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本編

恥ずかしい

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 昨日、王太子殿下が窓から入って来た事が問題になって、私が使う部屋が師匠とランバートさんが使っている部屋の廊下を挟んだ向かい側に変わった。
 魔力で鍵を開けられない様に、全ての部屋の鍵に防御装置を付ける事にもなって一安心と思っていたけど、二人は時間が出来ると直ぐに私の部屋に来る様になった。ゆっくり本を読む事も出来ずに落ち着かない。

 そして、今からランバートさんと一緒にダンスレッスンが待っている。

「あの……リリーさん、これやり過ぎじゃないですか?」

「そんな事ありませんよ。本番の時には、もっと飾りますから!」

 いや、無理って……誰か止めて。リリーさんと一緒に来た侍女のターナさんの二人から、コルセットを着けられて髪もアップにして昨日より飾りが増えた。二人曰く、飾りを落とさない様に馴れる為にも着けましょうって……本当に?何か二人とも凄く楽しそうというか気合いが入っているような……

「これで勇者様もイチコロですよ!」

「え?」

「そうですね!勇者様もきっと、お喜びになりますよ!」

 ちょっと待って下さい。二人とも、何か話が違う方向にいってませんか?私、今からダンスの練習。分かっていますか?ですよ。
 二人に好き勝手弄られながらメイクが済んだ頃、ドアがノックされた。ターナさんが確認すると、師匠とランバートさんが来たらしい。二人に入って貰うと、着飾った私を見て何も言わない。……それはそれでツラいです。何か言って下さいよ!

「黙ってないで何か言って下さいよ。師匠のせいで、こんな大変な思いしてるのに!」

 ハッとした二人が近付いてくる。ランバートさんが頬を掻きながら言った一言が衝撃的だった。

「綺麗で見惚れた」

 綺麗?……誰が?……私?……え?えぇ!嬉しいやら恥ずかしいやら。
 照れて私の頬が熱くなる。恥ずかしくて彼から視線を外して、師匠を見ると何故か苦虫を纏めて噛んだ様な酷い顔をしていた。

「師匠、具合でも悪いのですか?」

「……いや……そうだ、リナ。いい加減、俺の呼び方を変えろ」

 急に呼び方を変えるように言い出した師匠。今更、師匠以外の呼び方って言われてもね?え?親子になったから師匠はダメ?パーティーでも師匠は不味い?そう言われても、なんて呼べば良いのよ。

「えっと……カインお義父様?」

 イヤ!待って下さい。これはこれで恥ずかしい!!やっぱり別の呼び方を考えよう!

「良いなそれ。今からカインお義父様って呼ぶように」

「えぇ……恥ずかしいから、やっぱり師匠で」

「ダメだ」

 熱くなる頬を両手で隠しながら粘ってみたけど、師匠は気に入ったみたいで譲らない。結局、私が折れて今からお義父様って呼ぶ事になった。呼び方が決まると、し……お義父様は上機嫌で仕事に戻った。そんなに何が嬉しいの?

「カイン様って、あんなに笑う方だったのですか?」

 リリーさんからの質問に驚いて、聞き返すと普段は無表情らしい。無表情の師匠?違ったお義父様って想像つかない。まるで別人の話みたいと言って首を傾げていた私に、リリーさんが耳元で言った言葉に更に驚いて頬が熱くなった。
 狼狽える私を頬笑みを浮かべて見た二人が、退室の挨拶をして部屋を出て行く。さっきの言葉のせいで、ランバートさんと二人っきりにされて困る。どうしよう。


『私達から見たら、勇者様もイリーナ様と居る時は、別人の様にお優しいですよ』

 さっきの言葉が頭の中を繰り返す。恥ずかしくて困って動けない私を、ランバートが心配そうに見詰めていた。

「顔が赤いが、熱でもあるのか?」

「へ?ち、違います!違います!あ、うん、大丈夫です」

「いや、大丈夫に見えない」

 そこは突っ込まないで!あわわ、えっと、えぇっと……わー言葉が浮かばないよ!

「は」

「は?」

「……恥ずかしくて……この格好が……」

 私の言葉を聞いて目を丸くしたランバートが、ゆっくりと笑顔に変わる。その優しい笑顔だけで、胸がいっぱいになって苦しい。

「普段の君も綺麗だが、今日は一段と綺麗だ」

「あ、あり……がとうございます」

 行こうと手を差し出されて、恐る恐る手を乗せるとエスコートされて練習用の部屋へ向かった。廊下ですれ違う人達に二度視されたり、睨まれたりして部屋に着く頃にはヘトヘトになっていた。


廊下を歩くだけでこれって……パーティーの本番って……どうなるの?

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