婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

文字の大きさ
上 下
80 / 91
魔物と魔女編

2 side ソフィア

しおりを挟む

「私はノリスに話がある。負傷者も気になるからお前達は先に見てきておくれ」

「分かりました。瘴気やられと怪我の回復ですね」

「あぁ、それ以外にも気づいた事があれば後で教えておくれ」

「はい」

 ここに来てから騎士やノリスの態度に違和感を感じて二人を部屋から出るように促した。実際、負傷者が気になるのも事実。違和感を感じることなく部屋を出て行った二人が、廊下の角を曲がった所でノリスに向き直った。

「さて、二人には聞かせたくない事を話して貰おうか」

「……参りましたよ」

 やっぱり何か隠していたようだね。部屋の奥の棚から一冊の紙束を取り出すと、私の前に広げて見せた。

「最近、変な噂が街に広がっています……龍人と交わると桁外れの魔力を手に入れるという内容です」

「噂の元はなんだい?」

「それが全く分からないんです。何処の誰から聞いた確認すると全員が覚えていないというのです」

「ドラゴンじゃなくてねぇ……」

 しかも"交わる"とは何を指しているんだか……血肉を食べる?それとも身体を繋げるとでも?後者なら気持ち悪い話だよ。差し出された紙には魔物の目撃情報とは関係ない地域にまで噂は広がっている事が確認されたと書いてあった。

「リュカが龍人だというのは騎士団に関わる者なら皆、知っています。弟子の娘より心配ですね」

 ノリスの話によると噂が聞こえ始めたのは約半年前。その頃っていうと私達は村に居た……ワーウルフの群れを見つけたのは何時だい?あの時、リュカは消えた魔物の死体に変な窪みがあったと言ったね。確か……リーダー格。

「目撃された魔物の群れにリーダーは居たかい?」

「大きな個体が確認されてます」

「その個体の身体に何か付いていなかったかい?」

「身体?そんな報告はありませんが、近くで見ていないので断言は出来ません」

 目撃される魔物は日に日に数を増やし、いつの間にかリーダー格と思わせる大きな個体が群れの中央に現れる様になってらしい。しかし、警戒心が強いのかリーダーだけは人間に近づかないという。まるで意思を持っているかの様な行動と統率性。

「魔女しかいないね」

「魔女」

 魔女と聞いて不思議そうに首を傾げるノリスには悪いが、私が想定していた最悪の事態になりそうな予感がした。

「ドラゴンから聞いたんだが魔女は魔石に魔力を込めれば魔物を操れるらしいんだよ」

「は?そんな話初めて聞きましたが……」

「私だって最近まで知らなかったさ。魔女は大昔にドラゴンで試したんだと。それが切っ掛けでドラゴンの住む場所から永遠に追い出されたそうだ」

「……なんとも凄い話だ……最早、人間では相手しきれませんよ」

「だから私達が来たんだろうが」

 そう人間だけでは対処はまず無理。氷の魔女は二百年程生きている元龍人であり魔人となった闇に呑まれし者。

「隠居したとはいえ私は大魔法使いを名乗る者だよ」

「いや、しかし弟子が娘は人間じゃないですか!」

「あの娘の事情は何処まで聞いているかい?」

「呪具の影響で魔力が異常に多いと」

 ルナの事情をほぼ知らないノリスに、口止めの契約魔法を掛ける事を条件に全てを話す事にした。魔女の件が片付くまでは、下手に話を広げる訳にはいなかいからねぇ。

「呪具の影響で人間の身体には収まりきれない程の魔力があるんだよ」

「は?収まりきれない?どういう意味ですか?」

「契約者がいただろう。常に契約で魔力を使い、更に食事変わりに魔力を与えてもまだ有り余る」

 魔法に詳しくないノリスは混乱している様子だが、あの娘の魔力はいまだ増え続けている。あと半年後の誕生日を迎えるまでは、増える可能性があるから本当に厄介だよ。

「あの娘はね魔力を使い続けないと命に関わるんだよ。私と同じ位の魔力になってしまったんだよ」

「龍人の貴女と同じ?人間で?そんな馬鹿な」

「だからドラゴンと契約したのさ。そして、魔女の後継者として狙われている」

「な!?……団長は知っているんだよな?」

 ノリスの質問に頷いて肯定すると、ドサッと大きな音と共に椅子に座り込んだ。混乱するのも無理はないだろうね。魔物の急増ってだけでも厄介なのに最早、世界共通の敵と認識されている魔女まで出てきたからねぇ。

「ほれ、頑張れ脳筋ども」

「……無茶言わんで下さいよ大魔法使い殿」

「警戒心の強い魔女の事だ直ぐには何もしないさ」

「警備計画の見直しから始めましょう」

 疲れた表情で新しい地図を出すノリスは、明らかに肩を落としていた。

これからだって時に、湿気た顔してんじゃないよ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。 けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。 そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。 消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。 救国の聖女「エミヤ」の記憶を。 表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...