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8 side クロード
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義姉の何処か愉しげな声が異様に響く室内で俺は震えるしか出来ない。隣国より国内の神殿ならハリエットに会うチャンスがあるかも知れない。そうさ、俺に惚れてるアイツならボロボロの俺をみれば助ける。そう思って神殿を選んだ俺を義姉は鼻で笑った。
「どちらを選んでもハリエット嬢には二度と会えないわ。彼女からの希望なの。貴方には手紙を預かっているわ」
義姉が差し出した手紙を受け取り読もうとしたが、ヴォルフ兄さんが従者を呼んで俺の荷物を馬車に積む様に指示を出して部屋から追い出した。なんだよ!そんな荷物みたいな扱いすんなよ!
ヴォルフ兄さんと従者に囲まれ抵抗出来ずに馬車に乗り込むと外側から鍵を掛ける音が聞こえた。
「脱走防止だ。兄さんに迷惑掛けるな」
両親の顔すら見ずに家を出されるなんて、一体、何が起きているか分からない。先の見えない恐怖に震えながら一筋の希望を求めて、走り出した馬車の中でハリエットからの手紙を開いた。
『歩みよりもなく、今後の学習も見込めない貴方には失望致しました。二度と会うことはないと思いますが、私を見掛けても声を掛けないで下さい』
“失望”
その一言が全てを語っている気がした。アイツがフォローしてくれる事に甘えて何もしてこなかった俺。勉強が面倒で逃げた俺は、アイツからも見捨てられたのか?ハリエットから見放されれば誰が俺を助けてくれるんだ?……そうだ……両親が……
「ご当主が交代して何が変わるのかね~」
「シューザ様は公平な方だから、いきなりクビになる事はなくなるってよ」
「マジ?じゃあ、クビになった奴をもう一度、雇ってくれるかなぁ」
「……ヤールの事か?」
「ヤールもだけどクリスもだよ」
「あー、あの二人か。今は神殿で出世したんだろう?」
馬車の外から聞こえたのは御者の雑談。当主が交代?シューザ兄さんが当主になったのか……両親に嘘をついてクビにした二人が神殿にいる?俺はアイツらの下で働くって事か……冗談じゃない!それくらいなら隣国の商会に行った方が
「他の人は、どうなったか知ってるか?」
あの二人以外にも転職しているのか?まさか隣国の商会にも……
「ほら、元執事のモーリスさん覚えてるか?」
「あぁ、めちゃくちゃ頭のキレるあの人か」
「今じゃ隣国の商会で会頭になったってよ。こっちでも支店を出すってリリアン様に挨拶に来てたよ」
「へぇー、貴族相手の商会かスゲーな」
移動に時間が掛かるのか二人の雑談が続く中、俺は馬車の中で震えていた。どちらを選んでも地獄。イヤだ、イヤだ、イヤだ……そうだ!両親に手紙を書いて破門の撤回を頼めば!
「元ご当主のお二人はどうなるんだ?」
「お二人は領地で監禁だってさ。ほら、クロード様に甘いから手助けしない様にってよ」
「あー、あれは酷かったな。入婿になるのに教育してなかっただろう?」
「そうだなぁ、虐待って言ってもいいかもな……あっ!ヤールだ」
「お疲れ様、お昼ご飯食べておいでよ。荷物はこっちで下ろしとくからさ」
「ありがとう」
御者が降りる音の後ため息が聞こえた。外か鍵を開ける音がして開いたドアの向こうには、勉強をサボった事を兄さんに告げ口した仕返しに、両親を騙してクビにした元従者がいた。
「さて、今から貴方はただのクロードになります。貴族ではないので特別扱いもありません」
無表情のまま淡々とこれからの予定を話すヤールが不気味に見えた。着替えは勿論、洗濯も自分でやれ?そんな事、一度もしたことは……
「出来ない事は一から教えてあげますよ。出来ないと食事も出来ませんから絶対に覚えて下さい」
知るかよ。適当にサボって他の誰かに押し付け……
「そう、そう。最後に一つ。他人に仕事を押し付けなんて出来ませんからね?」
そう言って初めて笑顔を見せたヤールの目は暗く淀んで見えた。
連れて行かれた先には馬小屋と間違えそうな簡素な木造の家が一つ。今日からここが俺の住みからしい。
「全ての仕事が一人で出来る様になったら下級になれますよ」
全ての仕事ってなんだよ。神学の勉強もしていない。掃除、洗濯も出来ない。
俺は、これから何を覚えれば良いんだ?
「先ずは洗濯と掃除。後は聖書の暗記ですね。全ての文章を覚えて下さい。これも修行です」
そう言ってヤールから渡されたのは、俺の握りこぶしと同じ厚みの本と掃除道具だった。
「さぁ、始めましょうか」
満面の笑みを浮かべるヤールが何故だか悪魔に見える。これが終わりの見えない生活の始まりだった。
「どちらを選んでもハリエット嬢には二度と会えないわ。彼女からの希望なの。貴方には手紙を預かっているわ」
義姉が差し出した手紙を受け取り読もうとしたが、ヴォルフ兄さんが従者を呼んで俺の荷物を馬車に積む様に指示を出して部屋から追い出した。なんだよ!そんな荷物みたいな扱いすんなよ!
ヴォルフ兄さんと従者に囲まれ抵抗出来ずに馬車に乗り込むと外側から鍵を掛ける音が聞こえた。
「脱走防止だ。兄さんに迷惑掛けるな」
両親の顔すら見ずに家を出されるなんて、一体、何が起きているか分からない。先の見えない恐怖に震えながら一筋の希望を求めて、走り出した馬車の中でハリエットからの手紙を開いた。
『歩みよりもなく、今後の学習も見込めない貴方には失望致しました。二度と会うことはないと思いますが、私を見掛けても声を掛けないで下さい』
“失望”
その一言が全てを語っている気がした。アイツがフォローしてくれる事に甘えて何もしてこなかった俺。勉強が面倒で逃げた俺は、アイツからも見捨てられたのか?ハリエットから見放されれば誰が俺を助けてくれるんだ?……そうだ……両親が……
「ご当主が交代して何が変わるのかね~」
「シューザ様は公平な方だから、いきなりクビになる事はなくなるってよ」
「マジ?じゃあ、クビになった奴をもう一度、雇ってくれるかなぁ」
「……ヤールの事か?」
「ヤールもだけどクリスもだよ」
「あー、あの二人か。今は神殿で出世したんだろう?」
馬車の外から聞こえたのは御者の雑談。当主が交代?シューザ兄さんが当主になったのか……両親に嘘をついてクビにした二人が神殿にいる?俺はアイツらの下で働くって事か……冗談じゃない!それくらいなら隣国の商会に行った方が
「他の人は、どうなったか知ってるか?」
あの二人以外にも転職しているのか?まさか隣国の商会にも……
「ほら、元執事のモーリスさん覚えてるか?」
「あぁ、めちゃくちゃ頭のキレるあの人か」
「今じゃ隣国の商会で会頭になったってよ。こっちでも支店を出すってリリアン様に挨拶に来てたよ」
「へぇー、貴族相手の商会かスゲーな」
移動に時間が掛かるのか二人の雑談が続く中、俺は馬車の中で震えていた。どちらを選んでも地獄。イヤだ、イヤだ、イヤだ……そうだ!両親に手紙を書いて破門の撤回を頼めば!
「元ご当主のお二人はどうなるんだ?」
「お二人は領地で監禁だってさ。ほら、クロード様に甘いから手助けしない様にってよ」
「あー、あれは酷かったな。入婿になるのに教育してなかっただろう?」
「そうだなぁ、虐待って言ってもいいかもな……あっ!ヤールだ」
「お疲れ様、お昼ご飯食べておいでよ。荷物はこっちで下ろしとくからさ」
「ありがとう」
御者が降りる音の後ため息が聞こえた。外か鍵を開ける音がして開いたドアの向こうには、勉強をサボった事を兄さんに告げ口した仕返しに、両親を騙してクビにした元従者がいた。
「さて、今から貴方はただのクロードになります。貴族ではないので特別扱いもありません」
無表情のまま淡々とこれからの予定を話すヤールが不気味に見えた。着替えは勿論、洗濯も自分でやれ?そんな事、一度もしたことは……
「出来ない事は一から教えてあげますよ。出来ないと食事も出来ませんから絶対に覚えて下さい」
知るかよ。適当にサボって他の誰かに押し付け……
「そう、そう。最後に一つ。他人に仕事を押し付けなんて出来ませんからね?」
そう言って初めて笑顔を見せたヤールの目は暗く淀んで見えた。
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全ての仕事ってなんだよ。神学の勉強もしていない。掃除、洗濯も出来ない。
俺は、これから何を覚えれば良いんだ?
「先ずは洗濯と掃除。後は聖書の暗記ですね。全ての文章を覚えて下さい。これも修行です」
そう言ってヤールから渡されたのは、俺の握りこぶしと同じ厚みの本と掃除道具だった。
「さぁ、始めましょうか」
満面の笑みを浮かべるヤールが何故だか悪魔に見える。これが終わりの見えない生活の始まりだった。
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