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本編
会いたくても side ランバート
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「さて、リナも目を覚ましたし、仕事をして貰おうか」
イリーナが寝たあと、師匠から掛けられた言葉に嫌な予感がしたが逃げられない仕事を先延ばしにしていた俺は渋々了承した。まさか、コレが切っ掛けで暫く彼女と会えなくなるなんて思いもしなかった。
溜まっていた城での仕事を片付けるだけで二日も徹夜した。そして、今日は城の修理代の引き出しと、投資の状況確認の為にギルドに向かっていた。
『今日モ娘ト別ナノカ?娘ト話ガ、シタイゾ』
ドラゴン殿のぼやきを聞きながら到着したギルド。事前に連絡をしていたから、直ぐにギルマスの部屋へと案内された。
「よう、勇者。なんか疲れているなぁ」
「最悪な気分だよ。お金は出せるか?」
「珍しいな。あんた金に無頓着なのに」
「ちょっと暴れて、その時の修理代と……国のパーティーに出なきゃならないから衣装代さ」
ご苦労様だなぁと言いながら、頼んでいた金貨を受け取る。それとは別で投資の報告書も渡された。
「あんたの投資した金は、今や三倍だ。どうする?」
どうするって、急いで使う予定もないから……いや、王様に食費をまだ渡してなかったな。それに……
「聞きたい事があるんだが……」
「なんだ?」
「女性のパーティードレスって、幾らくらい掛かる?」
人が真面目に聞いているのに、ギルマスはお茶を吹き出して噎せ込んだ。その反応はなんだよ。
「あんたから女の話なんざ聞くとは夢にも思わなかったよ。魔力は大丈夫なのか?」
黙って頷くと、ギルマスは口を開けて固まった。ギルマスも当然、俺の悩みは知ってる訳だし、その反応も分かるが……さっきから大袈裟じゃないか?
咳払いして話の続きを促せば、瞬きの後に紙にサッと金額を書き出した。
「イヤー驚いた、驚いた。ドレスのランクにもよるが、衣装がこの額に宝飾品を付ければ……ざっと、これくらいか」
「ふーん、今から出せるか?」
大丈夫だと言ってドアの外にいる誰かに、指示を出している。その間に報告書を確認した。そうだな投資は元金だけ回収して、増えた分は別の投資に回すか
「待たせたな。今、待ってくる」
「急に悪いな。それと投資だが……」
ギルマスと投資の回収と、再投資の処理を済ます。追加の金貨を受け取って王族居住区に戻ると、予定より早い時間に終わった事に気付いた。今からならダンスの練習に間に合うか?明日からは練習にも参加する余裕が出来たし、イリーナに謝らないと……
「勇者様、お帰りなさいませ」
「あぁ」
なんだ?こんな昼間の玄関に無駄に人が多いな……イリーナは居ないのか?キョロキョロと視線を動かしていると、上からの視線に気付いて顔を上げた。視線の元は二階の窓からこちらを覗くイリーナだった。
練習用なのかドレスを着て、髪をアップにして大人びた雰囲気だ。見惚れたのは一瞬。俺と目が合うと身を翻して見えなくなった。
「あの勇者様、この後は……」
「俺に構うな」
回りで話し掛けてくる女性達を避けて、彼女がいる部屋に向かう。ドアをノックして出てきたのは、彼女の世話をする侍女だった。
「今、着替え中ですから、出直して来て下さい」
「いや、少しだけで彼女と話がしたいんだ」
素直に話がしたいと言ったが、侍女の表情は不機嫌そのもの。なんだ?俺は変な事を言ったか?
「いい加減にして下さい!女性の着替えを覗く気ですか!!」
「ちょっと!違う!!イリーナと話がしたいだけだから!」
誤解したであろう侍女に怒鳴られ、ドアを閉められた。今すぐの話ではかなったんだが……聞こえるか分からないが、ドアの外から後で出直す事を告げて一度離れた。
暫くして彼女の部屋に向かうと、王太子が開けっ放しのドアから出てきた。少し焦った様子に嫌な予感がした。
「貴方は、ここで何をしている」
「ランバート!?いや、少し話がしたかったんだが……驚かせてしまったらしい……彼女が飛び出してしまって……」
彼女が驚いただけで部屋を飛び出す?話の内容に違和感を感じて、問いただせば窓からの無断侵入。警戒心の強い彼女が逃げ出した事は理解出来た。だが……嫌な予感が消えない。
言い訳を並べる王太子を放置して、俺は急いで後を追いかけた。
イリーナが寝たあと、師匠から掛けられた言葉に嫌な予感がしたが逃げられない仕事を先延ばしにしていた俺は渋々了承した。まさか、コレが切っ掛けで暫く彼女と会えなくなるなんて思いもしなかった。
溜まっていた城での仕事を片付けるだけで二日も徹夜した。そして、今日は城の修理代の引き出しと、投資の状況確認の為にギルドに向かっていた。
『今日モ娘ト別ナノカ?娘ト話ガ、シタイゾ』
ドラゴン殿のぼやきを聞きながら到着したギルド。事前に連絡をしていたから、直ぐにギルマスの部屋へと案内された。
「よう、勇者。なんか疲れているなぁ」
「最悪な気分だよ。お金は出せるか?」
「珍しいな。あんた金に無頓着なのに」
「ちょっと暴れて、その時の修理代と……国のパーティーに出なきゃならないから衣装代さ」
ご苦労様だなぁと言いながら、頼んでいた金貨を受け取る。それとは別で投資の報告書も渡された。
「あんたの投資した金は、今や三倍だ。どうする?」
どうするって、急いで使う予定もないから……いや、王様に食費をまだ渡してなかったな。それに……
「聞きたい事があるんだが……」
「なんだ?」
「女性のパーティードレスって、幾らくらい掛かる?」
人が真面目に聞いているのに、ギルマスはお茶を吹き出して噎せ込んだ。その反応はなんだよ。
「あんたから女の話なんざ聞くとは夢にも思わなかったよ。魔力は大丈夫なのか?」
黙って頷くと、ギルマスは口を開けて固まった。ギルマスも当然、俺の悩みは知ってる訳だし、その反応も分かるが……さっきから大袈裟じゃないか?
咳払いして話の続きを促せば、瞬きの後に紙にサッと金額を書き出した。
「イヤー驚いた、驚いた。ドレスのランクにもよるが、衣装がこの額に宝飾品を付ければ……ざっと、これくらいか」
「ふーん、今から出せるか?」
大丈夫だと言ってドアの外にいる誰かに、指示を出している。その間に報告書を確認した。そうだな投資は元金だけ回収して、増えた分は別の投資に回すか
「待たせたな。今、待ってくる」
「急に悪いな。それと投資だが……」
ギルマスと投資の回収と、再投資の処理を済ます。追加の金貨を受け取って王族居住区に戻ると、予定より早い時間に終わった事に気付いた。今からならダンスの練習に間に合うか?明日からは練習にも参加する余裕が出来たし、イリーナに謝らないと……
「勇者様、お帰りなさいませ」
「あぁ」
なんだ?こんな昼間の玄関に無駄に人が多いな……イリーナは居ないのか?キョロキョロと視線を動かしていると、上からの視線に気付いて顔を上げた。視線の元は二階の窓からこちらを覗くイリーナだった。
練習用なのかドレスを着て、髪をアップにして大人びた雰囲気だ。見惚れたのは一瞬。俺と目が合うと身を翻して見えなくなった。
「あの勇者様、この後は……」
「俺に構うな」
回りで話し掛けてくる女性達を避けて、彼女がいる部屋に向かう。ドアをノックして出てきたのは、彼女の世話をする侍女だった。
「今、着替え中ですから、出直して来て下さい」
「いや、少しだけで彼女と話がしたいんだ」
素直に話がしたいと言ったが、侍女の表情は不機嫌そのもの。なんだ?俺は変な事を言ったか?
「いい加減にして下さい!女性の着替えを覗く気ですか!!」
「ちょっと!違う!!イリーナと話がしたいだけだから!」
誤解したであろう侍女に怒鳴られ、ドアを閉められた。今すぐの話ではかなったんだが……聞こえるか分からないが、ドアの外から後で出直す事を告げて一度離れた。
暫くして彼女の部屋に向かうと、王太子が開けっ放しのドアから出てきた。少し焦った様子に嫌な予感がした。
「貴方は、ここで何をしている」
「ランバート!?いや、少し話がしたかったんだが……驚かせてしまったらしい……彼女が飛び出してしまって……」
彼女が驚いただけで部屋を飛び出す?話の内容に違和感を感じて、問いただせば窓からの無断侵入。警戒心の強い彼女が逃げ出した事は理解出来た。だが……嫌な予感が消えない。
言い訳を並べる王太子を放置して、俺は急いで後を追いかけた。
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