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店内の本の量に圧倒されていると、奥から歳上のライトブラウンの髪を一つに束ねた男性が出てきて殿下に挨拶を交わして談笑している。今回は本当に知り合いだったのかと考えていると二人が近付いてきて、殿下がオーナーの男性だと紹介してくれた。オーナーと挨拶を交わした後は二人は話があるらしく、私は自由に本を読んでいて構わないと言われた。
「あの奥にある部屋は何か伺っても大丈夫ですか?」
「あちらは古書だけの専用部屋です。保管と管理の為に部屋を分けてあります」
「興味深いですね。あちらの本を読んでも構いませんか?」
「それは構いませんが古語で書かれていますが……」
言葉を濁すオーナーに苦笑いしてしまう。貴族の女性の多くが学問より社交が中心と考える人なのだろう。実際に私と話の合う人は少ないものね。
「彼女は古語も習得済みだから問題ない」
「これは失礼致しました。私の周りには興味のある女性の方がいなかったので」
殿下の言葉を聞いたオーナーが困惑しつつ謝罪した。これくらいで怒ったりしないけど、私は謝罪を受け入れる事にした。
「よく言われますのでお気になさらずに。では奥を利用させて頂きます」
二人に頭を下げて奥の部屋に入る。閉まったドアに背中を預けその場に座り込むと、私はゆっくり深く息を吐き出した。
今のオーナーの様な会話はよくある事だけど、この数週間で色々な事がありすぎて心に重くのし掛かる。大丈夫、大丈夫。私はやれる。私は動かなきゃいけないのよ。病気の母を助ける為にも、もっと強くならなくちゃ。
何度か深呼吸を繰り返し心を落ち着けると、ゆっくりと立ち上がり目の前に並ぶ大小様々な本の中から読みたい本を探した。
王立図書館の蔵書にもない珍しい古書も混ざっていて、オーナーの選書の良さを感じた。王立図書館になかった本の中から、探していた医学古書を見つけて手に取った。
「あった……これなら」
部屋の中央に設置してあるテーブルと椅子には、読書の為の照明が手元を明るく照らしている。早速、本を開くと調薬の歴史と製法が書かれていた。
この本が産まれた国は山に囲まれた小さな国。そして、大国同士の戦の巻き添え受け地図から消えた悲劇の国だった。山にある草木から薬を作る薬師の国だったと言い伝えられていた。
時間も気にせず読み耽っていると、母と同じ症状の患者のページを見付けた。その病気は食べた物や植物の花粉等、様々な物で免疫が過剰反応するから起きると書いてあった。免疫の過剰反応って何かしら?お医者様と一緒に確認しなくちゃ。……後は何をしたら悪化するか調べて、過剰反応の原因を調べないといけないのね。原因を取り除くだけでも改善するの?凄いわ!
「シュミットガル令嬢!!」
大きな声が耳元で聞こえて跳び跳ねる様に顔を上げると、殿下が少し焦った様な表情で私を見ている。状況が理解出来ずに視線だけ動かすと、殿下の後ろにはオーナーも青ざめた表情で私を見ていた。
「やっと気付いたか。揺すっても反応しないから心配した」
揺すっても反応がない?そんなに集中していたかしら?
殿下の言葉が納得出来ずに壁掛けの時計に視線を移すと、ここに来てから三時間も過ぎていた。
「あら、私またやりましたか。ご迷惑をお掛けしました。お陰で興味深い本に出会えましたわ」
軋む体を無視して立ち上がると、オーナーの手に本を乗せる。殿下に向き直り迷惑を掛けた事を再び謝罪して帰宅の挨拶をした。
「何を言い出すんだ?」
「何をと言われても、私の意見など必要なさそうですから帰りますわ。お邪魔になる前に失礼致します」
驚いている二人を置いて店の外に出ると、乗合い馬車の停留所へ歩いて向かう。普段から自分一人で行動する私は小銭を持ち歩いているから、直ぐに受付が終わり御者に料金を払う。五人程が馬車に乗り込むと、次の停留所へ向かってゆっくりと走り出した。
「女性が一人で乗合い馬車に乗るなんて思いもしないでしょうね」
「あの奥にある部屋は何か伺っても大丈夫ですか?」
「あちらは古書だけの専用部屋です。保管と管理の為に部屋を分けてあります」
「興味深いですね。あちらの本を読んでも構いませんか?」
「それは構いませんが古語で書かれていますが……」
言葉を濁すオーナーに苦笑いしてしまう。貴族の女性の多くが学問より社交が中心と考える人なのだろう。実際に私と話の合う人は少ないものね。
「彼女は古語も習得済みだから問題ない」
「これは失礼致しました。私の周りには興味のある女性の方がいなかったので」
殿下の言葉を聞いたオーナーが困惑しつつ謝罪した。これくらいで怒ったりしないけど、私は謝罪を受け入れる事にした。
「よく言われますのでお気になさらずに。では奥を利用させて頂きます」
二人に頭を下げて奥の部屋に入る。閉まったドアに背中を預けその場に座り込むと、私はゆっくり深く息を吐き出した。
今のオーナーの様な会話はよくある事だけど、この数週間で色々な事がありすぎて心に重くのし掛かる。大丈夫、大丈夫。私はやれる。私は動かなきゃいけないのよ。病気の母を助ける為にも、もっと強くならなくちゃ。
何度か深呼吸を繰り返し心を落ち着けると、ゆっくりと立ち上がり目の前に並ぶ大小様々な本の中から読みたい本を探した。
王立図書館の蔵書にもない珍しい古書も混ざっていて、オーナーの選書の良さを感じた。王立図書館になかった本の中から、探していた医学古書を見つけて手に取った。
「あった……これなら」
部屋の中央に設置してあるテーブルと椅子には、読書の為の照明が手元を明るく照らしている。早速、本を開くと調薬の歴史と製法が書かれていた。
この本が産まれた国は山に囲まれた小さな国。そして、大国同士の戦の巻き添え受け地図から消えた悲劇の国だった。山にある草木から薬を作る薬師の国だったと言い伝えられていた。
時間も気にせず読み耽っていると、母と同じ症状の患者のページを見付けた。その病気は食べた物や植物の花粉等、様々な物で免疫が過剰反応するから起きると書いてあった。免疫の過剰反応って何かしら?お医者様と一緒に確認しなくちゃ。……後は何をしたら悪化するか調べて、過剰反応の原因を調べないといけないのね。原因を取り除くだけでも改善するの?凄いわ!
「シュミットガル令嬢!!」
大きな声が耳元で聞こえて跳び跳ねる様に顔を上げると、殿下が少し焦った様な表情で私を見ている。状況が理解出来ずに視線だけ動かすと、殿下の後ろにはオーナーも青ざめた表情で私を見ていた。
「やっと気付いたか。揺すっても反応しないから心配した」
揺すっても反応がない?そんなに集中していたかしら?
殿下の言葉が納得出来ずに壁掛けの時計に視線を移すと、ここに来てから三時間も過ぎていた。
「あら、私またやりましたか。ご迷惑をお掛けしました。お陰で興味深い本に出会えましたわ」
軋む体を無視して立ち上がると、オーナーの手に本を乗せる。殿下に向き直り迷惑を掛けた事を再び謝罪して帰宅の挨拶をした。
「何を言い出すんだ?」
「何をと言われても、私の意見など必要なさそうですから帰りますわ。お邪魔になる前に失礼致します」
驚いている二人を置いて店の外に出ると、乗合い馬車の停留所へ歩いて向かう。普段から自分一人で行動する私は小銭を持ち歩いているから、直ぐに受付が終わり御者に料金を払う。五人程が馬車に乗り込むと、次の停留所へ向かってゆっくりと走り出した。
「女性が一人で乗合い馬車に乗るなんて思いもしないでしょうね」
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