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本編

悪意 side ランバート

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 さっき出会った変態の女性の身元を確認する為、城に戻った俺は、宰相に会いに向かった。城の三階にある部屋へ進んでいると、一人の男性が廊下を塞いだ。面倒臭い、なんだよ。

「勇者様ですか?」

「あんた誰?」

「私は以前、婚約の申し込みを……待って下さい!」

 婚約の言葉が聞こえた瞬間、俺は相手を避けて歩き出した。余計な事に時間をかけていられない。警備の騎士に停められそうになったが、後で文句を言われる事を覚悟の上で部屋をノックした。

「入れ」

 ドアを開けると俺の顔を見て驚いた表情を見せたが、さっさと話を進めたくて無視して宰相の前に立つ。

「急な訪問、すみません。大至急で確認したい事があります」

「珍しい。何だ?」

 少し驚いた様な表情を見せた宰相に、一時間前の変態の話をした。人目のある場所で、迎えに来ただの我が家に行くだの意味不明発言。しかも、本人の同意無しに身体に触れようとする行為は、貴族の女性として大失態の上に謝罪も無し。極めつけは師匠の義理の娘への呪詛。
 貴族は全体的に魔力が高い者が多い。しかも、無意識だが呪詛が扱える者はかなりの魔力がある高位貴族のはずた。
 宰相の手の中にあったペンからメキッと変な音が聞こえた。

「分かった。直ぐに調べるから、そこで待っていろ」

「はい」

 部屋にあるソファーに座り、宰相が指示出す姿を見る。師匠の従兄弟なだけあって、怒りを含むその顔は似ている。イライラを抑える為に、別の事を考えていたその時、俺の顔の前にオーウェン殿から魔法で一枚の紙が届く。

『呪詛が強すぎる。急げ』

 強すぎる……クソ女。本当に何者何だよ!怒りで奥歯に力が入った時、宰相の元に何か連絡が来た。高位貴族の女性が勝手に城に来て倒れたとか知るか。それより早くクソ女が誰か教えろ。

「その女性の侍女が勇者様に会った後で倒れたので、彼の呪い等と言い出して……あ……の……」

 聞こえた会話だけで十分だ。立ち上がった俺は、連絡に来た男に倒れた女と侍女の居場所を聞いた。

「ヒッ!あ……い……あの……」

「さっさと言えよ」

 怒りで魔力の抑えが効かない。震える相手に構わず問えば、宰相に止められた。

「それでは話が出来ん。落ちつけ」

 宰相から改めて居場所を聞くと、一階の医務室で寝ているが、侍女達がベッドが悪い等と苦情を言い出し混乱しているらしい。面倒臭い。

「直接、行って話をつける」

「待て!相手は公爵令嬢だぞ。下手な事をすればお前が罪に問われる」

 ドアから出て行けば遠回りになるな……窓から降りるか。身体強化を足に集中させた俺は、窓枠に手を掛ける。大切な者を守る為に貴族の階級なんか関係ない。

「修理代は、後で請求してくれ」

「ランバート!」

 宰相の叫びを無視して窓から飛び降りると、中庭に着地する。……陥没したが思っていたよりマシか。医務室は……この闇の気配は……呪詛の魔力?

「まるで魔物じゃないか」

 舌打ちしながら医務室のドアを開けると、ベッドで寝かされている女性の回りに濃い闇色の魔力の渦が出来ている。三人の侍女が震えながら壁際に逃げていた。

「ゆ……勇者様……た……たすけて」

「はあ?俺が呪いと言いふらすバカを助ける意味があんのかよ?」

 大きく肩を揺らす侍女達を無視して女性に近付くと、魔力が俺を飲み込もうとするかの様に広がる。だが俺に触れる事が出来ずに回りを取り囲む様に円を造り始めた。

「残念だったな。俺に触れられるのは一人だけだ……消えろよ」

 両手を伸ばし闇色の魔力を掴むと、俺の魔力を流す。弾ける様な音と火花が飛び散る中、ベッドの女性が苦し気に呻き声を上げた。やはり犯人はコイツか。

「悪いが消えて貰う」

 抵抗する魔力に一気に流して抑えつければ、パンと乾いた音と共に闇色の魔力が一瞬で消えた。それと同時に女性の呻き声も止まり静かになる。以前、旅の途中で貰った浄化の粉を部屋に撒くと、悪意の渦は完全に消滅した。かなり強引だったから後遺症が出るだろうが……関係ないか。


イリーナの元に帰ろう

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