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本編

勇者様は苦労人でした

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 面倒臭い同級生との再会で迷惑掛けたくなくて、私は勇者様の腕を掴んで引っ張った。

「行きましょう。無視で大丈夫です」

「蝋燭女って、イリーナの事か?」

 目を丸くして私とマークを交互にみる。勇者様が私に確認するから頷いた。
 私の髪と目はオレンジ色。髪が炎みたいだから彼は、私は蝋燭みたいだと言った。それ以来、彼は私を蝋燭女と呼んでいる。まぁ、マーク以外は呼ばないから気にしてないけどね。

「私の髪が炎みたいなんだそうですよ」

 私が自分の髪を一束掴みながらそう言えば、勇者様がその髪に触れた。

「あぁ、炎みたいに温かくて綺麗な髪だ」

 優しい笑顔でそんな事言われたのは初めてで、嬉しさと恥ずかしさで頬が熱くなる。

「ば、バカじゃねぇの!何が綺麗だよ!ブス!」

 また始まった。マークの友人達も呆れた顔で止めるけど、彼は更に人を貶して止まらない。小さな子どもみたいな行動に、大きなため息を吐いた。相手にしてたら怒鳴る。無視しても咎める。どうしたら良いのかなぁ?師匠に相談したら……駄目だ。悪い結果しか浮かばない。

「師匠は、この事知っているのか?」

 勇者様が心配そうに眉を下げて私の顔を見てくる。他人がみてもマークの言葉は酷いよね。でも……

「師匠に言ったら、魔法で吹き飛ばしそうですし」

「あー……うん、言わなくて正解かもな」

 勇者様、即答で肯定したよ。師匠は強いけど話し合いで解決が出来ない人なんだよね。勇者様と二人で苦笑いしていると、無視されて怒ったのかマークが更に騒ぎだした。

「「うるさい」」

 勇者様と言葉が重なって、二人で顔を見合わせて笑う。勇者様が楽しそうに笑うと、荷物を私に渡した。

「ちょっと、待っててくれ」

 え?ちょっと、重い!!待って、こんなに重い物を一人で軽々と持ってたの!?荷物の重さに私が驚いているうちに、勇者様がマークの耳元で何か言った後、首の後ろに手を添えただけでマークの身体が崩れ落ちた。

「寝てるだけだよ。悪いがコイツ連れて帰ってくれ」

 グッタリと力の抜けている大人を片手で持ち上げた勇者様が、友人達に彼を渡した。彼等はふらつきながらマークを支えると、勇者様に謝りながら町の中に消えた。彼等が見えなくなると、勇者様は一人で頷いて私のところに戻って来る。

「何かしたんですか?」

「あれか……帰ってから説明するよ」

 少し困った様な顔をしていたので、それ以上聞けなくなった私が、黙って頷くと、荷物を一人で持って先に歩き出した。慌てて後を追いかける。帰り着いて直ぐに片付けると、勇者様にテーブルに座るように言われた。向かいに座ると、勇者様は視線を下に向けたままで話し始めた。

「さっきの事だけど……」

 そう言って教えてくれたのは、触るだけで相手にダメージを与える事だった。溢れる魔力って、どれくらいあるんだろう?魔力切れなんてしないのかな?それに……

「魔力でダメージって聞いた事ないです」

「そうだね。珍しいらしいよ。だから、小さい頃は物を壊したり相手を怪我させたり大変だったよ」

 勇者様が今、普通に暮らせるのは師匠の修行のお陰なんだって。珍しいから誰も対処法が分からなかったらしい。確かに師匠は天才なんだよね。

「師匠、魔法に関して天才ですもんね」

「イリーナ、それは……言っちゃ駄目なヤツだよ」

「え?私、普通に本人に言いますよ」

 マジか~って言いながら勇者様が笑う。私も笑いながら勇者様の知らない師匠の失敗談を話した。師匠が昔、言った事がある。強いヤツほど苦労してるって。

きっと、勇者様の事なんですね。

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