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本編
花を愛でる side ランバート
しおりを挟む ドレス姿のイリーナが余りにも綺麗で、もう少し見ていたいと思った俺は散歩へ誘った。頬を薄紅色に染めて俺の腕に手を添える姿に胸が熱くなる。王妃様から許可されたルートを通って庭に着くと、ため息を洩らしながら彼女が花を見ている。
「昨日も思いましたけど、綺麗ですね……この花は初めて見ました」
「うん?この花は海沿いの温かい地域によく咲く花だよ」
マガユダの脅威が減ったとは言え予断を許さない状況は、彼女の行動を制限し続けている。小さな町で隠れて住んでいた分、新しい物を見付けると目を輝かせて彼女が喜ぶ。そんな姿を見ると、もっと見せたい喜ばせたいとつい構ってしまう。
「詳しいですね」
「旅が長かったからね……師匠の元から出て……八年?長いな」
「八年……私は入れ替わりだったんですね」
そうか。彼女を師匠が助けて七年。俺が旅をした年月とほぼ同じ時間を奴らから隠れて逃げていたのか。
「私も……旅をしてみたいです」
「旅?何処に?」
自由に気の向くまま世界を回ってみたいと言った彼女の目は遠くを見詰めていた。
「何処でも良いんです。本当に何処でも……誰かと一緒に……」
途中で言葉を切った彼女は俯いて小さく笑った。その横顔は寂しげで掛ける言葉が見付からない。
「私の両親が駆け落ちして、三人で暮らしていた家に辿り着くまで、数年間、二人で旅をしていたそうです」
そう言って話してくれたのは、仲の良い両親が互いに助け合い旅をした話だった。小さな頃から何度も聞いたと言う旅の話は彼女の憧れでもあるようだ。
「だから……私もいつか両親みたいな旅がしたいんです」
両親と同じと言う言葉に、胸が苦しくなる。その旅をする相手が誰なのか気にせずにはいられなかった。
「俺と……じゃ……か……」
「え?」
自分でも声が掠れていると、はっきり分かるほど余裕がない。彼女が驚いたのか目を丸くして俺を見た。きっと聞こえなかっただろうな。
「いや……誰かいるのか?」
質問の意図に気付いた彼女が、頬を真っ赤に染めて狼狽える。両手で顔を扇ぎながら視線を反らす姿が可愛くて、思わず抱き締めたくなった。
「……一緒に旅をして欲しい人は……います」
そう言って俺を見上げる彼女に手を伸ばそうとした時、茂みの影から誰かが飛び出して来た。彼女を背中に隠し相手を伺うと、王太子が息を切らして何かから逃げて来た様だ。……確か師匠が昨日の件でキレて根性を叩き治すと言ってたな。
「え?王太子殿下……」
彼女もバカ殿下に気付いて、一瞬、身体を震わせた。……今、剣が無い事が悔やまれる。オーウェン殿に預けなければ良かった。
「ラ、ランバート?……隣は……伯父上の……何故?」
「王妃様から許可を頂いていますが何か?勝手に入って来た貴方に言われたく無いですよ」
グッと言葉に詰まった殿下の服を掴むと、追い掛けて来た騎士達に向かって放り投げた。
「さっさと連れて行かないと、カイン様がキレるよ」
「「は!ありがとうございます」」
二人で両脇から抑えられた殿下が、こちらを睨み付けて文句を言いたげな表情をしたが無視していると、イリーナが俺の服を引っ張った。顔を向ければ彼女が心配そうに眉を下げて俺を見ていた。
「あんな事して、ランバートさんが罪になったりしませんか?」
俺を心配する姿に自然と笑みが溢れる。彼女の髪型を崩さないように、そっと頭を撫でた。
「王妃様から許可が出ているから安心してくれ。今から師匠が稽古をするはずだ」
そう言って殿下に視線を向けると、青ざめた表情になっていた。やはり逃げたな。彼女も殿下の表情で気付いた様だ。
「あー……頑張って下さい」
「グッ……あ……謝るから!私が悪かった!だ、だから伯父上を止めてくれ!!」
「え?止めてって……無理」
あっさりと真顔で拒否する姿に笑い声が漏れると、王太子と騎士達が驚いた表情で俺を見ている。……人が笑うだけで、その顔は失礼だろう?よし、後で俺も稽古に参加するか。
「行け。後から俺も行くから楽しみだろう?」
彼らの返事も待たずに背を向けると、イリーナの手を握り出口へと向かう。後ろから叫び声が聞こえたが、気にせず彼女を部屋まで送り届けた後、オーウェン殿に預けた剣を取りに向かった。
さて、殿下。
久しぶりの二人の時間を邪魔したんですから覚悟して下さいよ。
「昨日も思いましたけど、綺麗ですね……この花は初めて見ました」
「うん?この花は海沿いの温かい地域によく咲く花だよ」
マガユダの脅威が減ったとは言え予断を許さない状況は、彼女の行動を制限し続けている。小さな町で隠れて住んでいた分、新しい物を見付けると目を輝かせて彼女が喜ぶ。そんな姿を見ると、もっと見せたい喜ばせたいとつい構ってしまう。
「詳しいですね」
「旅が長かったからね……師匠の元から出て……八年?長いな」
「八年……私は入れ替わりだったんですね」
そうか。彼女を師匠が助けて七年。俺が旅をした年月とほぼ同じ時間を奴らから隠れて逃げていたのか。
「私も……旅をしてみたいです」
「旅?何処に?」
自由に気の向くまま世界を回ってみたいと言った彼女の目は遠くを見詰めていた。
「何処でも良いんです。本当に何処でも……誰かと一緒に……」
途中で言葉を切った彼女は俯いて小さく笑った。その横顔は寂しげで掛ける言葉が見付からない。
「私の両親が駆け落ちして、三人で暮らしていた家に辿り着くまで、数年間、二人で旅をしていたそうです」
そう言って話してくれたのは、仲の良い両親が互いに助け合い旅をした話だった。小さな頃から何度も聞いたと言う旅の話は彼女の憧れでもあるようだ。
「だから……私もいつか両親みたいな旅がしたいんです」
両親と同じと言う言葉に、胸が苦しくなる。その旅をする相手が誰なのか気にせずにはいられなかった。
「俺と……じゃ……か……」
「え?」
自分でも声が掠れていると、はっきり分かるほど余裕がない。彼女が驚いたのか目を丸くして俺を見た。きっと聞こえなかっただろうな。
「いや……誰かいるのか?」
質問の意図に気付いた彼女が、頬を真っ赤に染めて狼狽える。両手で顔を扇ぎながら視線を反らす姿が可愛くて、思わず抱き締めたくなった。
「……一緒に旅をして欲しい人は……います」
そう言って俺を見上げる彼女に手を伸ばそうとした時、茂みの影から誰かが飛び出して来た。彼女を背中に隠し相手を伺うと、王太子が息を切らして何かから逃げて来た様だ。……確か師匠が昨日の件でキレて根性を叩き治すと言ってたな。
「え?王太子殿下……」
彼女もバカ殿下に気付いて、一瞬、身体を震わせた。……今、剣が無い事が悔やまれる。オーウェン殿に預けなければ良かった。
「ラ、ランバート?……隣は……伯父上の……何故?」
「王妃様から許可を頂いていますが何か?勝手に入って来た貴方に言われたく無いですよ」
グッと言葉に詰まった殿下の服を掴むと、追い掛けて来た騎士達に向かって放り投げた。
「さっさと連れて行かないと、カイン様がキレるよ」
「「は!ありがとうございます」」
二人で両脇から抑えられた殿下が、こちらを睨み付けて文句を言いたげな表情をしたが無視していると、イリーナが俺の服を引っ張った。顔を向ければ彼女が心配そうに眉を下げて俺を見ていた。
「あんな事して、ランバートさんが罪になったりしませんか?」
俺を心配する姿に自然と笑みが溢れる。彼女の髪型を崩さないように、そっと頭を撫でた。
「王妃様から許可が出ているから安心してくれ。今から師匠が稽古をするはずだ」
そう言って殿下に視線を向けると、青ざめた表情になっていた。やはり逃げたな。彼女も殿下の表情で気付いた様だ。
「あー……頑張って下さい」
「グッ……あ……謝るから!私が悪かった!だ、だから伯父上を止めてくれ!!」
「え?止めてって……無理」
あっさりと真顔で拒否する姿に笑い声が漏れると、王太子と騎士達が驚いた表情で俺を見ている。……人が笑うだけで、その顔は失礼だろう?よし、後で俺も稽古に参加するか。
「行け。後から俺も行くから楽しみだろう?」
彼らの返事も待たずに背を向けると、イリーナの手を握り出口へと向かう。後ろから叫び声が聞こえたが、気にせず彼女を部屋まで送り届けた後、オーウェン殿に預けた剣を取りに向かった。
さて、殿下。
久しぶりの二人の時間を邪魔したんですから覚悟して下さいよ。
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