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「ハリエット様、申し訳ございません。クロード様は体調が悪く……」
庭で一人待たされていた私の前に顔色の悪い従者が現れて言った言葉に、私は我慢できずに大きなため息を吐き出した。
「嘘はつかなくても良いわ。さっき出た馬車がいましたね」
「あ!いや、その……」
「自分の従者に嘘までつかせて最低ね。……ごめんなさい、貴方に文句を言っても仕方ないわね」
私が嘘に気付いた事で焦る従者に謝罪する。もう関係改善は無理ね。直ぐに帰宅して両親にこの事を伝えなくては……
「良くしてくれたのにごめんなさいね。貴方がいれてくれたお茶、美味しかったわ。ありがとう」
私が従者に改めてお礼を言うと彼は眉を下げて今にも泣きそうな表情になってしまった。私は何て声を掛けて良いか困ってしまって苦笑いした時、誰かが近付く足音が聞こえた。
音のする方へ視線を向けると長男のシューザ様と婚約者のリリアン様。その後には騎士の制服を着たヴォルフ様が揃って、こちらに向かって歩いて着た。あら、タイミングの悪い事で。
「はぁ……クロードはまた、居なくなったのか」
「も、申し訳御座いません」
シューザ様の言葉に慌てて頭を下げる従者。その横でリリアン様は不機嫌さを隠そうともせずに憤っていた。他の方々はお優しく素晴らしい方ばかりなのに、どうしてクロード様だけ違うのかしら?
「義弟がご迷惑をお掛けして、申し訳御座いません」
クロード様の変わりに謝るリリアン様や他の方々に、私も申し訳ない気持ちになる。さっさと見切りをつけていれば皆様を煩わせる事もなかったと後悔した。
「リリアン様、頭を上げて下さい。皆様のせいでは御座いません」
リリアン様が頭を上げるのを待ってから、私は深呼吸をして改めて皆様に視線を向けると頭を下げた。
「皆様からお気遣い頂きましたが、当家としては婚約続行は不可能との判断に至りました」
全てを言いきってからゆっくり顔を上げると、目尻に涙を溜めるリリアン様と諦めの表情のシューザ様と視線が合った。
「ハリエット、私も同感だ。君が気をやる必要はないよ」
「そうね。全てはクロードが悪いわ。何度も義両親が説明しても話を聞かないのだもの」
私を慰めてくれるお二人の後ろで、ヴォルフ様は無言のまま私を見ている。この態度ですと、ヴォルフ様も弟の尻拭いは嫌なのかもしれないわ。交代より白紙が良いかもしれないわ。
「婚約は白紙を願い出る予定です」
「白紙?しかし、契約ではヴォルフと変えるとなっていなかったか?」
顎に手を添えて首を傾げたシューザ様に、リリアン様も横で頷いている。それでもヴォルフ様は無言のままだった。
「私のせいでご家族が揉めて嫌ですので、全てを白紙にする方が良いかと考えておりますの」
「え?いや、それは……」
言葉を濁しながらシューザ様がヴォルフ様に視線を向けたけど、私は首を横に振って何も言わなかった。下手な言葉を言ってヴォルフ様が困るような事にならない様に、笑って誤魔化して退席の挨拶をして帰宅の為に我が家の馬車に向かって歩き出した。
後ろでリリアン様がヴォルフ様に何か言っていたけど、余計な事に巻き込まれたくなくて振り返る事無く馬車に乗り込んだ。
庭で一人待たされていた私の前に顔色の悪い従者が現れて言った言葉に、私は我慢できずに大きなため息を吐き出した。
「嘘はつかなくても良いわ。さっき出た馬車がいましたね」
「あ!いや、その……」
「自分の従者に嘘までつかせて最低ね。……ごめんなさい、貴方に文句を言っても仕方ないわね」
私が嘘に気付いた事で焦る従者に謝罪する。もう関係改善は無理ね。直ぐに帰宅して両親にこの事を伝えなくては……
「良くしてくれたのにごめんなさいね。貴方がいれてくれたお茶、美味しかったわ。ありがとう」
私が従者に改めてお礼を言うと彼は眉を下げて今にも泣きそうな表情になってしまった。私は何て声を掛けて良いか困ってしまって苦笑いした時、誰かが近付く足音が聞こえた。
音のする方へ視線を向けると長男のシューザ様と婚約者のリリアン様。その後には騎士の制服を着たヴォルフ様が揃って、こちらに向かって歩いて着た。あら、タイミングの悪い事で。
「はぁ……クロードはまた、居なくなったのか」
「も、申し訳御座いません」
シューザ様の言葉に慌てて頭を下げる従者。その横でリリアン様は不機嫌さを隠そうともせずに憤っていた。他の方々はお優しく素晴らしい方ばかりなのに、どうしてクロード様だけ違うのかしら?
「義弟がご迷惑をお掛けして、申し訳御座いません」
クロード様の変わりに謝るリリアン様や他の方々に、私も申し訳ない気持ちになる。さっさと見切りをつけていれば皆様を煩わせる事もなかったと後悔した。
「リリアン様、頭を上げて下さい。皆様のせいでは御座いません」
リリアン様が頭を上げるのを待ってから、私は深呼吸をして改めて皆様に視線を向けると頭を下げた。
「皆様からお気遣い頂きましたが、当家としては婚約続行は不可能との判断に至りました」
全てを言いきってからゆっくり顔を上げると、目尻に涙を溜めるリリアン様と諦めの表情のシューザ様と視線が合った。
「ハリエット、私も同感だ。君が気をやる必要はないよ」
「そうね。全てはクロードが悪いわ。何度も義両親が説明しても話を聞かないのだもの」
私を慰めてくれるお二人の後ろで、ヴォルフ様は無言のまま私を見ている。この態度ですと、ヴォルフ様も弟の尻拭いは嫌なのかもしれないわ。交代より白紙が良いかもしれないわ。
「婚約は白紙を願い出る予定です」
「白紙?しかし、契約ではヴォルフと変えるとなっていなかったか?」
顎に手を添えて首を傾げたシューザ様に、リリアン様も横で頷いている。それでもヴォルフ様は無言のままだった。
「私のせいでご家族が揉めて嫌ですので、全てを白紙にする方が良いかと考えておりますの」
「え?いや、それは……」
言葉を濁しながらシューザ様がヴォルフ様に視線を向けたけど、私は首を横に振って何も言わなかった。下手な言葉を言ってヴォルフ様が困るような事にならない様に、笑って誤魔化して退席の挨拶をして帰宅の為に我が家の馬車に向かって歩き出した。
後ろでリリアン様がヴォルフ様に何か言っていたけど、余計な事に巻き込まれたくなくて振り返る事無く馬車に乗り込んだ。
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