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「クロード様が神殿に入った?」
「えぇ、義姉が幾つかの準備した候補の中から自ら選んで行きました」
婚約者候補者との面会が全て失敗に終わり、改めてヴォルフ様と設けられた交流の場で知らされたのはクロード様のその後。
確かにリリアン様が改めて謝罪に来られた時、これ以上迷惑は掛けないと仰っていたし、私も二度と会いたく無いと言ってしまったけど……神殿……
「神殿に入る事がどういう事かご理解して入られたのですか?」
「していないと思います」
ヴォルフ様の答えに納得して頷いてしまった。今のは失礼よね。でも、神殿に入るって事は俗世と離れて、毎日、質素な生活の中で掃除等を自分でした後、修行をして全ての穢れを体から出して初めて外に出られると聞いた事があるけど……
「昔ほど厳しくは無いそうですが、サボり癖のあるクロードには辛いものでしょう。聖書さえ読んだ事がありませんから」
「そうですか」
何と答えて良いのか困ってしまった私は、一言だけ言うとお茶を飲んでその場を誤魔化した。
「貴女は優しすぎる」
「え?急にどうされましたか?」
「クロードの事は気にやむ必要ありません。あれはうちの元両親とクロード本人が悪いのですから」
“元両親”と言われて反らしていた視線を戻すとヴォルフ様が苦笑いしている。彼の話ではクロード様の学園での成績と自宅での実務の様子が余りにも掛け離れていた為、学園に調査が入った。その結果、賄賂を贈って成績を誤魔化し卒業した事が発覚した。元々、定期的に調査が入る学園で発見された汚職は大問題になった。騎士団まで出動してかなり大掛かりの捜査の中で多数の逮捕者が出たけど……
「結局、ご両親の逮捕は確定なのですか?」
「えぇ、当主を引退した後なので投獄での逮捕が確定しました。これで我が家の膿は全て出しきりましたので、貴女にご迷惑を掛ける事はありません」
そう言ったヴォルフ様はとてもスッキリとした表情を見せた。もっと両親や弟の事を悲しむと言うか、直ぐには割りきれないのかと思っていたけど決断力は高いのね。
「元から兄の補佐をするよう教育を受けてますし、騎士団の方は役職が有るわけでは無いので一・二ヶ月で辞める事が出来ます」
急に話が変わって驚いている私に、ヴォルフ様は畳み掛ける様に自分の利点をアピールする。確かに補佐の教育を受けているなら執務面でも問題は無いわね。うちの領地には騎士団の支所は無いから辞めるしか無いけど、そんな簡単には辞めて仕事に未練は無いのかしら?
「未練はございませんか?」
「実家にですか?それとも騎士団ですか?」
「両方ですわ。ご実家なら騎士団を続けながら補佐も出来たのではありませんか?」
「未練はありません。元々、騎士団に入った動機が不純ですから」
動機不純と聞いて驚いている私を見てヴォルフ様は笑いながら私を見ると辛かったと言った。は?辛かった?え?辛くなるほど嫌いだったのかしら?それとも不憫に見えたのかしら?
「弟の婚約者だと頭では分かっていても心では貴女の隣に立ちたかった」
「え?」
思わず間抜けな声が出てしまう私にヴォルフ様は笑う。
「私は、貴女に恋焦がれていたのです。どうか恋に目を曇らせ誤解した愚か者ですが、もう一度だけチャンスを頂けませんか?」
熱く語る訳でも強引に話を進める訳でもないヴォルフ様の言葉。だけど何故だか拒否する事も保留する事も許さないと言う様な威圧感を感じて私は黙って頷いた。
「えぇ、義姉が幾つかの準備した候補の中から自ら選んで行きました」
婚約者候補者との面会が全て失敗に終わり、改めてヴォルフ様と設けられた交流の場で知らされたのはクロード様のその後。
確かにリリアン様が改めて謝罪に来られた時、これ以上迷惑は掛けないと仰っていたし、私も二度と会いたく無いと言ってしまったけど……神殿……
「神殿に入る事がどういう事かご理解して入られたのですか?」
「していないと思います」
ヴォルフ様の答えに納得して頷いてしまった。今のは失礼よね。でも、神殿に入るって事は俗世と離れて、毎日、質素な生活の中で掃除等を自分でした後、修行をして全ての穢れを体から出して初めて外に出られると聞いた事があるけど……
「昔ほど厳しくは無いそうですが、サボり癖のあるクロードには辛いものでしょう。聖書さえ読んだ事がありませんから」
「そうですか」
何と答えて良いのか困ってしまった私は、一言だけ言うとお茶を飲んでその場を誤魔化した。
「貴女は優しすぎる」
「え?急にどうされましたか?」
「クロードの事は気にやむ必要ありません。あれはうちの元両親とクロード本人が悪いのですから」
“元両親”と言われて反らしていた視線を戻すとヴォルフ様が苦笑いしている。彼の話ではクロード様の学園での成績と自宅での実務の様子が余りにも掛け離れていた為、学園に調査が入った。その結果、賄賂を贈って成績を誤魔化し卒業した事が発覚した。元々、定期的に調査が入る学園で発見された汚職は大問題になった。騎士団まで出動してかなり大掛かりの捜査の中で多数の逮捕者が出たけど……
「結局、ご両親の逮捕は確定なのですか?」
「えぇ、当主を引退した後なので投獄での逮捕が確定しました。これで我が家の膿は全て出しきりましたので、貴女にご迷惑を掛ける事はありません」
そう言ったヴォルフ様はとてもスッキリとした表情を見せた。もっと両親や弟の事を悲しむと言うか、直ぐには割りきれないのかと思っていたけど決断力は高いのね。
「元から兄の補佐をするよう教育を受けてますし、騎士団の方は役職が有るわけでは無いので一・二ヶ月で辞める事が出来ます」
急に話が変わって驚いている私に、ヴォルフ様は畳み掛ける様に自分の利点をアピールする。確かに補佐の教育を受けているなら執務面でも問題は無いわね。うちの領地には騎士団の支所は無いから辞めるしか無いけど、そんな簡単には辞めて仕事に未練は無いのかしら?
「未練はございませんか?」
「実家にですか?それとも騎士団ですか?」
「両方ですわ。ご実家なら騎士団を続けながら補佐も出来たのではありませんか?」
「未練はありません。元々、騎士団に入った動機が不純ですから」
動機不純と聞いて驚いている私を見てヴォルフ様は笑いながら私を見ると辛かったと言った。は?辛かった?え?辛くなるほど嫌いだったのかしら?それとも不憫に見えたのかしら?
「弟の婚約者だと頭では分かっていても心では貴女の隣に立ちたかった」
「え?」
思わず間抜けな声が出てしまう私にヴォルフ様は笑う。
「私は、貴女に恋焦がれていたのです。どうか恋に目を曇らせ誤解した愚か者ですが、もう一度だけチャンスを頂けませんか?」
熱く語る訳でも強引に話を進める訳でもないヴォルフ様の言葉。だけど何故だか拒否する事も保留する事も許さないと言う様な威圧感を感じて私は黙って頷いた。
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