婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

文字の大きさ
上 下
71 / 91
学園復帰編

22

しおりを挟む
 学園を卒業したから暇になるかと言うとそうではなくて、サリーナ先生が纏めた魔石の作り方を再編したり、リュカ様を始め皆が使っている魔石を作り直したりと忙しく過ごしていた。

「リュカ様の剣で最後ですね」

「そうだね。新しい石には回復ははずしておくかね」

「回復をですか?怪我した時に困りませんか?」

「そりゃ、回復するのに剣で刺さないといけないんじゃ本末転倒じゃないかい」

あっ!そこまで考えなかった。そうだよね。回復するのに一々、剣で刺すとか不便だわ。

「回復薬があるから問題ないだろうよ。それよりは浄化系を増やせないかい?」

 魔物との戦闘後、瘴気や魔物の体液で汚染された土地は、作物が育たなかったり動物が魔物化するから少しでも早く浄化したい。ソフィア様と話し合って魔石に刻む魔法を減らす替わりに威力の高い攻撃魔法と浄化魔法を増やした。魔石に刻む魔法を減らしたり陣が接触しない様に調整した結果、魔法の発動時間の短縮と使用魔力を減らす事に成功した。

「おぉ、何か最強って感じがしますね」

「これで完璧だねぇ。後は過程を纏めて陛下に提出すれば終いだよ」

「う……ガンバります」

 魔石の作り方を纏めながらもミューと魔法の練習したりして過ごしていたけど、とうとう陛下との謁見の日を迎えた。


 今日の予定は陛下から卒業証書を受け取って、城内にある訓練場で現役の騎士団員や魔法師団員と実戦形式の訓練をする。緊張しながら城門を潜り馬車から降りると、カイト団長とケビン団長が待っていた。

「やぁ、久しぶりだねルナ嬢。大魔法使い殿、陛下より会議が終わらないゆえ、先に訓練して頂けないかとのお達しです」

 カイト団長の話しから私達との謁見前に定例会議をしていたけど、対立グループを乱闘とか野次で会議が紛糾。いまだに収拾の目処が立っていないらしい。うわ……乱闘って警備の騎士様達も大変ね。ソフィア様も事情を聞いて肩を竦めてため息を吐いただけだった。

「仕方ないね。そっちの準備は終わっているのかい?」

「そちらは抜かりなく。希望者は既に場内にて待機しております」

 準備は終わっていてリュカ様とアラン先生も待っているって事で訓練場に向かうと、入口の近くで四人の騎士様達が集まって話をしていた。

「またフリューゲルだけ優遇されて腹が立つ。龍人だからって言っても"大魔法使いの出来損ない"だろう?」

「あー、その話は俺も聞いたぜ。魔力はあるけど剣がないと使えないって話だろう」

「じゃあ、先に剣を叩き落とせば楽勝じゃねぇ?」

「「確かに!ハハハ」」

 楽しそうにリュカ様の悪口を言う騎士様達に三人の空気が一気に変わって、側に立っているだけの私とミューだけど寒気がする。この寒気っていうか殺気に気付かない時点でこの人達、終わっているわよね?

「……えっと行きましょうか」

 無言の三人に話し掛けると一斉に視線が集まり、騎士様達も私達に気付いてぎこちない動きで私に視線を向けてきた。

「お、お、お疲れ様です!」

 一人が慌てて挨拶したけどソフィア様筆頭に三人は無言で彼らの顔を見ていた。他の人達も頭を下げているけど、身体の横に付けられた手は震えていた。そんなに怖いなら言わなきゃ良いのに。

「ルナ、この人達なぁに?」

 気不味い雰囲気の中で声を上げたのはミューだった。今から何をするかよく分かっていないらしい彼女は、入口に人がいる事が不思議なのか首を傾げていた。うーん、悪口だって気付いてないのかな?それとも訓練自体、理解していないのかも。

「さぁ?私もわからないわ」

 なんて説明して良いかも分からなかった私は惚けて首を傾げると、私を真似てミューも首を傾げてから頬に擦りよった。

「お婆ちゃん、私は早くルナと練習したいわ」

「そうかい。待たせて悪かったね。思いっきり殺って良いんだよ」

ソフィア様、やってが"殺って"になっていませんか?カイト団長、笑顔で頷かないで下さい。ケビン団長も止めて!! 

 不穏な空気を感じたのか彼らの顔は青ざめて足も震えている。こんな状態で訓練の参加は不可能だと思ったけど、カイト団長は辞退を認めなかった。

「剣がなければ楽勝と言うならフリューゲルと一対一でやってみろ」

「あ、はい」

 話を聞かれた事に気付いた彼らは、気まずげに視線を彷徨わせながらも頷き了承してから訓練場の中に入って行った。

「嫌な物を見せてしまったね」

 カイト団長が少し眉を下げて申し訳なさそうに、今の騎士団の現状を教えてくれた。
 騎士団の中にはソフィア様の孫で魔力も強いのに騎士になったリュカ様へ対する嫉妬や妬みから陰口悪口が横行。団長が諌めようが実力を認めない人が一定数いて、今回のミューの護衛もソフィア様のコネで抜擢されたと噂になってしまっているらしい。

うーん、まぁ、騎士様だって人間だから嫉妬や妬みはあるけど剣がなければ楽勝?でもリュカ様って確か……

「体術の方が得意じゃなかったですか?」

 私の言葉を聞いてカイト団長が少し驚いた表情を見せたあと、何故か嬉しそうに笑った。

「そうだね。だが訓練で実力を出した事のないフリューゲルは見下されているのも事実なんだ。だからこそ今日の訓練なのだよ」

あー、何となく察しました。文句言う人達に実力を知らしめたいと。だから朝からソフィア様が楽しそうに準備運動していたのですね。


……今の人達、大丈夫かな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。 けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。 そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。 消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。 救国の聖女「エミヤ」の記憶を。 表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...