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本編
逃げ出した
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どんよりと気分が晴れないまま受けたダンスレッスンは悲惨な状態で、先生も落ち込む私の姿に同情したのか早めに切り上げてくれた。先生が部屋を退出してから私も出る。貴族のダンスレッスンだからと着せられているドレスは重くて歩きにくい。本番に近い姿の方が良いと侍女のリリーさんが、髪をアップにして綺麗にメイクまでしてくれたのに、見て欲しい人は今日も最後まで来なかった。
トボトボと歩いていると、廊下の窓の外から女性達の声が聞こえてきた。楽しげな彼女達の声は、ランバートさんが帰ってきたと言った。窓の側に立って覗くと、数人の女性に囲まれた彼がいる。女性達が一生懸命に何か話し掛けても、返事もソコソコで何かを探していた。フッと顔を上げた彼と目が合った。ただそれだけなのに顔が熱くなった事に気付いて、その場から直ぐに離れて部屋に戻った。リリーさんが待機してくれていたので、直ぐに着替えの手伝いをお願いした。
「良いのですか?勇者様が帰られたとお聞きしましたが……」
「……関係ないですから……」
リリーさんが困った様に眉を下げたあと、分かりましたと短い返事をしてから髪飾りを外してくれた。ドレスも髪飾りも一人で外せない貴族の衣装は、見えないナニかに縛られている様で窮屈だった。髪を下ろしてドレスの後ろにある止め金具を外して貰う。あとは脱ぐだけになった時、ドアをノックする音が響いた。タイミングの悪さに、リリーさんの眉間にシワが寄る。ちょっと待ってて下さいと言って、ドアの外を確認した彼女は後ろから見てても不機嫌そのものだった。え?誰が来たの?ちょっと……リリーさん、落ち着こうよ。
何か小声で話をしていたが、相手に怒ったリリーさんが大きな声を出した。
「いい加減にして下さい!女性の着替えを覗く気ですか!!」
「ちょっと!違う!!イリーナと話がしたいだけだから!」
ランバートさんの慌てたような声が聞こえるけど、窓から見た光景を思い出すと話はしたくない。モヤモヤしたモノを彼にぶつけてしまいそうで、顔も見たくなかった。
「リリーさん、閉めて下さい」
外からランバートさんが何か言ったけど、ドアに遮られて聞き取れないけど、暫くすると静かになった。着替えが済んで普段着になった私に、お茶を入れてからリリーさんは部屋を出て行った。
「ゆっくりして下さい……か……こんな生活……落ち着かないよ」
産まれも育ちも庶民の私には、家事や着替えを誰かに手伝って貰う事に違和感しかない。師匠も王様と仕事をしているから、会いたくてもお伺いしないといけない。もうヤダ……今すぐ逃げ出したい……
「嫌なら逃がしてやろうか?」
突然聞こえた声は窓の外。驚いて窓から離れると、勝手に鍵が開いて入って来たのは師匠と同じ白い髪をした青年だった。この人……街に絵姿があった……
「王太子殿下?」
「ご名答」
ニヤリと口元だけで笑う顔は、師匠と被る。裏がありそうな態度と、無断侵入する強引さに警戒心が増した私は更に一歩下がった。
「落ち着かないんだろう?ここから逃げれば全て解決じゃないか」
そう言って手を伸ばす王太子が怖くて、私は彼を突き飛ばすと部屋から逃げ出す。後ろから王太子が何か叫んだけど、全てから逃げ出したい私は、止まることなく建物の外へ走り出した。
もう……帰らなくても良いですか?
トボトボと歩いていると、廊下の窓の外から女性達の声が聞こえてきた。楽しげな彼女達の声は、ランバートさんが帰ってきたと言った。窓の側に立って覗くと、数人の女性に囲まれた彼がいる。女性達が一生懸命に何か話し掛けても、返事もソコソコで何かを探していた。フッと顔を上げた彼と目が合った。ただそれだけなのに顔が熱くなった事に気付いて、その場から直ぐに離れて部屋に戻った。リリーさんが待機してくれていたので、直ぐに着替えの手伝いをお願いした。
「良いのですか?勇者様が帰られたとお聞きしましたが……」
「……関係ないですから……」
リリーさんが困った様に眉を下げたあと、分かりましたと短い返事をしてから髪飾りを外してくれた。ドレスも髪飾りも一人で外せない貴族の衣装は、見えないナニかに縛られている様で窮屈だった。髪を下ろしてドレスの後ろにある止め金具を外して貰う。あとは脱ぐだけになった時、ドアをノックする音が響いた。タイミングの悪さに、リリーさんの眉間にシワが寄る。ちょっと待ってて下さいと言って、ドアの外を確認した彼女は後ろから見てても不機嫌そのものだった。え?誰が来たの?ちょっと……リリーさん、落ち着こうよ。
何か小声で話をしていたが、相手に怒ったリリーさんが大きな声を出した。
「いい加減にして下さい!女性の着替えを覗く気ですか!!」
「ちょっと!違う!!イリーナと話がしたいだけだから!」
ランバートさんの慌てたような声が聞こえるけど、窓から見た光景を思い出すと話はしたくない。モヤモヤしたモノを彼にぶつけてしまいそうで、顔も見たくなかった。
「リリーさん、閉めて下さい」
外からランバートさんが何か言ったけど、ドアに遮られて聞き取れないけど、暫くすると静かになった。着替えが済んで普段着になった私に、お茶を入れてからリリーさんは部屋を出て行った。
「ゆっくりして下さい……か……こんな生活……落ち着かないよ」
産まれも育ちも庶民の私には、家事や着替えを誰かに手伝って貰う事に違和感しかない。師匠も王様と仕事をしているから、会いたくてもお伺いしないといけない。もうヤダ……今すぐ逃げ出したい……
「嫌なら逃がしてやろうか?」
突然聞こえた声は窓の外。驚いて窓から離れると、勝手に鍵が開いて入って来たのは師匠と同じ白い髪をした青年だった。この人……街に絵姿があった……
「王太子殿下?」
「ご名答」
ニヤリと口元だけで笑う顔は、師匠と被る。裏がありそうな態度と、無断侵入する強引さに警戒心が増した私は更に一歩下がった。
「落ち着かないんだろう?ここから逃げれば全て解決じゃないか」
そう言って手を伸ばす王太子が怖くて、私は彼を突き飛ばすと部屋から逃げ出す。後ろから王太子が何か叫んだけど、全てから逃げ出したい私は、止まることなく建物の外へ走り出した。
もう……帰らなくても良いですか?
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