14 / 23
14
しおりを挟む
殿下が押し掛けてきた次の週。今度は陛下から呼び出しがあった。届いた手紙を携えて登城すると、陛下の側近の方が直接、迎えに来て案内してくれた。案内されたのは執務室の隣にある急な話し合いなんかに使われる小さな部屋だった。
「陛下、シュミットガル令嬢をお連れしました」
「入れ」
中からの返事を待って入ると、陛下だけがソファーに深く座って疲れた様な表情をしている。側近の方に促され向かいのソファーに座ると、陛下はゆっくりと深いため息を吐き出した。
「急に呼び出してすまないね。ルーベルトとは話が合わなかったか?」
「……何の事で御座いましょう」
「婚約の話が進んでいないと聞いてね」
柔なか言い方で私に尋ねる陛下は、何処か苛立っているように見えた。仕事が立て込んでいるのか、それとも自分の思い通りに進まない婚約に焦れているのか。
「婚約に私の意思が反映されるのですか?」
「何故、そう思った理由を話してくれ」
「前回の婚約も私は反対しましたし、何度も破棄を申し出たはずですが?承認されなかった張本人が何を仰っているのでしょう」
私の言葉を聞いて一瞬だけ眉間にシワを寄せた陛下は、何かを堪えるように深いため息を吐き出した。
「私が悪かった。婚約者を早急に決めなければ君が危なかったのだ。破棄を認めなかった事も同じ理由だ」
「そうですか。今更、破棄を認めた理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
大きく頷いた陛下は、改めて私に頭を下げた。ローランド先生が褒めた事が発端だった私の噂が独り歩きして、陛下への謁見を境に陛下のお気に入りなんて呼ばれる様になっていた。陛下自身が気がついた時には噂を終息させるには広がり過ぎていて、息子と婚約させて護衛させるつもりだった。ところがコリン殿下は身体が弱く命の危険があったし他の王子には婚約者がいた為、王弟殿下に話を持っていっている間に父が友人の侯爵様と話を纏めてしまったと……
「焦っておられたのですか?どのみち伯爵令嬢に過ぎない私では王族との婚約は無理で御座いましょう」
「そうだ。反対する者を説き伏せている間に事は済んでいた。私には婚約を承認するしかなかったのだよ」
「そうですか。しかし、今更、婚約破棄をされた傷物の私には王族との婚約は難しいですわ。親戚から養子を迎えようと考えています」
「それは……誰とも結婚しないつもりか?」
「どうして信用出来ますか?私が欲しいと言いながら娼館に通う人や自分の意見も言わずに俯くだけの人ですよ」
可笑しな事をと私が笑えば、陛下は絶句していた。コリン殿下はともかく、ルーベルト殿下の事はご存知なかった様だ。
「娼館……そうか。キャサリンか」
「……陛下からも王弟殿下を止めて下さい。もう私は婚約で振り回されたくないのです」
「弟の名誉の為に言っておくが、キャサリンとはそういう関係では無い。王家の情報屋だ」
「それでも王弟殿下は否定されませんでしたわ。私にはそれが全てです」
私の話はこれで終わりだと口を閉ざすと、陛下はまた眉間にシワを寄せた。沈黙が続くなか部屋にノックの音が響き、外からギルドマスターが来たことを知らせた。
「君にも同席して欲しい。あの共同救済制度についての話をする」
「かしこまりました」
私が了承すると、側近の方がドアを開ける。入って来たのは我が家の領地出身のハンターだった。
「ガイ、久しぶりね」
「カルラ嬢!お元気そうで何よりです」
「貴方、マスターになったの?」
「え?聞いて無いのか?オヤジ殿には伝えたぞ」
「あら、お父様のヤキモチかしらね」
私が笑えばガイは苦笑いしながら頭を掻く。楽しく話す私達の横で陛下と側近の方は目を丸くして私達を見ていた。
「陛下、シュミットガル令嬢をお連れしました」
「入れ」
中からの返事を待って入ると、陛下だけがソファーに深く座って疲れた様な表情をしている。側近の方に促され向かいのソファーに座ると、陛下はゆっくりと深いため息を吐き出した。
「急に呼び出してすまないね。ルーベルトとは話が合わなかったか?」
「……何の事で御座いましょう」
「婚約の話が進んでいないと聞いてね」
柔なか言い方で私に尋ねる陛下は、何処か苛立っているように見えた。仕事が立て込んでいるのか、それとも自分の思い通りに進まない婚約に焦れているのか。
「婚約に私の意思が反映されるのですか?」
「何故、そう思った理由を話してくれ」
「前回の婚約も私は反対しましたし、何度も破棄を申し出たはずですが?承認されなかった張本人が何を仰っているのでしょう」
私の言葉を聞いて一瞬だけ眉間にシワを寄せた陛下は、何かを堪えるように深いため息を吐き出した。
「私が悪かった。婚約者を早急に決めなければ君が危なかったのだ。破棄を認めなかった事も同じ理由だ」
「そうですか。今更、破棄を認めた理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
大きく頷いた陛下は、改めて私に頭を下げた。ローランド先生が褒めた事が発端だった私の噂が独り歩きして、陛下への謁見を境に陛下のお気に入りなんて呼ばれる様になっていた。陛下自身が気がついた時には噂を終息させるには広がり過ぎていて、息子と婚約させて護衛させるつもりだった。ところがコリン殿下は身体が弱く命の危険があったし他の王子には婚約者がいた為、王弟殿下に話を持っていっている間に父が友人の侯爵様と話を纏めてしまったと……
「焦っておられたのですか?どのみち伯爵令嬢に過ぎない私では王族との婚約は無理で御座いましょう」
「そうだ。反対する者を説き伏せている間に事は済んでいた。私には婚約を承認するしかなかったのだよ」
「そうですか。しかし、今更、婚約破棄をされた傷物の私には王族との婚約は難しいですわ。親戚から養子を迎えようと考えています」
「それは……誰とも結婚しないつもりか?」
「どうして信用出来ますか?私が欲しいと言いながら娼館に通う人や自分の意見も言わずに俯くだけの人ですよ」
可笑しな事をと私が笑えば、陛下は絶句していた。コリン殿下はともかく、ルーベルト殿下の事はご存知なかった様だ。
「娼館……そうか。キャサリンか」
「……陛下からも王弟殿下を止めて下さい。もう私は婚約で振り回されたくないのです」
「弟の名誉の為に言っておくが、キャサリンとはそういう関係では無い。王家の情報屋だ」
「それでも王弟殿下は否定されませんでしたわ。私にはそれが全てです」
私の話はこれで終わりだと口を閉ざすと、陛下はまた眉間にシワを寄せた。沈黙が続くなか部屋にノックの音が響き、外からギルドマスターが来たことを知らせた。
「君にも同席して欲しい。あの共同救済制度についての話をする」
「かしこまりました」
私が了承すると、側近の方がドアを開ける。入って来たのは我が家の領地出身のハンターだった。
「ガイ、久しぶりね」
「カルラ嬢!お元気そうで何よりです」
「貴方、マスターになったの?」
「え?聞いて無いのか?オヤジ殿には伝えたぞ」
「あら、お父様のヤキモチかしらね」
私が笑えばガイは苦笑いしながら頭を掻く。楽しく話す私達の横で陛下と側近の方は目を丸くして私達を見ていた。
94
お気に入りに追加
315
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
ごきげんよう、元婚約者様
藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」
ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。
手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。
※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。
※ 3/25 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
裏切りの代償はその命で
秋津冴
恋愛
「公女ナフティリア。彼女こそは、亡国タージマルの王女オリビア様だ。故国の滅亡により、我が国ローストスに亡命なされた。これまで市民のなかに紛れ、身分を隠して生きてこられた。彼女の生い立ちを知りながら、王太子妃補の特権を利用して、お前がオリビア様に行ってきたかずかずの虐待の証拠は挙がっている。お前には王族に対する侮辱罪が適用され‥‥‥」
「いや、それはおかしいだろ?」
「誰だッ?」
【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。
葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。
それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。
本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。
※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。
番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。
(2021/02/07 02:00)
小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。
恋愛及び全体1位ありがとうございます!
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる