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魔物と魔女編

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 薬を全て瓶に詰め終わると、お姉さんが部屋の奥にある簡易キッチンでお茶をいれて出してくれた。勝手に使うのはどうかと思って最初は止めようとしたけど、二人は許可は貰っているから問題ないと言って私を椅子に座らせた。本当に大丈夫なのかしら。

「ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとう。浄化薬が全然手に入らなくて本当に困っていたのよ」

「お役にたてたなら良かったです」

 ニコニコと聞こえてきそうな笑顔で話すお姉さんの横で、何かが気になるのか首を捻って考え事込んでいた弟さんが、ポンと手を叩いて私の顔を改めて見詰めてきた。

「学園に最年少で入学したニールセン令嬢ですよね。ため口ですみません」

「あ、はい。でも、貴族籍は抜けましたので気にしないで下さい」

「どうして抜いたか理由を聞いても?」

 興味津々に尋ねてくるお姉さんに苦笑しながら、差し障りの無い所だけを説明していく。一方的に婚約破棄された事や呪具の影響で魔力が大きくなった事。その魔力のコントロールが出来なくてソフィア様の元に弟子入りした事、そして、最近、学園を卒業した話しが終わると、姉弟はポカーンと口を開けていた。

「えっと……何かありました?」

「いや!あったのは君でしょ!」

「呪具の影響って十年間も魔力を取られて気づかないってあり得ないでしょう!」

 姉弟が息つく暇も無いほどの早さで話した事は、私の中では特に重要に事ではなかった。

「別に生活に問題ないし気にしていないのです」

「だから!貴族籍を抜けただけでも大騒ぎのはずでしょう!」

「貴族らしい生活はして来なかったので、今更、誰かにお世話されるのは、ちょっと抵抗がありますね」

「え?」

「学園の寮は全て自分でしていましたし、実家でも魔法や魔力の勉強が中心で貴族のマナーはオマケでしたから」

 私の言葉の何かに驚いた様子の二人だったけど、私には理由が分からずお茶を飲んでいるとミューが膝の上で背伸びした。

「お腹空いた~」

「あら、そんな時間?はい、どうぞ」

 契約して繋がった彼女の身体にゆっくりと魔力を送ると、ミューも私の魔力を吸い込み始めた。契約する前は勝手にお腹が空いたら魔力を吸い取るとと思っていたけど、実際は許可がないと出来なくてお腹が空くと許可を出している。ミューが私の魔力を取り込んでいる間に三人が部屋に戻って来たから、姉弟は浄化薬の数をノリス支部長に伝えた後で、薬の入った箱を台車に乗せて運び出した。

「ルナさん、お時間があったら、またお話させて下さい」

「女子会もしましょう」

 手を振りながら出て行く二人に手を振り返しドアが閉まると、リュカ様が私の真後ろに立っていた。へ?何事ですか?

「二人とも、こっちに座りな」

 ソフィア様に促されてテーブルを囲む椅子に座ると、ノリス支部長が数枚の紙を差し出した。

「二人共、この資料を読んでくれ。こっちが最近、問題になっている子供の行方不明事件、それとこっちは龍人に関する奇妙な噂についてだ」

 龍人の噂が書いてある資料はリュカ様が先に読み始めたので、私は子供の行方不明事件の資料を手に取った。
 資料には平民の五・六歳の子供が性別問わず、ある日突然、姿を消して手掛かりが見つかっていないと書いてあった。

最初の事件は隣の家に遊びに行くと言って出たまま帰らない。

次の事件は買い物中に人とぶつかり、落とした荷物を拾っている間に居なくなった。

 この後も様々場面で子供が居なくなっているが、大人が目を離したのは数分。最初の事件も親が用事を思い出して、子供が家を出た直後に隣の家に向かっているから五分ほどしか離れていないが目撃者はいなかった。

「弟子殿が読んだ資料にある四番目の行方不明者が今日、浄化した負傷者だった」

 行方不明者が魔物に?どうして?浮かんだ疑問を質問する暇なく、次の言葉が続く。

「そして、フリューゲルが読んだ資料の噂だが、勿論、嘘だ」

「龍人と交わると魔力が増すって噂の事ですか?」

 噂って龍人に関する噂ってさっきの姉弟が言ってた事よね。確かに変な噂だけど資料に纏める程広がっているって事は偶然じゃないのかしら。

「弟子殿は何か知っているのか?」

 ノリス支部長は驚いた様子だったけど、医療班の姉弟から聞いた事を伝えると頭を抱えて俯いてしまった。あれ?何か問題アリかしら?

「アイツら軽々しく言うなとあれほど言ったのに……」

 あー、察しました。嘘だと分かっているから言うなという意味を理解しなかった二人は、龍人のお二人と一緒にいた私の魔力が高いから噂を信じてしまったからあんな勘違いしたと。そして、謝罪と事情説明で私に話してしまったと……


 えっと、ノリス支部長、なんかごめんなさい。
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