婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

文字の大きさ
上 下
91 / 91
魔物と魔女編

13

しおりを挟む
「じっ……けん……」

「そう実験って言い方であってるかしらね?貴女の魔力を、その体に流れる血を私に?」

「血を何にするつもりですか」

 時間稼ぎとか抵抗とかじゃなく、ただ疑問に思った事が口から出た。明確な答えなんて期待していなかったけど、魔女は愉しそうに目を細めた。

「暇潰しに教えてあげるわ」

 そう言いながら魔女はもう一度、私の腕にナイフを刺し更に流れ出す血がガラス容器に溜まる様子を笑って見ている。ボタボタと沢山の血が流れているのに不思議と痛みは感じなかった。

「魔力は何処からくると思う?」

 ポコポコと不思議な音が響く室内で、容器に溜まる血。魔女の言葉に私が何も答えず容器を見つめていると、腕に爪をたてられ視線を魔女に戻した。

「何回実験しても新しい体に魔力は宿らない。そして、やっと気付いたの……魔力は血に宿り体を巡る事が」

 血を抜かれる不快感から顔をしかめ体を捩ると、寝かされていた台から黒い紐のような物が飛び出して絡み付き台に固定されてしまう。

「動かないで。下手に動くとその子達、間違って貴女を殺すかもしれないわよ?」

 首を傾げて笑顔で言われた言葉に再びゾワゾワと鳥肌がたつ。仮面のような笑顔を貼り付けた魔女が手を伸ばすと、私の顎に指先が触れた。

「震えているのね……大丈夫よ。死んでしまうと魔力が消えるの。だかは貴女には移し終わるまで生きててもらわなくちゃね」

 その名の通り氷を思い出す冷たい指先が顎から首に移動してゆっくりと離れると、手首の光る魔力封じを二本の指で軽く摘まむと引っ張っる。糸がほどけるように手首からスルリと抜け目の前で砂のように細かく崩れて床に落ちていった。

「さぁ、見せて頂戴、人の器にはあり余る貴女の本当の力を」

 魔女の言葉に反応するように私の体から魔力が吹き出し、制御出来ない力がカタカタと周囲の物を揺らした。

「あらあら、まだ有り余る程あるのね。もっと頂戴……貴女の血を魔力を私に頂戴ね」

 ニタリと口元にだけ笑みを浮かべた魔女は更に私の腕にナイフを向けたけど、腕に触れる前にナイフはパンと弾けるような音の後で霧散した。

「……ぐっ……がは!!」

 喉の奥から競り上がる不快感を息と共に吐き出したつもりが、口の中に別の何かが溢れ出る。混乱する頭では何か分からず口元を手で触れるとヌルッとした感触と鉄臭い臭いが鼻についた。

「……ち……が」

 呆然と自分の手を見詰めていたけど魔女が何かしたかと思って視線を向けた。驚いたのか魔女が動きを止め私を見ている時、斬られた腕に初めて痛みを感じて視線を向けた。

「い、たい」

「あら?魔具の回復が切れたせいかしら?」

 魔女が首を傾げながら何か言っても私は身体中の痛みで理解できなかった。そんな時、ミューの呼ぶ声が頭の中で聞こえたけど、返事をする事も儘ならなかった。

「あら……契約者が気付いたの……邪魔ね」

 魔女が私の目の前に手を伸ばすと、何かを摘まむように指を折り曲げると私に視線を向けて右の口端だけ上げた。

「さようなら契約者さん」

 折り曲げた指が光りプツンと何かが切れたような音がしたあと、ミューの声が届かなくなった。急に消えた声に心の中で驚きと同時に嫌な予感がした。

「今……な……にし……た」

 カタコトな言葉しか出せない私の姿に少し焦る素振りを見せた魔女は、私の質問に答えることなくガラス容器に眠る女性に私の血を魔力で固めて口の中に入れた。

「こんなにも人間の体は脆弱なのね。器がもたないわ」

 魔女の独り言を聞いた私の意識は真っ暗になった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...