婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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学園復帰編

14 side 騎士団団長 カイト

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「彼女の魔石はーー呪具ーーにもなるものだ」

 誰かの息を飲む音がやけに大きく響く中、サリーナ先生の仮説を話す。呪具に使用されている呪いの石は、彼女が作った魔石と同じなのではないかという事。現に彼女が作った魔石は他者では同じ物が作れず、資料を元に試行錯誤が続いている。

「その魔石を作れる彼女は魔女の後継ぎにされる可能性がある」

「……そ、んな……」

 部下がボソッと呟いた言葉が暗い部屋に響く。何か彼女を助ける方法があれば良いのだが……

「魔女の魔力は俺が引き受ける」

 一瞬、部下の言葉の意味が理解出来ずにいると、大魔法使い殿が止めるのも構わず部下が彼女と唇を合わせた。ケビン団長も部下を引き離そうと手を伸ばしたが、その前に彼女の回りを取り囲む瘴気の様な重い空気が一瞬で消え失せ部下がベッドの横で膝をつく。

「はぁ……後は頼んだ」

 彼女の呼吸が落ちついた事を確認した部下は、自重を支えきれずに床に崩れ落ちた。何をしたのか理解出来ない私とは違い、二人は慌てた様子で部下に駆け寄っている。

「リュカ!」

 大魔法使い殿が部下の名前を呼ぶが、目を閉じた部下は何も反応を示さない。ケビン団長に頼まれ部下を別室のベッドへ寝かせると、先程の彼女と同じ様に血の気のない白い顔で何か呻いている。どういう事なのだろうか……まるで彼女と部下の容態が入れ替わった様ではないか。

「フリューゲルは何をしたのだ?」

「ご令嬢の中から魔女の力を吸い取り自身の体に取り込んだ」

「は?そんな事が出来るのか?聞いた事がないが」

「リュカだけだ。アヤツは他人の魔力を吸収する事が出来る」

 部下だけと聞いてケビン団長に視線を向けると、眉間にシワを寄せ苦し気に胸元を押さえていた。

「アヤツは他人の魔力を内に溜める事は出来るが、その魔力を発露する為には媒体となる物が必要。媒体がなければ発露出来ぬ」

「発露が出来ない?……それでは魔女の力はフリューゲルの中に入ったままという事ではないか!」

「そうだ。本人も承知でした故、ご令嬢の責ではない」

 会話を切る様に何かの魔法陣を作り出したケビン団長は、部下のベッドの回りに陣を設置した。

「これで暫くは凌げるであろう。カイト団長、アヤツの剣に仕込まれている魔石もご令嬢が作ったものか?」

「あ、あぁ、魔石にいか程の陣が入れられるか試した物だ。教本で数冊分程入ったそうだ」

 ケビン団長の説明によれば、部下のベッドの周囲だけ時間の流れを遅くしたらしい。恐らく魔石は魔女の魔法を解く鍵なのだろう。ケビン団長も魔法による影響を少しだけ抑えられるが解く事は出来ないという。だが、魔法の知識に乏しい私には、ケビン団長に魔石の詳細を説明する事は出来ん。出来るとすれば……

「すまぬ。私では全ては分からぬのだ。ラルクなら少しは知るかもしれん」

「アヤツか……承知した。連絡の為少し席を外す」

 普段は無表情のケビン団長が焦る様子に、自分の中で焦燥感が湧く。団長の地位にあっても魔力があっても、私には何も出来ない……そう十年前の彼女と会えなくなったあの日から私は何も変わっていないのだな……

「カイト、ケビンはどうした」

「大魔法使い殿、ラルクに連絡しております。フリューゲルの剣に使われている魔石の中身を知りたいと」

「あれもルナが?」

「えぇ、その通りです。教本で数冊分程の陣が入っているそうですが、私には分かり兼ねますゆえ」

「そうかい……ルナは間もなく目を覚ます。魔女の力は全てリュカが取ったからね」

 そう言うとゆっくりと息を吐き出した大魔法使い殿がリュカの額に手を置いた。何か人には聞き取れない言葉を呟いた大魔法使い殿は、手を離すとぐっと拳を握り締めた。

「目を覚まさなきゃ承知しないよ、この馬鹿が」

 大魔法使い殿の苦し気な言葉に胸が痛んだが、私が残っていても邪魔にしかならない事は承知している。緊急連絡用の通信機を残して彼らの家を後にし帰宅した。






「マーフィー、聞こえるか」

『カイトか、珍しい』

「緊急事態だ。ルナが魔女に目をつけられた」

『それは間違いないのか?』

 学園で起きた事件と大魔法使い殿の家での出来事を手短に伝える。通信機越しにマーフィーの息を飲む音が聞こえた気がした。

「これは私の推測だが近年、呪具の流出が増えたのは後継者を探す為だろう。間違いなく彼女は狙われている」

『そうか。私もそちらへ向かう』

「あぁ、頼む。ラルクはケビン団長から連絡が入っているはずだ」

『分かった。では』


 通信機をきり誰も居ない部屋で、自分のため息だけがやけに響き焦燥感を駆り立てる。フッと窓に視線を向ければ、満月の月明かりが射し込んでくる。それはサリーナ先生が亡くなった日の夜を思い起こさせる、そんな月夜だった。

『ごめんなさいね……どうか彼女を……』

 ベッドの上で最後の最後まで彼女を心配していたサリーナ先生は、何故、あそこまで彼女を護ろうとしていたのだろうか。理由を知りたくとも、故人に尋ねる術はない。



サリーナ先生、姿はなくとも彼女を助けてやって欲しい。私は、十年経とうと結局、無力のままでしたよ。
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