78 / 91
学園復帰編
29
しおりを挟む「卒業おめでとう」
リュカ様が頭を撫でてくれる。
「頑張りましたね」
アラン先生が労いの言葉を掛けてくれる。
「新米魔法使いだねぇ」
ソフィア様の一言でモヤモヤの正体に気づいた。あ、私は魔法使いになれたけど何がやりたいんだろう?今まで回りから言われて勉強して、学園に入学してからも言われた事をやっただけ……
……私は何をやりたいんだろう……
学園に復帰して直ぐに卒業してしまった。でも、学園に残って何かしたいのか聞かれると何も浮かばない。謁見が終わって帰宅した私は脱け殻になった気分だった。
「ルナ嬢、ちょっといいか?」
夕食後、自室でベッドに座りボンヤリしているとリュカ様が訪ねてきた。何もする事がないから了承すると、ドアを開けたまま中に入り机の横の椅子に座った。
「ミューはもう寝たのか?」
「はい、昼間の件で疲れたようです……リュカ様にその椅子は小さかったですね」
私の部屋の椅子に窮屈そうに座るリュカ様は、苦笑いしながら自分の部屋の椅子は特注品だと言った。
「龍人は基本的に身体が大きいから一般的な家具は小さいんだ」
「確かにソフィア様も背が高いですもの。男性なら尚更ですね」
何気ない会話をしていたけど、リュカ様が膝に置いていた手に力を込めた事に気づいた。
「何かありましたか?」
リュカ様の態度が気になって尋ねると、少し驚いた様な表情を見せた彼は俯いて軽く息を吐き出した。
「……フッ……そうだな……」
自嘲にもみえる笑い顔で彼は、昼間の私の様子が気になったと言った。
「……そうですね。皆さんの視線が気になったと言うか……今の私に目標がないと言うか」
どうして……この人は私のモヤモヤを気づくのかしら。でも、自分でも説明のしようがない。心の整理が全然できてなくて言葉が見つからなかった。
「人は自分の常識から外れた者は、受け入れがたいのかもしれない。現に俺もいまだに拒絶されるからな」
無言になってしまった私の変わりにリュカ様が話し始める。その内容に少し驚いた。拒絶って隊長なのに?
「そうなんですか?リュカ様って騎士団に入って何年ですか?」
「うん……もうすぐ八年だな。最初の二年は魔法師団にいたからなぁ」
八年経っても受け入れないって……どうして?全く想像つかないわ。
「これは俺個人の意見だが、全ての人と仲良くするのは無理だ」
「へ?」
「育った環境や性格。要因は様々だが全く同じ環境、同じ性格の人間なんていないだろう」
リュカ様が何が言いたいのか分からず、首を傾げてしまう私の頭を撫でる彼は目を細めて笑っている。
「ルナ嬢を受け入れられない人間を気にするより、君を大切に思う人間の事を考えたらどうだ」
「大切に思う」
「ミューが大事だろう?サイオス殿も婆さんは……ほっといても大丈夫そうだが、アランは心配しすぎて胃に穴があくかもしれないな」
お腹を押さえるアラン先生の姿が頭に浮かんで声を出して笑ってしまった。先生、笑ってごめんなさい。でも、リュカ様の言う通りね。訓練場で見た怯えた顔が頭から離れなかったけど、本当に気にしないといけないのは見ず知らずの彼らじゃないわ。
「そうですね。ミューの感情が伝わってきて、余計に回りが気になったのかもしれません」
「感情が伝わった?」
「えぇ、泣いているミューから独りは嫌だとか怖いとか……自分の小さい頃と重なる所もあって……私も怖くなりました」
「そうか……きっとミューも自分だけが違う属性だから疎外感や孤独感が強いのかもな」
フッ会話が途切れて顔を上げると、リュカ様が泣いている様に見えて驚いた。涙が出ている訳でもないけど、何処か悲しげで寒そうにも見えた。そうか……この人も孤独感を知っている人なのね。魔法が使えず足掻いた過去があるから、だから何も言わなくても気づくのね。
「ありがとうございます」
「うん?何か言ったか?」
聞こえなかったのか首を傾げて聞き返す彼に、私は首を横に振って誤魔化した。
「何でもないです。明日から何をしようかなぁと思って。目標が見つからないんです」
「目標……考える暇がなくなるかもしれない。魔物討伐に同行して貰う事になりそうなんだ」
私から視線を反らしたリュカ様は、人差し指で頬を掻きながら魔物の群れの目撃情報が急増している領地がある事を教えてくれた。
「はい!?い、何時決まったんですか!!聞いてないです!」
「……婆さんが実戦したいと言ったから、今頃、カイト団長が精査しているはずだ」
「ウソでしょ……えーと、攻撃魔法の実戦練習って事ですよね?」
無言で頷くリュカ様を見て脱力してしまう。ベッドに身体半分を倒しながら大きなため息を吐き出した。えぇ、ソフィア様の言いたい事は分かりますよ。実戦で使えなければ意味がないって、よく言いますから……でも、でも……
「一言、言って欲しかったです」
「相手が婆さんだからなぁ……諦めるしかないな」
ですよね~
でも、今ウダウダ考えるより、目の前の事に集中した方が気は楽かしら?
苦笑いのリュカ様が染々と言った言葉に、私は同意するしかなかった。
こうして私の長いようで短い学園生活は終わりを迎えた。
14
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました
砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。
けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。
そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。
消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。
救国の聖女「エミヤ」の記憶を。
表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる