11 / 107
本編
旅立ちはコッソリと
しおりを挟む
勇者様と町を歩いた日から四日後の早朝。私達は、まだ辺りが薄暗い中、王都へ向けて出発した。お店の入口には、急いで引っ越しした事を知らせる貼り紙。ここには5年、住んでいたから少し寂しい。
「さようなら」
毎日、使っていたドアに触れながら、親しくしていた人達に向けて別れの挨拶をした。薄情で、ごめんなさい。何も言えなくて、ごめんなさい。私のせいで他の人達に迷惑を掛けない為には、こうするしかないの。
「行こう」
勇者様の声が後ろから聞こえて振り向けば手を差し出していた。別れもあるけど出会いもあるね。
「はい!」
元気良く返事をした私は、勇者様の手を借りて馬車の荷台に乗り込んだ。御者台には師匠がいる。勇者様は剣を握ったままで、私の向かいに座った。
ゆっくり座るのは久しぶりな気がする。仕事したり料理したり、料理したり……あれ?料理しかしてないわ。
「イリーナ」
名前を呼ばれて顔を上げると、勇者様が私の顔を覗き込んでいた。
「疲れてないか?忙しかったし、少し寝たらどうだ?」
どうやら黙っていた私を心配してくれているらしい。確かに何時もより早い時間に起きたせいか眠いけど、それは勇者様や師匠も同じなのに一人だけ寝るのは気が引けたから首を横に振った。
「無理はするなよ」
そう言って勇者様は外に注意を向けて首を傾げる。荷馬車のホロの隙間から外を確認すると、直ぐにそっと閉める。なんだか困っている様に見えて、思わず理由を尋ねた。
「誰か店を訪ねて来てた」
「こんな時間に?もう引き返せ無いし騎士団の人達に任せます」
私の意見に勇者様も頷いた。騎士団には師匠から、何かあったら連絡をするように頼んだし大丈夫でしょう。それよりも、私は勇者様の剣が気になってたんですよね。
「その剣の魔石って、珍しい色ですよね?」
「これ?うーん、経緯は知らないけど、作った人が使い手を選ぶとか言っていたから珍しいかも?」
そう言って勇者様が、剣の魔石が見える様に向きを変えてくれた。よく出回っている魔石は、透明感があり宝石に近いけど、やっぱり違うから加工が難しい。だけど、勇者様の剣の魔石は濃くて深みのある蒼色。勇者様の瞳の色と同じだから、初めて見たとき驚いた。
「使い手を選ぶ?初めて聞きました」
そう聞くと触ってみたくなるけど、勝手に触るのも気が引けるし少し怖い。
「触ってみるか?」
「え?大丈夫何ですか?」
鞘から抜けないだけで触るだけなら問題無いと、勇者様が差し出したから思わず受け取った。うわ!重いって!!なんなの~
『海のドラゴン』
男性の声と共に、頭の中で海に浮かぶ大きなドラゴンとエルフの姿が浮かんだ。彼等は仲が良いのか、視線を合わせて話をしている。
『我ハ、永クナイ』
『そうか』
『我ノ骸デ、剣ヲ打テ』
『は?何を言ってる』
怪訝な表情の男性に、ドラゴンが目を細め顔を上げると空に視線を向けた。遠くの何かを懐かしむ視線が、空から男性に戻ると、真っ直ぐに男性を見た。
『鱗ト魔石デ魔王ヲ倒ス剣トナロウ』
「イリーナ!」
「え?ちょっと……待って、私は……」
勇者様の声で現実に戻って来た私は、一瞬、自分が何処に居るのか分からなかった。少し焦った様な勇者様の顔が近くにある。大丈夫だと伝えてから、さっきまで見ていたモノや聞いた事を整理する。多分、ドラゴンで出来た剣で……作った人が……
「勇者様、この剣を作った人はエルフの男性ですか?」
「……どうして……」
呆然とした表情で私を見る勇者様に、今、この剣を触れた時に見えた光景と会話を伝える。
「製作者が二度と作れない剣と言っていたのは……本当の事だったんだな」
こんな事は初めてで、何が起きたか分からないけど今、見たのはドラゴンが教えてくれた気がした。
「さようなら」
毎日、使っていたドアに触れながら、親しくしていた人達に向けて別れの挨拶をした。薄情で、ごめんなさい。何も言えなくて、ごめんなさい。私のせいで他の人達に迷惑を掛けない為には、こうするしかないの。
「行こう」
勇者様の声が後ろから聞こえて振り向けば手を差し出していた。別れもあるけど出会いもあるね。
「はい!」
元気良く返事をした私は、勇者様の手を借りて馬車の荷台に乗り込んだ。御者台には師匠がいる。勇者様は剣を握ったままで、私の向かいに座った。
ゆっくり座るのは久しぶりな気がする。仕事したり料理したり、料理したり……あれ?料理しかしてないわ。
「イリーナ」
名前を呼ばれて顔を上げると、勇者様が私の顔を覗き込んでいた。
「疲れてないか?忙しかったし、少し寝たらどうだ?」
どうやら黙っていた私を心配してくれているらしい。確かに何時もより早い時間に起きたせいか眠いけど、それは勇者様や師匠も同じなのに一人だけ寝るのは気が引けたから首を横に振った。
「無理はするなよ」
そう言って勇者様は外に注意を向けて首を傾げる。荷馬車のホロの隙間から外を確認すると、直ぐにそっと閉める。なんだか困っている様に見えて、思わず理由を尋ねた。
「誰か店を訪ねて来てた」
「こんな時間に?もう引き返せ無いし騎士団の人達に任せます」
私の意見に勇者様も頷いた。騎士団には師匠から、何かあったら連絡をするように頼んだし大丈夫でしょう。それよりも、私は勇者様の剣が気になってたんですよね。
「その剣の魔石って、珍しい色ですよね?」
「これ?うーん、経緯は知らないけど、作った人が使い手を選ぶとか言っていたから珍しいかも?」
そう言って勇者様が、剣の魔石が見える様に向きを変えてくれた。よく出回っている魔石は、透明感があり宝石に近いけど、やっぱり違うから加工が難しい。だけど、勇者様の剣の魔石は濃くて深みのある蒼色。勇者様の瞳の色と同じだから、初めて見たとき驚いた。
「使い手を選ぶ?初めて聞きました」
そう聞くと触ってみたくなるけど、勝手に触るのも気が引けるし少し怖い。
「触ってみるか?」
「え?大丈夫何ですか?」
鞘から抜けないだけで触るだけなら問題無いと、勇者様が差し出したから思わず受け取った。うわ!重いって!!なんなの~
『海のドラゴン』
男性の声と共に、頭の中で海に浮かぶ大きなドラゴンとエルフの姿が浮かんだ。彼等は仲が良いのか、視線を合わせて話をしている。
『我ハ、永クナイ』
『そうか』
『我ノ骸デ、剣ヲ打テ』
『は?何を言ってる』
怪訝な表情の男性に、ドラゴンが目を細め顔を上げると空に視線を向けた。遠くの何かを懐かしむ視線が、空から男性に戻ると、真っ直ぐに男性を見た。
『鱗ト魔石デ魔王ヲ倒ス剣トナロウ』
「イリーナ!」
「え?ちょっと……待って、私は……」
勇者様の声で現実に戻って来た私は、一瞬、自分が何処に居るのか分からなかった。少し焦った様な勇者様の顔が近くにある。大丈夫だと伝えてから、さっきまで見ていたモノや聞いた事を整理する。多分、ドラゴンで出来た剣で……作った人が……
「勇者様、この剣を作った人はエルフの男性ですか?」
「……どうして……」
呆然とした表情で私を見る勇者様に、今、この剣を触れた時に見えた光景と会話を伝える。
「製作者が二度と作れない剣と言っていたのは……本当の事だったんだな」
こんな事は初めてで、何が起きたか分からないけど今、見たのはドラゴンが教えてくれた気がした。
10
お気に入りに追加
318
あなたにおすすめの小説
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい
tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。
本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。
人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆
本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編
第三章のイライアス編には、
『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』
のキャラクター、リュシアンも出てきます☆
死を願われた薄幸ハリボテ令嬢は逆行して溺愛される
葵 遥菜
恋愛
「死んでくれればいいのに」
十七歳になる年。リリアーヌ・ジェセニアは大好きだった婚約者クラウス・ベリサリオ公爵令息にそう言われて見捨てられた。そうしてたぶん一度目の人生を終えた。
だから、二度目のチャンスを与えられたと気づいた時、リリアーヌが真っ先に考えたのはクラウスのことだった。
今度こそ必ず、彼のことは好きにならない。
そして必ず病気に打ち勝つ方法を見つけ、愛し愛される存在を見つけて幸せに寿命をまっとうするのだ。二度と『死んでくれればいいのに』なんて言われない人生を歩むために。
突如として始まったやり直しの人生は、何もかもが順調だった。しかし、予定よりも早く死に向かう兆候が現れ始めてーー。
リリアーヌは死の運命から逃れることができるのか? そして愛し愛される人と結ばれることはできるのか?
そもそも、一体なぜ彼女は時を遡り、人生をやり直すことができたのだろうかーー?
わけあって薄幸のハリボテ令嬢となったリリアーヌが、逆行して幸せになるまでの物語です。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜
津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」
理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。
身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。
そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。
アリーセは思った。
「これでようやく好きな様に生きられる!」
アリーセには特別な力があった。
癒しの力が人より強かったのだ。
そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。
ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。
これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。
平凡な高校生活を送る予定だったのに
空里
恋愛
高校生になり数ヵ月。一学期ももうそろそろ終わりを告げる頃。
僕、田中僚太はクラスのマドンナとも言われ始めている立花凛花に呼び出された。クラスのマドンナといわれるだけあって彼女の顔は誰が見ても美人であり加えて勉強、スポーツができ更には性格も良いと話題である。
それに対して僕はクラス屈指の陰キャポジである。
人見知りなのもあるが、何より通っていた中学校から遠い高校に来たため、たまたま同じ高校に来た一人の中学時代の友達しかいない。
そのため休み時間はその友人と話すか読書をして過ごすかという正に陰キャであった。
そんな僕にクラスのマドンナはというと、
「私と付き合ってくれませんか?」
この言葉から彼の平凡に終わると思われていた高校生活が平凡と言えなくなる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる