出来ないと言っていた。
「では、お茶をおいれ致します」
彼女が紅茶をいれた後、部屋を出て行く。一人、椅子に座ってお茶を飲みながら、フッと王妃様の庭で微かに聞こえた言葉を思い出した。
『俺と一緒じゃ、ダメか?』
そう聞こえた気がして驚いてランバートさんの顔を見たけど、その後、彼は違う事を言った。聞き間違いだったのかなぁ?……結局、王太子殿下が来たから何も確認出来なかったけど……少しは期待しても……良いですか?
その日の夕食は全員が揃って食べると連絡が来て、案内された部屋はホールと言ってもいい程、広い部屋だった。しかも、私の席はお義父様とランバートさんの間。え?向かい側に王太子殿下がいますが……顔が変わってませんか?回復魔法はどうしたの?傷痕が残らない?
肩を落として向かい側に座る王太子の姿に、私が二人の顔を交互に見るとランバートさんが苦笑いしていた。
「ランバートさん……一体、何事ですか?」
「王様から話があるから待ってて。それと殿下は師匠の稽古のせいだよ」
「え?でも……後で行ったんですよね?」
王妃の庭から戻る時、自分も行くって言った彼が何も知らない筈は無いと思うけど笑顔で何も言わない。王様からの話と関係しているのかなぁ?オーウェンさんも着たけど殿下をチラッと見ただけで、いないかのように私達にしか話し掛けない。本当に、どうなってるの?
頭の中が疑問符だらけになった時、王様と王妃様が到着して夕食を開始した。和やかな雰囲気の中で、王様が私に警備態勢を謝罪した。急な謝罪に驚いていると、私が使用していた部屋だけが、外からの侵入感知機能が作動しなくなっていたらしい。今の部屋は全て確認してあるが、犯人が分からないなから滞在中は定期的に点検をする事になったと言った。今度は……誰が?
「イリーナ、不安か?」
ランバートさんに話し掛けられて、顔を上げると彼が心配だという表情で私を見ていた。また……迷惑を……
「迷惑なんて思わないで、不安や恐怖を感じたら素直に、そう言ってくれ」
「え?」
驚いていると、眉を下げて少し困った様な表情をした。
「俺は鈍いから気付かずに、手遅れになるなんて事したくない」
「ランディーの言う通りだ。リナ、こう言う時は素直に、ありがとうだろう?」
困惑する私に二人が苦笑いをしている。言うと嫌がるだろうけど、二人はそっくりだよね。
「……ありがとうございます」
嬉しくて自然と笑顔に変わる。お母さん、私、今まで何を見てたんだろうね。こんなに心配している人がいるのに気付かないなんて……本当に鈍感だね。
「さて、それとは別なのですが……」
そう言って王様が話し始めた。え?殿下の再教育?師匠とランバートさんが稽古を毎日する?怪我を治すかどうかは私が決める?……どうして、そんな話しになったんですか!?
「イリーナには、回復魔法がある」
そう言って続きを話し始めたのはオーウェンさんだった。祖母は今、魔法が使えない。回復魔法は貴重な魔法だが、心が綺麗で正しい者にしか使えない。祖母は欲深い人だったから、お母さんを産んだ辺りから使えなくなったらしい。
「魔法の練習相手がいるだろう」
オーウェンさん、一国の後継者を練習に使うのは、どうなんですか?エルフには関係無いと?そうでした。エルフは国を持たないから執着が無いんでした。
「お前は料理をする時、何を考えて作る?」
オーウェンさんに問われて改めて考える。料理をする時は……元気になって欲しい、美味しく食べて欲しいかな?
「その想いが魔法発動の切っ掛けになる筈だ」
「はい、やってみます」
今、やってみた方が良いと言われて、魔具を修理する時みたいに手の中に魔力を集めて……形が無いと魔力が外に流れる……形、魔力を纏める形……あ!丸薬!
頭の中で丸い玉を思い浮かべると、手の中の魔力が小さく集まる感覚が伝わる。魔力の流れが止まってから目を開けると、白い丸薬が出来ていた。
「出来た……?」
全員の視線が私の手の中の白い丸薬に集まる。オーウェンさんも目を見開いて驚いていた。オーウェンさんの鑑定の結果、回復効果は料理より大きいけど完全回復ではないらしい。それでも殿下に飲ませたら顔が元通りに治った。
「おや、おや。一回で成功するとは流石、兄上の娘です……これで舞台は整いましたね」
……王様、舞台が整ったって何の話ですか!!
「勇者様、ずっと笑顔でしたね」
「ランバートさん、いつも笑顔ですよ。あと子犬みたいな時もありますよ」
「え?子犬……ですか……想像出来ませんね」
驚きの表情で私を見る彼女に笑いが漏れる。前の町であった出来事を話すと、また想像出来ないと言っていた。
「では、お茶をおいれ致します」
彼女が紅茶をいれた後、部屋を出て行く。一人、椅子に座ってお茶を飲みながら、フッと王妃様の庭で微かに聞こえた言葉を思い出した。
『俺と一緒じゃ、ダメか?』
そう聞こえた気がして驚いてランバートさんの顔を見たけど、その後、彼は違う事を言った。聞き間違いだったのかなぁ?……結局、王太子殿下が来たから何も確認出来なかったけど……少しは期待しても……良いですか?
その日の夕食は全員が揃って食べると連絡が来て、案内された部屋はホールと言ってもいい程、広い部屋だった。しかも、私の席はお義父様とランバートさんの間。え?向かい側に王太子殿下がいますが……顔が変わってませんか?回復魔法はどうしたの?傷痕が残らない?
肩を落として向かい側に座る王太子の姿に、私が二人の顔を交互に見るとランバートさんが苦笑いしていた。
「ランバートさん……一体、何事ですか?」
「王様から話があるから待ってて。それと殿下は師匠の稽古のせいだよ」
「え?でも……後で行ったんですよね?」
王妃の庭から戻る時、自分も行くって言った彼が何も知らない筈は無いと思うけど笑顔で何も言わない。王様からの話と関係しているのかなぁ?オーウェンさんも着たけど殿下をチラッと見ただけで、いないかのように私達にしか話し掛けない。本当に、どうなってるの?
頭の中が疑問符だらけになった時、王様と王妃様が到着して夕食を開始した。和やかな雰囲気の中で、王様が私に警備態勢を謝罪した。急な謝罪に驚いていると、私が使用していた部屋だけが、外からの侵入感知機能が作動しなくなっていたらしい。今の部屋は全て確認してあるが、犯人が分からないなから滞在中は定期的に点検をする事になったと言った。今度は……誰が?
「イリーナ、不安か?」
ランバートさんに話し掛けられて、顔を上げると彼が心配だという表情で私を見ていた。また……迷惑を……
「迷惑なんて思わないで、不安や恐怖を感じたら素直に、そう言ってくれ」
「え?」
驚いていると、眉を下げて少し困った様な表情をした。
「俺は鈍いから気付かずに、手遅れになるなんて事したくない」
「ランディーの言う通りだ。リナ、こう言う時は素直に、ありがとうだろう?」
困惑する私に二人が苦笑いをしている。言うと嫌がるだろうけど、二人はそっくりだよね。
「……ありがとうございます」
嬉しくて自然と笑顔に変わる。お母さん、私、今まで何を見てたんだろうね。こんなに心配している人がいるのに気付かないなんて……本当に鈍感だね。
「さて、それとは別なのですが……」
そう言って王様が話し始めた。え?殿下の再教育?師匠とランバートさんが稽古を毎日する?怪我を治すかどうかは私が決める?……どうして、そんな話しになったんですか!?
「イリーナには、回復魔法がある」
そう言って続きを話し始めたのはオーウェンさんだった。祖母は今、魔法が使えない。回復魔法は貴重な魔法だが、心が綺麗で正しい者にしか使えない。祖母は欲深い人だったから、お母さんを産んだ辺りから使えなくなったらしい。
「魔法の練習相手がいるだろう」
オーウェンさん、一国の後継者を練習に使うのは、どうなんですか?エルフには関係無いと?そうでした。エルフは国を持たないから執着が無いんでした。
「お前は料理をする時、何を考えて作る?」
オーウェンさんに問われて改めて考える。料理をする時は……元気になって欲しい、美味しく食べて欲しいかな?
「その想いが魔法発動の切っ掛けになる筈だ」
「はい、やってみます」
今、やってみた方が良いと言われて、魔具を修理する時みたいに手の中に魔力を集めて……形が無いと魔力が外に流れる……形、魔力を纏める形……あ!丸薬!
頭の中で丸い玉を思い浮かべると、手の中の魔力が小さく集まる感覚が伝わる。魔力の流れが止まってから目を開けると、白い丸薬が出来ていた。
「出来た……?」
全員の視線が私の手の中の白い丸薬に集まる。オーウェンさんも目を見開いて驚いていた。オーウェンさんの鑑定の結果、回復効果は料理より大きいけど完全回復ではないらしい。それでも殿下に飲ませたら顔が元通りに治った。
「おや、おや。一回で成功するとは流石、兄上の娘です……これで舞台は整いましたね」
……王様、舞台が整ったって何の話ですか!!
0
お気に入りに追加
318
あなたにおすすめの小説
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい
tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。
本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。
人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆
本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編
第三章のイライアス編には、
『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』
のキャラクター、リュシアンも出てきます☆
死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される
葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」
十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。
だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。
今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。
そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。
突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。
リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?
そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?
わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜
津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」
理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。
身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。
そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。
アリーセは思った。
「これでようやく好きな様に生きられる!」
アリーセには特別な力があった。
癒しの力が人より強かったのだ。
そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。
ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。
これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。
平凡な高校生活を送る予定だったのに
空里
恋愛
高校生になり数ヵ月。一学期ももうそろそろ終わりを告げる頃。
僕、田中僚太はクラスのマドンナとも言われ始めている立花凛花に呼び出された。クラスのマドンナといわれるだけあって彼女の顔は誰が見ても美人であり加えて勉強、スポーツができ更には性格も良いと話題である。
それに対して僕はクラス屈指の陰キャポジである。
人見知りなのもあるが、何より通っていた中学校から遠い高校に来たため、たまたま同じ高校に来た一人の中学時代の友達しかいない。
そのため休み時間はその友人と話すか読書をして過ごすかという正に陰キャであった。
そんな僕にクラスのマドンナはというと、
「私と付き合ってくれませんか?」
この言葉から彼の平凡に終わると思われていた高校生活が平凡と言えなくなる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる