婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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学園復帰編

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 嵐の様なマリンさんには驚かされたけど、翌日からはソフィア様から頂いたローブを制服の上から纏って登校する事になりました。馬車に揺られながらフッと昨日のエリザベスの事を思い出した。

「そう言えばソフィア様、昨日学園で変な物を見ました」

「変な物ってのは何だい?」

「エリザベスを覚えていますか?復学手続きの時に会った女子生徒です」

「あぁ、あの危ない子ね」

 頷いたソフィア様に私は昨日見た黒い靄の様な物がエリザベスの回りにだけあった事を伝えた。

「黒い靄?」

「はい、彼女の回りにだけ影かさした様な薄暗い靄も様なものでした」

 教室のドアが閉まった為にはっきりとは言えないが、彼女の回りだけ明らかに暗くただの偶然には思えなかった。

「……あの子の回りだけ……ねぇ」

 そう呟いたソフィア様は考え込んだ様子で窓の外に顔を向けて黙り込んでしまった。やっぱりよくない物だったのかしら?もっと早く言えば良かったかなぁ。

「ルナの言う靄が魔力なら彼女は闇に染まり始めているの可能性があるね」

「闇に?えっと……たった一日でですか?」

「時間は関係ないんだよ。本人の気持ちだからね。ルナは試験に集中しな。後は私がやっておく」

 ソフィア様の有無を言わさぬ強い視線に黙って頷いた私は、ミューを抱きしめながら何も無いことを祈った。


 試験会場になっている教室に着くと、ソフィア様は講師に声を掛け、ケビン団長に連絡すると一言残して講師と一緒に出て行った。残された私は前日同様に講師から出される魔法を次々に発動させていき一時間目が終わる頃には初級試験は終了した。

「体調に問題なければ二時間目からは中級にはいります。魔法補助具の使用が認められていますが、何か使いますか?」

 講師の言葉を聞いて杖の存在を思い出したけど、素材が問題なだけに無意識に首を横に振っていた。隠していた方がいい気がするのよね。ソフィア様が身に付けているだけでも安定するって言ってたから戻って着たら聞いてみよう。

「では二時間目の開始時間に改めて教室に伺います」

 そう言い残して講師達が退室すると、広い実習用教室に私とミューだけになった。

「ねぇ、ルナ。ここ何か変な感じがする」

「え?」

 ミューが私の肩に乗ると突然そんな事を言い出し、スンスンと鼻を鳴らして臭いを嗅ぐような仕草を見せた。あら?ミューの話し方が変わっているわ。少し成長したのかしら……それとも変な感じがするせいなのかしら。

「何か分からないけど、嫌な臭い」

「嫌な臭い?私には分からないけど臭いがするのね」

「そうよ。初めての臭いよ」

 急に辺りを警戒する様子を見せるミューに戸惑っていると、教室のドアが開きリュカ様が現れた。

「え?どうしたんですか?お仕事中じゃ」

「婆さんに呼ばれたんだ。緊急事態だから学園から退避してくれ」

 よく見ると額に汗が浮かび急いで着た事が分かる。そうだ。さっきからミューも変な感じとか変な臭いとか言っているわ。これも緊急事態に関係しているのかも

「あの!さっきからミューが変な臭いがすると言うんです」

「変な臭い?」

「そうよ。初めての臭いなの。嫌な臭い近付いちゃいけないの」

「……そうか。ミューは闇の魔力を臭いで感知しているのか」

 "闇の魔力"と聞いてミューに向けていた視線をリュカ様に動かすと、眼鏡を外して周囲を確認する様に視線を巡らしていた。あれ?眼鏡なんて普段掛けていないのに、どうしたんだろう。しかも、外してしまったら逆に見えないんじゃ……

「あった。この先の建物……教室……授業中か」

 リュカ様の視線の先に顔を向けてもただの壁しかないけど、その外に出た所には主に一年が使う座学教室棟がある。あぁ、そうか……闇の魔力に緊急事態って……闇に呑まれたのね。

「リュカ様、中庭を挟んだ向かい側に座学教室の建物があります」

「分かった。ルナ嬢とミューは馬車に向かえ。婆さんが待機している」

「リュカ様、一人で向かうんですか!?」

「いや、ケビン団長も間もなく来る。俺は状況確認の為に先行しているだけだ心配ない」

 私の質問に答えながらもリュカ様の視線は壁に向けたまま動いていない。それだけ危険が迫っていると肌で感じて、足元から恐怖が這い上がる。足を縺れさせたりしながらリュカ様と教室を出て外に向かうと、他の生徒も講師の誘導で外に出てきていた。

「二年、全員の安否確認が取れました!」

「三年も完了です!」

 講師たちがお互いに声を掛けているが、一年の声だけが何も聞こえない。ざわめきが広がる中、確認の済んだ生徒たちの避難が始まる。講師に誘導され学園の校舎から離れていく生徒たちの後ろを私とミューもついて行く事になった。

「直ぐに応援が来る。ここは任せて婆さんを安心させてくれ」

「はい」

 私の返事を聞いたリュカ様は一人、問題の校舎へと進んで行った。

どうかリュカ様が怪我をしませんように

 折角、魔力があるのに祈る事しか出来ない自分の未熟さに、苛立ちと悔しさを感じながらミューと避難した。
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