[完結]本当にバカね

シマ

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「あら?」

 この国には貴族・平民問わず、試験に合格すると通えるサラタル学園がある。幼少期より家庭教師のつく貴族は、試験に落ちたら家の恥とまで言われる。学園に入学出来ない貴族の子供は別で個性と長所を伸ばすため、本人の適正に合わせた留学や研修を受ける事が出来る。そんな学習面に恵まれたこの国は、男女問わず優秀な者が家の跡継ぎとなる。

 私、カルラ・シュミットガル。伯爵家の跡取りに決まっている。幼少期から頭の良さに目をつけた教師が国王陛下の知り合いで、将来が楽しみな子供がいると報告してしまったものだから大騒ぎ。
 強引な婚約の申込みに養子縁組み。果ては誘拐まで発生したのは参った。頭を悩ませた両親は、父の友人のポッター侯爵の次男を婚約者に決めた。その婚約者が大問題だった。



『バカ』


 その一言で全てを表せる。学業はギリギリ、領地経営は適当、商会の運営に携われば横領。次は無いと両家から最後通告があったのは三か月前の話。

 そして、今、私の目の前には学園で出会った平民の女性とイチャイチャ。腕を絡ませ唇を重ね、愛を囁いている男女の姿。
 
「ウィルス様、その方は何方ですの?」

「あ?ゲッ!か、カルラ!」

 私が敬称をつけているのに人の事を呼び捨てにするこの男、ウィルス・ポッターがバカな婚約者。そして隣にいるのが最近の彼のお気に入り、ターナさんだったかしら?
 返事を待つ私を睨み付けた二人は、お互いに手を取り合い更に体を密着させた。何かしらこのシチュエーション。私はさしずめ愛を引き裂く悪役かしらね。

「黙っていては何も分かりませんわ」

 何も答えない二人に痺れを切らして再び問えば、ウィルス様はターナさんを背中に隠す様に庇った。

「煩い!!お前が黙っていれば済むことだろう!」

「私が何故、黙っていないといけないのですか?」

「こ、婚約破棄になったら困るだろう!」

 何処か焦った表情で下らない事を言う婚約者に、私はわざとらしいため息を吐くと右手を頬に添えて首を傾げた。

「いいえ、ちっとも困りませんわ」

「なっ!経歴に傷がつくだろう!貴様の様な可愛げ無い女に次は見つからないだろうが!!」

「一々、叫ばないで話せませんか?煩いですわ」

 私の指摘にムッとしたものの黙るウィルス様を横目に、彼の背中で震える演技をしながら人を見下すなんて器用な事をする女を見た。本当にバカね。

「婚約破棄になったら困るのはそちらで御座いましょう。私は一向に構いませんわ」

「なっ!女の癖に可愛げない!」

「可愛げがあろうがなかろうが仕事が出来れば宜しいのでわ?」

 私が言い返せばまた直ぐに黙って逃げる。全てから逃げ回るこの男には心底愛想がつきた。

「黙っていても何も解決しませんわ。もう良いでしょう。婚約は破棄させて頂きます」

「そっちから破棄するなら慰謝料を払え!」

 一々、叫ぶなと言ったのにもう忘れたのかしら。まぁ、関係無いわね。
 ギャーギャーと叫ぶ男を無視して私は帰路についた。さて、家に着いたら先ずは婚約破棄の手続きしなくちゃ。

「あら、もうすぐテストでしたわね」

「お嬢様、今回のテスト範囲のノートは如何されますか?」

 帰宅の馬車に同席しているのは我が家の従者。今までは婚約者が落第しないように、従者に頼んでノートを写して渡して貰っていたけど、二人で人目も憚らずイチャイチャする余裕があるなら手伝う必要ないわよね?

「必要無いわ。破棄の手続きを優先して頂戴」

「畏まりました」



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