85 / 91
魔物と魔女編
7
しおりを挟む
「二人の事は後で注意するとして子供の方だが、怯えていて話が出来る状態じゃないんだ」
頭を掻きながら深いため息を吐いたノリス支部長は、三人が新しい部屋で休む子供に会いに行くとベッドの上で震えていたらしい。何とか名前は聞けたけど、大人が怖いのか誰も近づけずハヤト室長も途方にくれていたとか。女性なら大丈夫かと考えたけど、どうやら体格の良い大人は男女関係ない様子だったらしい。
「来て早々に申し訳ないが、弟子殿が子供から話を聞いて貰えないだろうか?」
「私ですか?素人ですが大丈夫ですか?」
「いや、逆に素人の方が警戒しないだろう。歳も近いし頼む」
そこまで言われると断る事も出来ず、子供の所に向かう事にしたけど、一緒に向かっているリュカ様は真後ろに貼り付く様についてきた。子供が居る病室の前に着いても離れようとしない彼に戸惑ってしまう。もう少し離れて欲しいのに、どうしようかしら。
「子供が怯えるから部屋の外に居て下さいね」
「……善処する」
いや、そこは"はい"でしょう!もう、さっきから態度が変だしなんだろう?
少し考えたけど、思い当たる物はなくて素直に聞く事にした。
「何か気になる事でもあったのですか?」
「ハヤト室長が影響されていたのに、あの姉弟も影響されていないとは不自然だと思って」
「あ……あれ?確かに変ですね」
リュカ様に言われるまで気づかなかった私は驚いて次の言葉が出ず彼の顔を黙って見詰めていた。
「すれ違っただけだが護符を持っているようにも耐性があるようにも見えなかった。俺の心配し過ぎと言われるかもしれないが……」
困ったように眉を下げるリュカ様を、ミューが尻尾で叩きながら"私もいるのに"と文句を言っている。それでも過保護なリュカ様の態度に自然と笑みが浮かんだ。
「フフ、ありがとうございます。私は鈍いのでし過ぎ位が丁度良いのかもしれませんね」
「すまない。鬱陶しい時はハッキリ言ってくれて構わないから」
「はい、そうします」
私が了承するとリュカ様はホッとした表情を見せた。彼との話しも済んで改めて病室のドアに視線を向けるとノックしてから静かに開けた。
「こんにちは」
「……」
挨拶する私に視線を向けたけど、後ろにいるリュカ様が気になるのか視線は彼に釘付けになる。返事はなかったけど起きているから部屋に入ると、少年は大きな目を更に大きくしている。どうしたんだろう?部屋に入るだけでも怖いのかしら。
「はじめまして。私はルナ、この子は相棒のミューよ」
「こんにちは~」
私の肩から降りて少年降りてベッドに乗ったミューは、甘える様に彼の体に頭を擦り付けた。
「ごめんね、うちの子甘えん坊なの。嫌じゃなかったら背中撫でてくれる?」
「……」
やっぱり返事はないけど震える手でミューの背中をゆっくりと撫でていた。
「怪我してるから少しずつ治していきたいのだけど触ってもいいかな?」
触ると聞いて体を大きく揺らした子供だったけど、暫く沈黙した後で小さく頷いた。
「一番、痛い処はどこ?」
「せ、せなか」
初めて聞いた声は酷く掠れていて、子供らしい声とは言えない。もしかして、喉も痛めているから話しづらいから質問にも答えなかったのかも。ミューも気になったのか子供の喉を舌で舐めたので擽ったそうに身動ぎしている。
「少しだけ背中に触るね」
一言、声を掛けてから背中に手を回すと、子供は大きく体を揺らした。怖いよね。背中にある傷は……鞭で打たれたのね。
「回復」
先ずは治っていない表面の傷を治す事に集中する。きっと全回復したら傷跡も消えるけど、子供のボロボロの身体は魔法の強制的な回復に耐えられない。少しでも早く痛みなく回復するようにと願いを込めて背中に魔法を掛けてからそっと離れて直ぐには手の届かない距離に移動した。
「はい、今日の治療はお仕舞い。明日は喉も治すから、しっかりご飯食べて寝てね」
やはり話すのは辛いのか黙って頷いた子供に笑顔で私も頷いた時、リュカ様が外に向けて何か話している声が聞こえて視線を向けると騎士様が来ていた。
「いや、渡すのは彼女に任せて戻ってくれないか。ノリス支部長には私から伝えるから問題ない」
騎士様と会話するリュカ様は、普段の優しく響く声からは想像出来ない程、平坦で冷たい印象の声で別人の様に見えた。どうしたんだろう。揉めてるのかしら?
「しかし、私は仕事で」
「ノリス支部長から話を聞いていないか?この少年は体格の大きな大人に怯える。貴殿の様に装備まで着けた騎士が入ればパニックになるぞ」
「だからと言って暴れる可能性があるにも関わらず防御の為の鎧もなく行けというのか!」
「何か問題でもあるか?私は剣のみだ。相手は幼い子供で保護対象者だぞ」
リュカ様の正論な言葉に口をパクパクとしていた騎士様が口を閉じ彼を憎しみを込めて睨む。
「この化け物が」
「そりゃ、どうも」
リュカ様にそんな視線や暴言も気にした様子はなく一言で終わらせて嫌な空気になった。
リュカ様って……何時もはこんな感じなの?
頭を掻きながら深いため息を吐いたノリス支部長は、三人が新しい部屋で休む子供に会いに行くとベッドの上で震えていたらしい。何とか名前は聞けたけど、大人が怖いのか誰も近づけずハヤト室長も途方にくれていたとか。女性なら大丈夫かと考えたけど、どうやら体格の良い大人は男女関係ない様子だったらしい。
「来て早々に申し訳ないが、弟子殿が子供から話を聞いて貰えないだろうか?」
「私ですか?素人ですが大丈夫ですか?」
「いや、逆に素人の方が警戒しないだろう。歳も近いし頼む」
そこまで言われると断る事も出来ず、子供の所に向かう事にしたけど、一緒に向かっているリュカ様は真後ろに貼り付く様についてきた。子供が居る病室の前に着いても離れようとしない彼に戸惑ってしまう。もう少し離れて欲しいのに、どうしようかしら。
「子供が怯えるから部屋の外に居て下さいね」
「……善処する」
いや、そこは"はい"でしょう!もう、さっきから態度が変だしなんだろう?
少し考えたけど、思い当たる物はなくて素直に聞く事にした。
「何か気になる事でもあったのですか?」
「ハヤト室長が影響されていたのに、あの姉弟も影響されていないとは不自然だと思って」
「あ……あれ?確かに変ですね」
リュカ様に言われるまで気づかなかった私は驚いて次の言葉が出ず彼の顔を黙って見詰めていた。
「すれ違っただけだが護符を持っているようにも耐性があるようにも見えなかった。俺の心配し過ぎと言われるかもしれないが……」
困ったように眉を下げるリュカ様を、ミューが尻尾で叩きながら"私もいるのに"と文句を言っている。それでも過保護なリュカ様の態度に自然と笑みが浮かんだ。
「フフ、ありがとうございます。私は鈍いのでし過ぎ位が丁度良いのかもしれませんね」
「すまない。鬱陶しい時はハッキリ言ってくれて構わないから」
「はい、そうします」
私が了承するとリュカ様はホッとした表情を見せた。彼との話しも済んで改めて病室のドアに視線を向けるとノックしてから静かに開けた。
「こんにちは」
「……」
挨拶する私に視線を向けたけど、後ろにいるリュカ様が気になるのか視線は彼に釘付けになる。返事はなかったけど起きているから部屋に入ると、少年は大きな目を更に大きくしている。どうしたんだろう?部屋に入るだけでも怖いのかしら。
「はじめまして。私はルナ、この子は相棒のミューよ」
「こんにちは~」
私の肩から降りて少年降りてベッドに乗ったミューは、甘える様に彼の体に頭を擦り付けた。
「ごめんね、うちの子甘えん坊なの。嫌じゃなかったら背中撫でてくれる?」
「……」
やっぱり返事はないけど震える手でミューの背中をゆっくりと撫でていた。
「怪我してるから少しずつ治していきたいのだけど触ってもいいかな?」
触ると聞いて体を大きく揺らした子供だったけど、暫く沈黙した後で小さく頷いた。
「一番、痛い処はどこ?」
「せ、せなか」
初めて聞いた声は酷く掠れていて、子供らしい声とは言えない。もしかして、喉も痛めているから話しづらいから質問にも答えなかったのかも。ミューも気になったのか子供の喉を舌で舐めたので擽ったそうに身動ぎしている。
「少しだけ背中に触るね」
一言、声を掛けてから背中に手を回すと、子供は大きく体を揺らした。怖いよね。背中にある傷は……鞭で打たれたのね。
「回復」
先ずは治っていない表面の傷を治す事に集中する。きっと全回復したら傷跡も消えるけど、子供のボロボロの身体は魔法の強制的な回復に耐えられない。少しでも早く痛みなく回復するようにと願いを込めて背中に魔法を掛けてからそっと離れて直ぐには手の届かない距離に移動した。
「はい、今日の治療はお仕舞い。明日は喉も治すから、しっかりご飯食べて寝てね」
やはり話すのは辛いのか黙って頷いた子供に笑顔で私も頷いた時、リュカ様が外に向けて何か話している声が聞こえて視線を向けると騎士様が来ていた。
「いや、渡すのは彼女に任せて戻ってくれないか。ノリス支部長には私から伝えるから問題ない」
騎士様と会話するリュカ様は、普段の優しく響く声からは想像出来ない程、平坦で冷たい印象の声で別人の様に見えた。どうしたんだろう。揉めてるのかしら?
「しかし、私は仕事で」
「ノリス支部長から話を聞いていないか?この少年は体格の大きな大人に怯える。貴殿の様に装備まで着けた騎士が入ればパニックになるぞ」
「だからと言って暴れる可能性があるにも関わらず防御の為の鎧もなく行けというのか!」
「何か問題でもあるか?私は剣のみだ。相手は幼い子供で保護対象者だぞ」
リュカ様の正論な言葉に口をパクパクとしていた騎士様が口を閉じ彼を憎しみを込めて睨む。
「この化け物が」
「そりゃ、どうも」
リュカ様にそんな視線や暴言も気にした様子はなく一言で終わらせて嫌な空気になった。
リュカ様って……何時もはこんな感じなの?
7
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。
キャラ交換で大商人を目指します
杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
恋愛
【第一部完結】
婚約者を邪険に思う王太子が、婚約者の功績も知らずに婚約破棄を告げ、記憶も魔力も全て奪って捨て去って――。
ハイスぺのワケあり王子が、何も知らずに片想いの相手を拾ってきたのに、彼女の正体に気づかずに――。
▲以上、短いあらすじです。以下、長いあらすじ▼
膨大な魔力と光魔法の加護を持つルダイラ王国の公爵家令嬢ジュディット。彼女には、婚約者であるフィリベールと妹のリナがいる。
妹のリナが王太子と父親を唆し、ジュディットは王太子から婚約破棄を告げられた。
しかし、王太子の婚約は、陛下がまとめた縁談である。
ジュディットをそのまま捨てるだけでは都合が悪い。そこで、王族だけに受け継がれる闇魔法でジュディットの記憶と魔力を封印し、捨てることを思いつく――。
山道に捨てられ、自分に関する記憶も、魔力も、お金も、荷物も持たない、【ないない尽くしのジュディット】が出会ったのは、【ワケありな事情を抱えるアンドレ】だ。
ジュディットは持っていたハンカチの刺繍を元に『ジュディ』と名乗りアンドレと新たな生活を始める。
一方のアンドレは、ジュディのことを自分を害する暗殺者だと信じ込み、彼女に冷たい態度を取ってしまう。
だが、何故か最後まで冷たく仕切れない。
ジュディは送り込まれた刺客だと理解したうえでも彼女に惹かれ、不器用なアプローチをかける。
そんなジュディとアンドレの関係に少しづつ変化が見えてきた矢先。
全てを奪ってから捨てた元婚約者の功績に気づき、焦る王太子がジュディットを連れ戻そうと押しかけてきて――。
ワケあり王子が、叶わない恋と諦めていた【幻の聖女】その正体は、まさかのジュディだったのだ!
ジュディは自分を害する刺客ではないと気づいたアンフレッド殿下の溺愛が止まらない――。
「王太子殿下との婚約が白紙になって目の前に現れたんですから……縛り付けてでも僕のものにして逃がしませんよ」
嫉妬心剥き出しの、逆シンデレラストーリー開幕!
本作は、小説家になろう様とカクヨム様にて先行投稿を行っています。
これは一周目です。二周目はありません。
基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。
もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。
そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる