[完結]私を巻き込まないで下さい

本編

お引っ越しするよ

 師匠には悪いけど、話題のネタにしながら勇者様と二人で昼食を作った。簡単に味付けして焼いたお肉と、千切った野菜でサンドイッチを作っただけなのに、勇者様は目を輝かせて食べている。

「サンドイッチって、パンにバター塗ったり、材料に味付けしただけで違うんだな」

 一緒に作って分かったけど、師匠との生活が長かった事もあって、勇者様に料理の知識はないです。私？私は隣近所の奥様達に教わりました。だって、師匠の料理が不味いもの。酷い時には黒焦げなんだよ？あんなの死ぬよ！

「あれ？師匠、遅いですね」

「あー、騎士団の後で、兄弟に連絡取るって言ってたからな」

 へー師匠に兄弟いたんだ。一度も会った事も聞いた事も無い。勇者様は知ってるのかな？

「勇者様は、兄弟に会った事がありますか？私、知らないんですよ」

「……師匠、家族の話し嫌がるからね。会わせたく無いんだよ」

 そうなんだ。会わせたく無いって面倒な人なのかな？う～ん、考えても分からないから後で聞こう。そう考えていた時、師匠が帰宅したけど不機嫌なのかな眉間に皺が寄ってる。

「リナ、ランディー。引っ越しするぞ」

「はい、今度は何処ですか？」

 師匠に引っ越し先を聞くと、苦虫を噛み潰したよう顔になった。え？聞いちゃいけなかった？

「……王都」

「師匠、それを言うなら王城じゃないですか？」

 勇者様のツッコミに師匠が黙って頷いてる。
 はい？王城って言ったら国の偉い人や王族がいる所でしょう？師匠や勇者様なら分かるけど、私みたいな一般人が入れる訳無いでしょう？
 私の頭の中が疑問符だらけになっている横で師匠が唸り声を上げると、そんな師匠を呆れて表情で勇者様がみている。師匠がため息を吐いた後、渋々、口を開いた。

「ナダルって聞いた事があるよな？アイツが弟だ」

 人って驚き過ぎると言葉が出ないんだね。開いた口が塞がらないって初めて体験してるよ。
 ナダルって今の王様の名前で合ってる？しかも、王様が弟って……師匠は王族って言うか……王兄おうけいって事？

「はぁぁぁぁ!?ど……どういう事ですか!!説明してくださいよ！」

 驚き過ぎて思わず師匠の服を掴んで揺すった。師匠の頭がカックンカックン揺れる。一度もそんな話ししてないよね！

「イリーナちょっと待て！な？師匠が話せないから落ちつけって」

 勇者様が私の手を師匠から外すと、私の顔を掴んで正面から話しかけてくる。ガシッと掴まれて我に返った私は、口を閉じて頷いた。師匠の首の絞める所だったよ。危ない、危ない。

「ゴホッ……お前ら人の事を何だと思ってるんだ！」

「何って、魔法以外はポンコツ」

「料理が凶器」

 私も酷いけど勇者様も凶器って酷いよ？私達の言葉を聞いた師匠が不貞腐れながらも教えてくれたのは、魔力が強い弊害って言うのかな？魔法で不正を暴いたりしたから、貴族の一部から怯えられたり嫌われたりして揉めたらしい。だから王族を抜けたって……そんなに簡単にはいかないと思うけど？

「お城に行けば面倒臭い事にならないですか？」

「「……」」

 ちょっと、二人共!!そこで黙ったら面倒だって言ってるのと一緒！え～、引っ越しは何時もの事だけど、貴族のゴタゴタに巻き込まれたくないなぁ。

「今回は、国が相手の上に、弟がリナに会わせろって煩いんだよ。諦めろ」

 私が渋々、頷くと師匠は明らかにホッとした表情になった。……はぁ。仕方ない。面倒な事になったら師匠に押し付けます。