婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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学園復帰編

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 ソフィア様から衝撃的な事を聞かされた後は、リュカ様と杖を使った組み手の練習。剣と違って杖は打撃になるから動きに差があるらしいけど……よく分からないわ。

「今の動きをスピード上げてやるぞ」

「はい」

 リュカ様が構える姿を真似て同じ様に構える。リュカ様の右手が伸びて私のローブを掴もうとする動きを杖で防ぎ外側に弾くと、杖を横に回して伸びて開いている右脇腹目掛けて振り抜く。その杖をリュカ様が避けた所でカイト団長からストップが掛けられた。

「会議が終わったようだ。行こう」

「はい」

 陛下は会議が終わって休憩室に移動していて、その部屋へ向かうと説明された。良かった謁見室とか豪華な部屋に通されなくて……
 一通り謁見の流れを説明していたカイト団長だったけど、リュカ様の水浸しの姿を改めて見てため息を吐いた。

「フリューゲル、お前は陛下の御前に向かう姿ではないだろう」

「あ……すみません。直ぐに着替えます」

 カイト団長から注意されて肩を落とすリュカ様の後ろから無言で近付いたアラン先生が、彼の肩にポンと軽く手を置いた瞬間、温風が吹いてビショビショの全身は一瞬で乾いた。

「さっさと服を着替えて下さい。我々は先に行きますよ」

「お、助かった。直ぐに追い付く」

 乾いた髪を手櫛で整えたリュカ様が、カイト団長に頭を下げてから先に訓練場を出ていく。私達のやり取りを見ていた人達からざわめきが溢れていた。

「今の魔法はなんだ?」

「フリューゲルのあの動き。アイツ魔力関係ないのか?」

「身体強化もしていないぞ」

「あれで訓練にならないって、俺たちが普段している訓練は何なんだよ」

 アラン先生やリュカ様の動きに驚いたようで、本人が居なくなると尚更声が大きくなっていく。特にリュカ様への評価というか認識は変わった様だ。

「大魔法使い様、最後に一言お願いしても宜しいでしょうか」

「仕方ないね」

 カイト団長に促されてソフィア様が訓練場の中央に立って、場内に視線を巡らせた。視線が集まった事を確認したソフィア様が無表情になり、その場の空気が冷えた気がした。

「この程度の実力で私と共に行動出来ると思うか?足手纏いは不要。護衛対象より弱い者等論外だ」

 私の様な子供より弱いと言われて一瞬、ザワリと小さな声が上がったけどソフィア様は鋭い視線で黙らせた。

「この中に五十以上のワーウルフの群れを一人で倒せる者がいるか?」

「「「……」」」

「だろうね。だがルナには出来る」

 ソフィア様のその言葉で場内の視線が私に集中して居心地が悪い。中には殺気だった人もいて嫌な予感がした私は、無意識に防御壁を発動していた。

カシャン

 壁に何かが当たる音の後、私の前にいたはずのカイト団長が居なくなっていた。振り向くと地面に落ちた剣と、カイト団長から剣を喉に突き付けられて震える騎士の姿があった。

「己の未熟さを棚に上げ逆恨みか?」

「あ……」

「無防備な人に向かって背後から剣を投げるが騎士のする事か?」

 騎士の顔が真っ白になりカイト団長の殺気と、剣を突き付けられている恐怖からか失禁したらしい。足元に徐々に広がるシミとカチカチと歯が震える音が響く。

「実力もなく騎士道の精神を理解出来ぬ者は我が国の騎士団には不要故、立ち去るがいい」

「だ、団長!こ、これは魔がさしただけで、決して殺意などありません!」

「……では私が同じ事をしてもお前は許せるのだな」

「え?」

「私が魔がさしただけだと言って、この剣を刺してもお前は同じ事が言えるのか?」

「……っ……」

 剣の先が首に触れて血が滲むと騎士は慌てて後ろに下がったけど、カイト団長は逃げる事を許さず更に一歩踏み込む。

「彼女の防御壁が間に合ったから無傷であっただけの事。間に合わなかった場合、陛下に何と説明するのか?魔がさした故、殺したので謁見出ませんと言えるのか!」

 場内の響き渡るカイト団長の大きな声に唖然としていると、ソフィア様が彼の肩に手を置いて止めた。剣を鞘に戻した事で騎士は気が抜けたのか、力なくその場に座り込んだ。
 無言のカイト団長と無表情のソフィア様をボンヤリ見ていた私はミューが動いた事に気付くのが遅れた。ミューは羽を広げて飛び上がると、一瞬で騎士の元に向かって行き普段は隠している鋭い爪で背中を斬りつけた。

「グッ……」

 騎士の呻き声がしたけどミューは攻撃を止めない。もう一度、斬りつけようとした彼女に気付いて、私は慌てて彼女を抱き締めた。

「ミュー!」

「ルナの敵コロス!」

 私の腕の中で暴れるミューは、怒り狂うと言う言葉がピッタリ当てはまる。そんなミューを放してしまえば大変な事になるから、肩に爪が食い込んでも放さなかった。

「ミュー、ミュー!私は無事なの。大丈夫」

「ルナの敵、コロス!コロスヴゥゥゥゥ!!」

 猫の様な瞳は爬虫類特有の瞳孔が縦長の金色へと変わり、フワフワだった毛は鋭い針の様に尖っていた。

「騎士様、早く逃げて。このを抑えているうちに早く!」

 私の声を聞いて周りにいる人達が、負傷した騎士様を引き摺るように訓練場の外へと連れ出した。
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