[完結]本当にバカね

シマ

文字の大きさ
上 下
20 / 23

19

しおりを挟む

「ギルドマスターの事……異性として好きなのか?」

 腹黒の殿下にしては珍しく直球な質問に、瞬きを繰り返した私は一瞬遅れて意味を理解した。

 この人は何がしたいのかしら?そんな事を聞いてどうするの?

貴族の特権と義務。

 義務を放棄してしまえばどうなるか、貴方も分かっているでしょう?

「それが何か?そんな事を聞いてどうするのでしょう?」

「いや、聞いてみたくなった……君の態度と笑顔が我々に対するものと余りにも違うから」

「そうですね……兄妹だと言われましたわ。初恋は実らない物だそうですよ」

 私の言葉に殿下が息を飲む。殿下の推測通りガイに恋心を持っていた。バカで嫌いだとしても婚約者がいる身で、彼に気持ちを伝えたらどうなるか。そんな事、分かりきっているわ。だから自分で終わらせた初恋。ガイに逢えば懐かしく思うけど、もう……

「それは……どういう意味だ?」

 微かに手が震える殿下に驚いて視線が釘付けになった。絞り出す様に私に続きを尋ねた殿下は真っ青な表情をしている。

「フフ、そのままですわ。私の初恋はずっと前に終わったのですよ」

 私の返答に真っ青な顔で困惑する殿下の姿は、彼の素の表情に思えた。珍しい事もあるわね。

「私の表情が違うのは当然ではないですか。孤児院の建て直しに苦楽を共にした初恋相手と、私を助ける事も素を見せる事もなく見ていただけの人」

 一度、言葉を切った私は、改めて殿下の目を真っ直ぐに見詰め返した。私の態度に更に困惑したのか、それとも言葉を受け入れられないのか殿下は何も言わずに視線を返します。

「自分を隠す人に素を見せる程、生易しい環境で育ってはいませんので」

「……そうだったね。それは我々の落ち度だ。陛下のお気に入り等と言われなければ、君は自由に学問に打ち込み医者を目指したのだろうな」

「そうですね。母の病気を治したかったので……でも、結果的には良かったと思いたいですわ。あの本に出会えましたもの」

「……そうか……」

 殿下が一言、呟いた時、馬車が我が家の門を潜り停車場が見えました。これで殿下ともお別れね。流石に王族でもある彼がいくら婚約者候補とはいえ、ただの伯爵令嬢に素を見せるとも本音を話すとも思えないもの。

「……私にまだチャンスはあるだろうか?」

「それは御自身のお心次第ではございませんか?……では、本日は楽しい時間をありがとうございました」

 殿下が伸ばした手をすり抜け馬車を降りると、深々と頭を下げます。この話はこれで終わりだと強引に終わらせる私に、頭の上から小さく息を吐き出す音が聞こえた。

「その拒絶も自業自得とは理解していても辛いね」

 小さな声で言われた殿下の言葉に思わず肩が揺れた。立ち去る気配の無い殿下に警戒しながら顔を上げると、眉尻を下げ困った様な泣きそうな表情がある。驚いて言葉に詰まっていると、殿下が手を差し出した。

「手を握るくらいは赦されるだろうか」

「……」

 無言で手を握り返すと、殿下は手紙くらいは許して欲しいと言い残して帰って行った。

 手紙ね……家には来ないけど諦めずに手紙は書くって事かしら?私に拘らず侯爵家の令嬢と婚姻を結べば、コネや繋がりが強くなって今以上に仕事が進むでしょうに……殿下って……


「本当にバカね」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

【完結】不貞を働いた貴方に言うことは特にございません。

西東友一
恋愛
婚約者デネブの不貞行為を目撃したエミュレット。 ただ一言、 「デネブ様、婚約は解消させて頂きます。お世話になりました」

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

裏切りの代償はその命で

秋津冴
恋愛
「公女ナフティリア。彼女こそは、亡国タージマルの王女オリビア様だ。故国の滅亡により、我が国ローストスに亡命なされた。これまで市民のなかに紛れ、身分を隠して生きてこられた。彼女の生い立ちを知りながら、王太子妃補の特権を利用して、お前がオリビア様に行ってきたかずかずの虐待の証拠は挙がっている。お前には王族に対する侮辱罪が適用され‥‥‥」 「いや、それはおかしいだろ?」 「誰だッ?」

ごきげんよう、元婚約者様

藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」  ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。  手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。 ※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。 ※ 3/25 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】愛してなどおりませんが

仲村 嘉高
恋愛
生まれた瞬間から、王妃になる事が決まっていたアメリア。 物心がついた頃には、王妃になる為の教育が始まった。 父親も母親も娘ではなく、王妃になる者として接してくる。 実兄だけは妹として可愛がってくれたが、それも皆に隠れてコッソリとだった。 そんなある日、両親が事故で亡くなった同い年の従妹ミアが引き取られた。 「可愛い娘が欲しかったの」 父親も母親も、従妹をただただ可愛いがった。 婚約者である王太子も、婚約者のアメリアよりミアとの時間を持ち始め……? ※HOT最高3位!ありがとうございます! ※『廃嫡王子』と設定が似てますが、別のお話です ※またやっちまった、断罪別ルート。(17話から)  どうしても決められなかった!!  結果は同じです。 (他サイトで公開していたものを、こちらでも公開しました)

処理中です...