[完結]本当にバカね

シマ

文字の大きさ
上 下
23 / 23

その後 side ウィルス 微ざまぁ

しおりを挟む
「猿轡も拘束もそのままで」

 我が家に使える騎士達が、荷物の様に俺を馬車に押し込める。クソ!後で父上に言ってクビにしてやる!


「なぁ、コイツ。まだ自分の立場が分かってないんじゃないか」

「……あぁ、コイツはバカだから理解出来ないのか。面倒くせぇな」

 は?俺をバカと言ったのか?主人に向かってバカと言ったのか!!
 騎士達の言葉に腹を立てて暴れようとしたが、後ろに回されている腕を締め上げられ呻くしかなかった。

「あんたはご主人じゃない。ご主人を騙したクズだ」

 そう言って聞かされたのはカルラが言っていた不義の子の話。母上が浮気をしていた事はショックだったが、何故俺がこんな扱いを受けなければならないのか理解出来なかった。

「まだわかんないのかよ……元夫人の産んだ不義の子はあんただよ」

 そう言えばカルラが言ってなかったか?侯爵家の血は入ってないと……アレは本当の事だったのか?

「まー、裏切ったのは元夫人だから、命だけは助かって良かったな」

「鉱山で働いて今までに掛かった金を返せば自由らしいから頑張って働けよ」

「働いた事のないお貴族様がどこまでもつか見ものだな」

 俺の事を好き勝手に言う騎士の言葉が頭をすり抜ける。今までに掛かった金?何の金だ?

「……おい、コイツまだ理解してないぞ」

「「は?」」

「金が幾らか言えば分かるか?」

 騎士達の感情の籠らない無機質な視線に体が勝手に震えた。この先は聞いてはいけない気がして、首を横に振って拒否するが一人の騎士が悪意ある笑みで俺の顔を押さえ付けた。

「今までの生活費にシュミットガル令嬢にプレゼントを贈ると言って騙しとった金。それにギャンブルまでしてたんだってな」

 カルラにプレゼントを買うと言って父上から貰った金は、遊びに全て使って残ってない。友人達に奢ったりターナにプレゼントした……あれも?

「総額で金貨一千枚。平民なら質素に暮らせば一生暮らしていける金だ」

 一生暮らす?赤ん坊が死ぬまで?え?俺が今までに使ったのか?……今から返す?一人で?奢られた友人やターナには請求しないのか?

「あぁ、そうだ。あんたが友人だと思っていた奴らは金蔓としか思ってなかったようだな。勘当されたと知った途端に行方を眩ませた」

「女の方は主が捕まえたようだ。あんたが贈ったプレゼントは全て質屋で換金されていたぞ」

 何が可笑しいのか騎士達が笑う。逃げた?換金?……俺は……俺は……


 騎士達の言葉を理解出来ずに困惑する俺に、一人が口の端だけ持ち上げて小馬鹿にした笑みで俺を真っ直ぐに見た。


い、嫌だ。嫌だ。嫌だ。聞きたくない。聞きたくない。聞きたくないんだよ!!


「あんた、騙されたんだよ。何が俺は偉いだ。シュミットガル令嬢がいなけりゃ何も出来ないクセに」

「「「本当にバカだな」」」



 騎士達の言葉が頭に響く。騙された?俺が?高貴な血筋の俺が?あ……侯爵家の人間じゃないんだった。



侯爵家の血筋じゃない俺。
カルラのノートがなければ留年の俺。
信じていた奴らに騙された俺は……生きている価値あるのか?




 騎士達の言葉を理解して呆然としている間に鉱山に着いた。ショックで動けなくなった俺を、騎士達が引きずる様に外に押し出した。俺の目の前にはゴツゴツとした岩肌しかない。崖の下に小屋が建ち並び、その中からデカイ男が出て来て騎士達に手を上げ挨拶している。


「へぇーコイツが侯爵様を騙した女の子供ね」

「借金は金貨一千枚だってよ。返せば自由なんだとさ」

「おや、侯爵様も慈悲深い。寝ずに働きゃ二十年くらいで完済だ」



 二十年……俺は……俺は……



「生きていられたらな」


 誰かがそう言った直後、大きな爆破音と共に洞窟の入口から土煙が噴き出した。ガタガタと恐怖で震えるだけの俺を残して、騎士達とデカイ男は洞窟へと駆け出した。



その冷静で落ち着いた対応が、これがここの日常だと嫌でも理解させられた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】愛してなどおりませんが

仲村 嘉高
恋愛
生まれた瞬間から、王妃になる事が決まっていたアメリア。 物心がついた頃には、王妃になる為の教育が始まった。 父親も母親も娘ではなく、王妃になる者として接してくる。 実兄だけは妹として可愛がってくれたが、それも皆に隠れてコッソリとだった。 そんなある日、両親が事故で亡くなった同い年の従妹ミアが引き取られた。 「可愛い娘が欲しかったの」 父親も母親も、従妹をただただ可愛いがった。 婚約者である王太子も、婚約者のアメリアよりミアとの時間を持ち始め……? ※HOT最高3位!ありがとうございます! ※『廃嫡王子』と設定が似てますが、別のお話です ※またやっちまった、断罪別ルート。(17話から)  どうしても決められなかった!!  結果は同じです。 (他サイトで公開していたものを、こちらでも公開しました)

ごきげんよう、元婚約者様

藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」  ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。  手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。 ※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。 ※ 3/25 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】思い込みの激しい方ですね

仲村 嘉高
恋愛
私の婚約者は、なぜか私を「貧乏人」と言います。 私は子爵家で、彼は伯爵家なので、爵位は彼の家の方が上ですが、商売だけに限れば、彼の家はうちの子会社的取引相手です。 家の方針で清廉な生活を心掛けているからでしょうか? タウンハウスが小さいからでしょうか? うちの領地のカントリーハウスを、彼は見た事ありません。 それどころか、「田舎なんて行ってもつまらない」と領地に来た事もありません。 この方、大丈夫なのでしょうか? ※HOT最高4位!ありがとうございます!

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。

葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。 それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。 本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。 ※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。 番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。 (2021/02/07 02:00) 小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。 恋愛及び全体1位ありがとうございます! ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

処理中です...