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しおりを挟む「ギルドマスターの事……異性として好きなのか?」
腹黒の殿下にしては珍しく直球な質問に、瞬きを繰り返した私は一瞬遅れて意味を理解した。
この人は何がしたいのかしら?そんな事を聞いてどうするの?
貴族の特権と義務。
義務を放棄してしまえばどうなるか、貴方も分かっているでしょう?
「それが何か?そんな事を聞いてどうするのでしょう?」
「いや、聞いてみたくなった……君の態度と笑顔が我々に対するものと余りにも違うから」
「そうですね……兄妹だと言われましたわ。初恋は実らない物だそうですよ」
私の言葉に殿下が息を飲む。殿下の推測通りガイに恋心を持っていた。バカで嫌いだとしても婚約者がいる身で、彼に気持ちを伝えたらどうなるか。そんな事、分かりきっているわ。だから自分で終わらせた初恋。ガイに逢えば懐かしく思うけど、もう……
「それは……どういう意味だ?」
微かに手が震える殿下に驚いて視線が釘付けになった。絞り出す様に私に続きを尋ねた殿下は真っ青な表情をしている。
「フフ、そのままですわ。私の初恋はずっと前に終わったのですよ」
私の返答に真っ青な顔で困惑する殿下の姿は、彼の素の表情に思えた。珍しい事もあるわね。
「私の表情が違うのは当然ではないですか。孤児院の建て直しに苦楽を共にした初恋相手と、私を助ける事も素を見せる事もなく見ていただけの人」
一度、言葉を切った私は、改めて殿下の目を真っ直ぐに見詰め返した。私の態度に更に困惑したのか、それとも言葉を受け入れられないのか殿下は何も言わずに視線を返します。
「自分を隠す人に素を見せる程、生易しい環境で育ってはいませんので」
「……そうだったね。それは我々の落ち度だ。陛下のお気に入り等と言われなければ、君は自由に学問に打ち込み医者を目指したのだろうな」
「そうですね。母の病気を治したかったので……でも、結果的には良かったと思いたいですわ。あの本に出会えましたもの」
「……そうか……」
殿下が一言、呟いた時、馬車が我が家の門を潜り停車場が見えました。これで殿下ともお別れね。流石に王族でもある彼がいくら婚約者候補とはいえ、ただの伯爵令嬢に素を見せるとも本音を話すとも思えないもの。
「……私にまだチャンスはあるだろうか?」
「それは御自身のお心次第ではございませんか?……では、本日は楽しい時間をありがとうございました」
殿下が伸ばした手をすり抜け馬車を降りると、深々と頭を下げます。この話はこれで終わりだと強引に終わらせる私に、頭の上から小さく息を吐き出す音が聞こえた。
「その拒絶も自業自得とは理解していても辛いね」
小さな声で言われた殿下の言葉に思わず肩が揺れた。立ち去る気配の無い殿下に警戒しながら顔を上げると、眉尻を下げ困った様な泣きそうな表情がある。驚いて言葉に詰まっていると、殿下が手を差し出した。
「手を握るくらいは赦されるだろうか」
「……」
無言で手を握り返すと、殿下は手紙くらいは許して欲しいと言い残して帰って行った。
手紙ね……家には来ないけど諦めずに手紙は書くって事かしら?私に拘らず侯爵家の令嬢と婚姻を結べば、コネや繋がりが強くなって今以上に仕事が進むでしょうに……殿下って……
「本当にバカね」
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