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学園復帰編
27 side リュカ
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「フリューゲル、大変だ!」
騎士団の自室で着替えが終わったと同時に、ノックも無しにドアが開き駆け込んで来たのは同期のガイルだった。
「何だよ騒々しい」
「弟子の令嬢が襲われた」
「は?」
自分でも分かる程、低い声が出る。ガイルが青ざめた顔で説明するが、話を聞けば聞くほど殺気だってしまった。婆さんの話しに腹をたてたからって何故、背後から剣を投げる。八つ当たりにも程がある。クソ!俺がいない時に!!
「と、とにかく!団長が訓練場に戻ってくれって」
「分かった。窓を閉めといてくれ」
「窓!?お前ここ三階だぞ!!」
叫ぶガイルを無視して窓から飛び降り、訓練場へと急いで戻った。中に入ると異様な空気が漂っていて、残っている団員達の殆どが怯えた視線でルナ嬢を見ていた。何だこれは……何か変だ。
その異様な空気の中でルナ嬢はミューをしっかりと抱き締めていた。しかし、ミューは彼女の腕の中で震えながら泣いていた。本当に何が起きたんだ。
「リュカ」
名前を呼ばれて視線を向けると、婆さんと団長がいない。アランが残っているとはいえ、二人だけがいなくなる異常事態に更に嫌な予感がした。
「何が起きた?」
「ミューが怒り狂って団員を襲って、それを彼女が止めたのですがミューが落ちつかないのですよ」
怒り狂うドラゴンを身を呈して止めたのだろう。肩から血が垂れ服を濡らしている。ミューは自分がルナ嬢を傷つけてしまった事を後悔しているのか……いや、それだけではないような……
「師匠からは治療をカイト団長からは後始末を頼まれています。陛下への報告も兼ねてお二人は先に行かれましたよ」
「了解。例の団員は外へ?」
端的な質問にアランが黙って頷いて肯定した。団員が誰かは知らないが騎士道に反する事を嫌う団長は、まだ未成年のしかも女性を背後から襲う非道な行為だから厳しい処分を下すだろう。そうなると……除名の上で殺人未遂に問われるだろう。
アランと話をしている間にミューが落ちついたのかルナ嬢が腕の力を抜いた。良し今なら声を掛けても大丈夫だな。
「ルナ嬢、傷の手当てをしよう」
少しボンヤリした様子の彼女に声を掛けると、視線を動かした後、首を傾げている。何か変だ……何が……この違和感はなんだ?
「ソフィア様とカイト団長は?」
二人が居なくなった事にも気づかなかった彼女に、アランが事情を説明する。例の団員の事には触れずミューが落ちつかないと危険だろうとだけ話し治療を始めた。俺は残っている団員達に指示を出し訓練場の片付けを始めると、一部の団員がチラチラとルナ嬢の様子を伺いながら近づかない。それは自分も身を持って体験した過去を彷彿させた。
「本当にあの子供がワーウルフの群れを一人で倒したのか?」
「大魔法使い殿が嘘をつくのかよ。事実だろ」
「そんなに強いなら護衛って必要か?契約者の強さ見ただろう。一瞬で距離を詰めて攻撃したじゃないか」
「あんな化け物冗談じゃない。俺は近づきたくないね」
あぁ、やっぱりか。異質な者、今までの常識から外れた者を忌み嫌う。人間の本能なのか育った環境なのか、初めて見るモノ受け入れられない彼らに彼女が傷ついてしまわないか心配になる。
「そこ!無駄口は止めて手を動かす!」
「「「はい!」」」
訓練場の地面に開いた穴は塞がり解散の声を掛けると、通常業務に戻る者と帰宅する者に分かれて動き出した。片付けはこれで良しっと……ルナ嬢はまだ顔色が悪いな。
「ルナ嬢?」
俯く彼女の顔を覗き込む。彼女の表情は酷く悲しげで、今にも消えてしまいそうな気がして思わず頬に触れていた。
「まだ痛みが?」
「い、いえ!大丈夫です」
勢いよく首を振る彼女の目に光る物が見えて『やはり』その一言だけが浮かんだ。彼女は気づいた。周囲の態度が変わった事に……
「まだ顔色が悪いな……団員達のせいか?」
ピクッと肩が揺れ少し驚いた彼女の目にハッキリと涙が浮かんだ。
「どうかしたのですか?」
治療に集中していたアランは、周囲の態度に気づいていなかったらしい。彼らの態度の悪さを指摘すると、鋭い視線を周囲へ向けた後ため息を吐き出した。
「ニールセンさん、小者の戯れ言など木々のざわめきと同じですよ」
「それでは木々の方に申し訳ない」
「あぁ、それもそうですね。己の修練不足を反省しない未熟者達ですからね」
俺とアランの会話を聞いた彼女は大きな目を更に大きく開けて驚いた表情を見せる。年相応のあどけない姿に、少しでも気が紛れたと感じた。
「はい、治療は終わりましたよ」
「へ?あ、ありがとうございました」
アランの治療も終わり婆さん達の元へ向かう途中、すれ違う幾人かの団員は無言で頭を下げ謝罪していたが殺気を向けている団員もいた。
これは要注意だな。
騎士団の自室で着替えが終わったと同時に、ノックも無しにドアが開き駆け込んで来たのは同期のガイルだった。
「何だよ騒々しい」
「弟子の令嬢が襲われた」
「は?」
自分でも分かる程、低い声が出る。ガイルが青ざめた顔で説明するが、話を聞けば聞くほど殺気だってしまった。婆さんの話しに腹をたてたからって何故、背後から剣を投げる。八つ当たりにも程がある。クソ!俺がいない時に!!
「と、とにかく!団長が訓練場に戻ってくれって」
「分かった。窓を閉めといてくれ」
「窓!?お前ここ三階だぞ!!」
叫ぶガイルを無視して窓から飛び降り、訓練場へと急いで戻った。中に入ると異様な空気が漂っていて、残っている団員達の殆どが怯えた視線でルナ嬢を見ていた。何だこれは……何か変だ。
その異様な空気の中でルナ嬢はミューをしっかりと抱き締めていた。しかし、ミューは彼女の腕の中で震えながら泣いていた。本当に何が起きたんだ。
「リュカ」
名前を呼ばれて視線を向けると、婆さんと団長がいない。アランが残っているとはいえ、二人だけがいなくなる異常事態に更に嫌な予感がした。
「何が起きた?」
「ミューが怒り狂って団員を襲って、それを彼女が止めたのですがミューが落ちつかないのですよ」
怒り狂うドラゴンを身を呈して止めたのだろう。肩から血が垂れ服を濡らしている。ミューは自分がルナ嬢を傷つけてしまった事を後悔しているのか……いや、それだけではないような……
「師匠からは治療をカイト団長からは後始末を頼まれています。陛下への報告も兼ねてお二人は先に行かれましたよ」
「了解。例の団員は外へ?」
端的な質問にアランが黙って頷いて肯定した。団員が誰かは知らないが騎士道に反する事を嫌う団長は、まだ未成年のしかも女性を背後から襲う非道な行為だから厳しい処分を下すだろう。そうなると……除名の上で殺人未遂に問われるだろう。
アランと話をしている間にミューが落ちついたのかルナ嬢が腕の力を抜いた。良し今なら声を掛けても大丈夫だな。
「ルナ嬢、傷の手当てをしよう」
少しボンヤリした様子の彼女に声を掛けると、視線を動かした後、首を傾げている。何か変だ……何が……この違和感はなんだ?
「ソフィア様とカイト団長は?」
二人が居なくなった事にも気づかなかった彼女に、アランが事情を説明する。例の団員の事には触れずミューが落ちつかないと危険だろうとだけ話し治療を始めた。俺は残っている団員達に指示を出し訓練場の片付けを始めると、一部の団員がチラチラとルナ嬢の様子を伺いながら近づかない。それは自分も身を持って体験した過去を彷彿させた。
「本当にあの子供がワーウルフの群れを一人で倒したのか?」
「大魔法使い殿が嘘をつくのかよ。事実だろ」
「そんなに強いなら護衛って必要か?契約者の強さ見ただろう。一瞬で距離を詰めて攻撃したじゃないか」
「あんな化け物冗談じゃない。俺は近づきたくないね」
あぁ、やっぱりか。異質な者、今までの常識から外れた者を忌み嫌う。人間の本能なのか育った環境なのか、初めて見るモノ受け入れられない彼らに彼女が傷ついてしまわないか心配になる。
「そこ!無駄口は止めて手を動かす!」
「「「はい!」」」
訓練場の地面に開いた穴は塞がり解散の声を掛けると、通常業務に戻る者と帰宅する者に分かれて動き出した。片付けはこれで良しっと……ルナ嬢はまだ顔色が悪いな。
「ルナ嬢?」
俯く彼女の顔を覗き込む。彼女の表情は酷く悲しげで、今にも消えてしまいそうな気がして思わず頬に触れていた。
「まだ痛みが?」
「い、いえ!大丈夫です」
勢いよく首を振る彼女の目に光る物が見えて『やはり』その一言だけが浮かんだ。彼女は気づいた。周囲の態度が変わった事に……
「まだ顔色が悪いな……団員達のせいか?」
ピクッと肩が揺れ少し驚いた彼女の目にハッキリと涙が浮かんだ。
「どうかしたのですか?」
治療に集中していたアランは、周囲の態度に気づいていなかったらしい。彼らの態度の悪さを指摘すると、鋭い視線を周囲へ向けた後ため息を吐き出した。
「ニールセンさん、小者の戯れ言など木々のざわめきと同じですよ」
「それでは木々の方に申し訳ない」
「あぁ、それもそうですね。己の修練不足を反省しない未熟者達ですからね」
俺とアランの会話を聞いた彼女は大きな目を更に大きく開けて驚いた表情を見せる。年相応のあどけない姿に、少しでも気が紛れたと感じた。
「はい、治療は終わりましたよ」
「へ?あ、ありがとうございました」
アランの治療も終わり婆さん達の元へ向かう途中、すれ違う幾人かの団員は無言で頭を下げ謝罪していたが殺気を向けている団員もいた。
これは要注意だな。
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