[完結]本当にバカね

シマ

文字の大きさ
上 下
3 / 23

3

しおりを挟む

「カルラ!貴様の部下は何だ!教育がなってない!」

 私の突然の登場に驚いた表情を見せたポッター子息でしたが、私に向かって指先して叫んだ。

「婚約者でも家族でもない赤の他人に呼び捨てされるいわれわ無いわ」

「は?」

 あら?このバカは婚約破棄を理解していないと?……あぁ、服が変わっていないから侯爵家に帰っていないのね。知らなくても良いわ。この際だから徹底的にやり込めてやるわ。

「大体、代金も払わず商品を寄越せ?強盗ですわ。誰か騎士団に通報して頂戴」

「承知致しました」

 私の言葉を聞いて御者が通信機を持って連絡する姿を確認すると、改めてバカに向き直った。

「婚約破棄の書類はすでに提出済みでございます。他人の貴方が払わないなんて泥棒以外になんと表現されますの?」

「なっ!ふざけるな!そんな書類にサインした覚えはないぞ!!」

 あぁ、もう……この方は一々、大きな声で威嚇して煩くて仕方ないですわ。当主が決めた婚約なのだから当主のサインだけで破棄出来る事を理解していないのね。苛立っているのか片足を小刻みに揺らすポッター子息を、私が静かに睨み付けていると後ろから声が聞こえた。

「あぁ、良かった。追い付いた」

「コリン殿下。外出しても宜しいのですか?」

 表れたのはこの国の第二王子で私と同年のコリン殿下。生れつき胃腸が弱く食の細い殿下は病気がちでしたが、我が家の乾燥野菜を用いた療養食がお体にあった様で、この数年でかなりお元気になられました。

「シュミットガル令嬢の商会の野菜が美味しくて、最近は食べ過ぎてしまうくらいだよ」

「それは良かったですわ」

 流石に王子殿下との会話の邪魔をしないだけの常識は持ち合わせていたようで、黙って成り行きを見守る二人に視線を向けた殿下はわざとらしいため息を吐いた。

「本当にこんな下らない男が君の婚約者だったとは、焦っていたとはいえ失敗でしたね」

「な、何を仰るのですか殿下!決して失敗など何もありません!この女が!」

「黙れ」

 普段は穏やかでのんびりした殿下には珍しい、低く鋭い声でポッター子息の言葉を遮ります。私を背中に隠す様に立たれた殿下は、腕を組んでポッター子息を見下ろしています。

「少し聞こえたが、王家でも代金を払うのに次期当主でもない者が、ただで商品を寄越せとはあり得んな」

「え?あ、いや、そそれは言葉の綾と言いますか、その……え?当主じゃない?」

「君はそんな事も理解していないのか」

 殿下が呆れた表情でため息を吐くと、羞恥心からか顔を赤くしたポッター子息が拳を握りしめ俯いた。

「正当な直系の血縁者がいるのにただの入婿の君が当主になれるはずないだろう?」

「…………」

 お得意の黙りを決め込む子息に殿下が再び、大きなため息を吐いた時、御者の連絡を受けた騎士団の方々が到着した。殿下に気付いて敬礼をした後、通報者でもある私の前に立った。

「シュミットガル令嬢、強盗とのご連絡でしたが、如何されましたか?」

 確認の為だろ騎士団の団員にポッター子息がただで商品を寄越せと従業員を脅した事や、店頭の商品を無理矢理持ち去ろうとしていた事を告げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

婚約破棄ですか?勿論お受けします。

アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。 そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。 婚約破棄するとようやく言ってくれたわ! 慰謝料?そんなのいらないわよ。 それより早く婚約破棄しましょう。    ❈ 作者独自の世界観です。

傲慢令嬢にはなにも出来ませんわ!

豆狸
恋愛
「ガルシア侯爵令嬢サンドラ! 私、王太子フラカソは君との婚約を破棄する! たとえ王太子妃になったとしても君のような傲慢令嬢にはなにも出来ないだろうからなっ!」 私は殿下にお辞儀をして、卒業パーティの会場から立ち去りました。 人生に一度の機会なのにもったいない? いえいえ。実は私、三度目の人生なんですの。死ぬたびに時間を撒き戻しているのですわ。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

処理中です...