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学園復帰編
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目を覚まして直ぐ、私がお願いしたのはリュカ様に会う事。ソフィア様は最初は渋っていたけど、私が一部の会話を聞いていた事を告げると何があったか教えてくれた。
魔女の魔力が体の中に入っていた私は、魔女に精神干渉を受けていた。それに気付いたが何も出来ないと知ると、リュカ様は私の中の魔女の魔力だけを吸い取ってくれたから目を覚ます事が出来た事。
そして、今、私の目の前には眠っているリュカ様がいる。ソフィア様とケビン団長がリュカ様の回りだけ時間が遅くなるようにしたけど、早く魔女の魔力を外に出さないと捕らわれて永遠に眠ってしまう可能性が高い。
「私のせいで、ごめんなさい」
血の気のない顔で寝ているリュカ様は、時折、魘され苦し気な呻き声を上げ汗をかいている。彼の顔を濡らした布で拭き再び手を握ると、微かに握り返してくれた気がした。
「ルー」
懐かしい呼び名が聞こえて振り返ると、ドアの向こうに剣を抱えたラルちゃんとその後ろにはケビン団長がいた。
「ラルちゃん」
「ルー、落ちついて。今の君なら分かるだろう。魔石の使い方」
「うん」
「ご令嬢、すまぬがこの魔石の中にはいかほどの陣が入っている」
改めてリュカ様の剣を渡され受け取ると、十年前の記憶がゆっくりと甦る。これはサリーナ先生が一個の魔石にどれくらい陣を入れられるか尋ねたから、限界まで入れる実験をした石だわ。遊び感覚でドンドン入れたけど、多すぎて発動には多く魔力が必要になったから誰も使えなかった魔石だわ。
「十年前の教科書ですが、攻撃・防御・回復・浄化の四冊分の陣が入っています」
「その中に魔力を吸収する物や魔女の魔力だけを消せる物はあるか?」
「石に流れてきた魔力と言葉で反応する物で、本人の意思なく魔力を吸収する事は出来ません」
私の言葉を聞いたケビン団長が、目に見えて肩を落とす。リュカ様の体から魔女の魔力を取り出すか、本人が魔力に打ち勝つか。どちらか一つだから魔石で吸収して取り出したかった。でも……確か……
「魔石の魔法に特定の条件を付ければ、魔女の魔力だけを吸収する事は出来るかもしれません」
「何?ご令嬢、それは魔石の中で陣を複合すると言う事か?」
ケビン団長の言葉に黙って頷くと、顎に手をあてて考え始める。私みたいな小娘が言っても信憑性なんて一つもないけど、可能性があるなら試したい。
「ルー、ごめんね。急いでたから魔石、一個しか準備出来なかった」
そう言ってラルちゃんが申し訳なさそうにローブの中から、私の手のひらサイズの黒い魔石を出してきた。魔石は宝石みたいに色がついているけど黒は初めて見たわ。差し出された魔石を受け取る手が震えているけど、しっかりと握り締めるとラルちゃんに向かって大きく頷いた。
「今まで忘れててごめんね。それなのに助けてくれてありがとう」
「うん、ルーに助けられたのは僕の方だよ。だからこれは僕からの恩返し」
「え?」
「さぁ、彼を助けられるのはルーだけだ。これは僕も作れないんだから」
ラルちゃんの言葉に大きく頷いた私は、改めてリュカ様が眠るベッドに視線を向けた。
「ソフィア様に陣を見て貰ってきます」
「陣を見て貰って言っても」
「大丈夫。ここに陣は出来てるよ。確認して貰ったら直ぐに魔石の作成に入ります」
ラルちゃんの言葉を途中で切って、自分の頭を指して出来るだけ明るく言う。これ以上、クヨクヨしたってリュカ様が危険なだけだわ。やれる事をやろう。こんな事になったのは私のせいだから、絶対に助けたい。
「ご令嬢、すまぬが頼んだぞ」
「はい!」
リュカ様の部屋を出てソフィア様の部屋に向かうと、少しだけドアが開いていて翁さんと話をしている声が聞こえたからノックしようと上げた手を止めた。
「じゃあ、ネグルに問題はないんだね」
『あぁ、安心せい。そっちに行けば騒ぎになるじゃろう。ヤツはワシが抑えておくとしよう』
「悪いね。頼んだよ」
会話が終わったタイミングで改めて軽くノックすると、ソフィア様がドアを開けてくれた。
「どうしたんだい。その魔石で何をする気だい」
「魔石に魔女の魔力だけを吸い取って閉じ込めたいんです。見て頂けますか?」
ソフィア様が無言で頷き部屋の中に入れてくれる。部屋の中央に配置されたテーブルの上には、私の拳程の厚さの本が積み上がっていた。
「手持ちの書籍の中には使えそうな物はなかったよ」
「……紙をお借りしても良いですか?」
ソフィア様から紙とペンを借りると、丁寧に陣を書く。魔石を作る時に必要な魔力の受け入れる陣に、"悪しき心"と"闇の魔力"を条件につけ足す。書き上げた陣を横から見ていたソフィア様が、スッと指した。
「ここは条件を二つに分けるんじゃないよ。ネグルの闇の魔力も吸っちまう。"悪に染まりし魔力"に変えるんだ」
「はい!」
指摘された箇所を変えて改めて紙に書き直すと、最後の確認の為にソフィア様に渡した。
「これで大丈夫。ルナ、頼んだよ」
ソフィア様の言葉に大きく頷いた私は、早速、魔石の中に陣を入れる準備を始める事にしたけど……
「え?ソフィア様の部屋でするんですか?」
「ルナの部屋は魔女に知られているからね。ここなら遮断の結界があるから魔女には分からないのさ」
ソフィア様は念には念を入れた方が良いと、私は魔女に隠れて魔石を作る事になった。
魔女の魔力が体の中に入っていた私は、魔女に精神干渉を受けていた。それに気付いたが何も出来ないと知ると、リュカ様は私の中の魔女の魔力だけを吸い取ってくれたから目を覚ます事が出来た事。
そして、今、私の目の前には眠っているリュカ様がいる。ソフィア様とケビン団長がリュカ様の回りだけ時間が遅くなるようにしたけど、早く魔女の魔力を外に出さないと捕らわれて永遠に眠ってしまう可能性が高い。
「私のせいで、ごめんなさい」
血の気のない顔で寝ているリュカ様は、時折、魘され苦し気な呻き声を上げ汗をかいている。彼の顔を濡らした布で拭き再び手を握ると、微かに握り返してくれた気がした。
「ルー」
懐かしい呼び名が聞こえて振り返ると、ドアの向こうに剣を抱えたラルちゃんとその後ろにはケビン団長がいた。
「ラルちゃん」
「ルー、落ちついて。今の君なら分かるだろう。魔石の使い方」
「うん」
「ご令嬢、すまぬがこの魔石の中にはいかほどの陣が入っている」
改めてリュカ様の剣を渡され受け取ると、十年前の記憶がゆっくりと甦る。これはサリーナ先生が一個の魔石にどれくらい陣を入れられるか尋ねたから、限界まで入れる実験をした石だわ。遊び感覚でドンドン入れたけど、多すぎて発動には多く魔力が必要になったから誰も使えなかった魔石だわ。
「十年前の教科書ですが、攻撃・防御・回復・浄化の四冊分の陣が入っています」
「その中に魔力を吸収する物や魔女の魔力だけを消せる物はあるか?」
「石に流れてきた魔力と言葉で反応する物で、本人の意思なく魔力を吸収する事は出来ません」
私の言葉を聞いたケビン団長が、目に見えて肩を落とす。リュカ様の体から魔女の魔力を取り出すか、本人が魔力に打ち勝つか。どちらか一つだから魔石で吸収して取り出したかった。でも……確か……
「魔石の魔法に特定の条件を付ければ、魔女の魔力だけを吸収する事は出来るかもしれません」
「何?ご令嬢、それは魔石の中で陣を複合すると言う事か?」
ケビン団長の言葉に黙って頷くと、顎に手をあてて考え始める。私みたいな小娘が言っても信憑性なんて一つもないけど、可能性があるなら試したい。
「ルー、ごめんね。急いでたから魔石、一個しか準備出来なかった」
そう言ってラルちゃんが申し訳なさそうにローブの中から、私の手のひらサイズの黒い魔石を出してきた。魔石は宝石みたいに色がついているけど黒は初めて見たわ。差し出された魔石を受け取る手が震えているけど、しっかりと握り締めるとラルちゃんに向かって大きく頷いた。
「今まで忘れててごめんね。それなのに助けてくれてありがとう」
「うん、ルーに助けられたのは僕の方だよ。だからこれは僕からの恩返し」
「え?」
「さぁ、彼を助けられるのはルーだけだ。これは僕も作れないんだから」
ラルちゃんの言葉に大きく頷いた私は、改めてリュカ様が眠るベッドに視線を向けた。
「ソフィア様に陣を見て貰ってきます」
「陣を見て貰って言っても」
「大丈夫。ここに陣は出来てるよ。確認して貰ったら直ぐに魔石の作成に入ります」
ラルちゃんの言葉を途中で切って、自分の頭を指して出来るだけ明るく言う。これ以上、クヨクヨしたってリュカ様が危険なだけだわ。やれる事をやろう。こんな事になったのは私のせいだから、絶対に助けたい。
「ご令嬢、すまぬが頼んだぞ」
「はい!」
リュカ様の部屋を出てソフィア様の部屋に向かうと、少しだけドアが開いていて翁さんと話をしている声が聞こえたからノックしようと上げた手を止めた。
「じゃあ、ネグルに問題はないんだね」
『あぁ、安心せい。そっちに行けば騒ぎになるじゃろう。ヤツはワシが抑えておくとしよう』
「悪いね。頼んだよ」
会話が終わったタイミングで改めて軽くノックすると、ソフィア様がドアを開けてくれた。
「どうしたんだい。その魔石で何をする気だい」
「魔石に魔女の魔力だけを吸い取って閉じ込めたいんです。見て頂けますか?」
ソフィア様が無言で頷き部屋の中に入れてくれる。部屋の中央に配置されたテーブルの上には、私の拳程の厚さの本が積み上がっていた。
「手持ちの書籍の中には使えそうな物はなかったよ」
「……紙をお借りしても良いですか?」
ソフィア様から紙とペンを借りると、丁寧に陣を書く。魔石を作る時に必要な魔力の受け入れる陣に、"悪しき心"と"闇の魔力"を条件につけ足す。書き上げた陣を横から見ていたソフィア様が、スッと指した。
「ここは条件を二つに分けるんじゃないよ。ネグルの闇の魔力も吸っちまう。"悪に染まりし魔力"に変えるんだ」
「はい!」
指摘された箇所を変えて改めて紙に書き直すと、最後の確認の為にソフィア様に渡した。
「これで大丈夫。ルナ、頼んだよ」
ソフィア様の言葉に大きく頷いた私は、早速、魔石の中に陣を入れる準備を始める事にしたけど……
「え?ソフィア様の部屋でするんですか?」
「ルナの部屋は魔女に知られているからね。ここなら遮断の結界があるから魔女には分からないのさ」
ソフィア様は念には念を入れた方が良いと、私は魔女に隠れて魔石を作る事になった。
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