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婚約者破棄から約二週間後。今日は久しぶりに学園に登校する。今日から進級試験が始まる。
元々、卒業迄に終わらせないといけない課題は全て終了している私は、二年飛び級して卒業試験を受ける事になっている。元婚約者の所業に腹を立てていたとはいえ、飛び級試験は通常試験より難易度が上がる。教員の方々からは余裕だと言われても、逆にそれがプレッシャーになっている。
「やっと見つけた!」
学園の乗降場に着いて馬車から降りた途端、聞こえた叫び声に反応して振り向けば少し離れた場所にターナさんがいた。私を指差してかなりご立腹の様子で足を踏み鳴らし近付いてきた。……面倒臭い事になりそうだわ。無視で良いわね。
「今日の試験は午前中だから、お昼前に迎えをお願いしますね」
「畏まりました」
御者に帰宅時間を伝えて教室に向かおうとすると、私の目の前まできたターナさんが道を塞いだ。
「ちょっと無視して何なのよ!」
「……私に話しかけていらっしゃるの?」
「あんた以外に誰がいるのよ!」
この人も一々、叫ばないと話が出来ないのかしら。煩いわ。苛立つ心を落ち着ける為に深いため息を吐き出すと、改めて彼女に視線を向けた。全く他の生徒もいるのに大きな声で迷惑でしょう。
「挨拶もせず私の名前も呼ばず、どうしてそれで私に話しかけていると理解出来ますか?」
「なっ!」
また叫ぼうと大きく口を開いたターナさんを、苛立ちを込めて睨むと言葉を詰まらせ黙り込んだ。都合が悪いと黙る所までそっくり。案外、お似合いの恋人同士かもね。
「一々、叫ばないと話が出来ないのですか?私は試験会場が違うので急いでいるのです。要件を手短に仰って下さい」
私が話の続きを促せば、ノートを渡せと言い出した。ノート?何の事かしら。試験前にポッター子息に纏めた対策ノートを渡せと言われても、今回は何もしていないからノート自体存在しない、まさかアレをあてにして試験を受けていたの?
「ノートはありません。ポッター子息にノートを作って渡していたのは、婚約者だったからですわ」
「だったからって……元って事なの?」
あら、この方。案外、察しが良いのね。ポッター子息と一緒に居るから彼の仲間なのかと思っていましたわ。
「えぇ、元婚約者ですわ。ノートは彼のお父上に頼まれて渡していたものですから今回は作っておりません」
「そ、そんな……どうしよう……」
「では、失礼致します」
ノートが無い事が衝撃的だったのか呆然とする彼女を残して、私は卒業試験会場へ向かった。通常試験は普段の教室で行われ、飛び級試験は別室で監督官二名の立ち合いの元で行われる。会場に着くまで自分以外に受験生がいるかどうかも、行ってみないと分からない程の極秘で行われる為、私が試験を受ける事もごく一部の人しか知らない。さて、私一人かそれとも誰かいるのか。
会場の入口は不正防止の為開けたままになっていて、中を覗けばコリン殿下のお姿だけが見えた。あら、これだけ?
「おはよう、シュミットガル令嬢」
「おはようございます、殿下」
挨拶を交わしお互いに離れた場所に座ると、監督官がお見えになり試験の説明の後、直ぐに開始となった。
紙に書き込む音だけが響く会場内に外から大きな物音が、聞こえて思わず顔を上げた。殿下も気付いて手が止まる。殿下の護衛の一人が外を確認する為窓を開けると、ポッター子息の怒鳴り声が聞こえた。
「カルラを出せ!この女は一度、躾なければならんのだ!」
…………へぇ……私に躾?侯爵様から試験中だと聞かされていなかったのかしら。それとも途中で家を飛び出したのかしら。
どちらにしても、本当にバカね。
元々、卒業迄に終わらせないといけない課題は全て終了している私は、二年飛び級して卒業試験を受ける事になっている。元婚約者の所業に腹を立てていたとはいえ、飛び級試験は通常試験より難易度が上がる。教員の方々からは余裕だと言われても、逆にそれがプレッシャーになっている。
「やっと見つけた!」
学園の乗降場に着いて馬車から降りた途端、聞こえた叫び声に反応して振り向けば少し離れた場所にターナさんがいた。私を指差してかなりご立腹の様子で足を踏み鳴らし近付いてきた。……面倒臭い事になりそうだわ。無視で良いわね。
「今日の試験は午前中だから、お昼前に迎えをお願いしますね」
「畏まりました」
御者に帰宅時間を伝えて教室に向かおうとすると、私の目の前まできたターナさんが道を塞いだ。
「ちょっと無視して何なのよ!」
「……私に話しかけていらっしゃるの?」
「あんた以外に誰がいるのよ!」
この人も一々、叫ばないと話が出来ないのかしら。煩いわ。苛立つ心を落ち着ける為に深いため息を吐き出すと、改めて彼女に視線を向けた。全く他の生徒もいるのに大きな声で迷惑でしょう。
「挨拶もせず私の名前も呼ばず、どうしてそれで私に話しかけていると理解出来ますか?」
「なっ!」
また叫ぼうと大きく口を開いたターナさんを、苛立ちを込めて睨むと言葉を詰まらせ黙り込んだ。都合が悪いと黙る所までそっくり。案外、お似合いの恋人同士かもね。
「一々、叫ばないと話が出来ないのですか?私は試験会場が違うので急いでいるのです。要件を手短に仰って下さい」
私が話の続きを促せば、ノートを渡せと言い出した。ノート?何の事かしら。試験前にポッター子息に纏めた対策ノートを渡せと言われても、今回は何もしていないからノート自体存在しない、まさかアレをあてにして試験を受けていたの?
「ノートはありません。ポッター子息にノートを作って渡していたのは、婚約者だったからですわ」
「だったからって……元って事なの?」
あら、この方。案外、察しが良いのね。ポッター子息と一緒に居るから彼の仲間なのかと思っていましたわ。
「えぇ、元婚約者ですわ。ノートは彼のお父上に頼まれて渡していたものですから今回は作っておりません」
「そ、そんな……どうしよう……」
「では、失礼致します」
ノートが無い事が衝撃的だったのか呆然とする彼女を残して、私は卒業試験会場へ向かった。通常試験は普段の教室で行われ、飛び級試験は別室で監督官二名の立ち合いの元で行われる。会場に着くまで自分以外に受験生がいるかどうかも、行ってみないと分からない程の極秘で行われる為、私が試験を受ける事もごく一部の人しか知らない。さて、私一人かそれとも誰かいるのか。
会場の入口は不正防止の為開けたままになっていて、中を覗けばコリン殿下のお姿だけが見えた。あら、これだけ?
「おはよう、シュミットガル令嬢」
「おはようございます、殿下」
挨拶を交わしお互いに離れた場所に座ると、監督官がお見えになり試験の説明の後、直ぐに開始となった。
紙に書き込む音だけが響く会場内に外から大きな物音が、聞こえて思わず顔を上げた。殿下も気付いて手が止まる。殿下の護衛の一人が外を確認する為窓を開けると、ポッター子息の怒鳴り声が聞こえた。
「カルラを出せ!この女は一度、躾なければならんのだ!」
…………へぇ……私に躾?侯爵様から試験中だと聞かされていなかったのかしら。それとも途中で家を飛び出したのかしら。
どちらにしても、本当にバカね。
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