婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です！

シマ

文字の大きさ

大中小

56 / 91

学園復帰編

7

しおりを挟む

　学園から帰宅した後はミューと庭を散歩したりがソフィア様から魔法道具の作り方を学んで過ごし、夕方からは晩御飯を作る。今日はリュカ様だけ帰って来ると連絡がきたから三人分の食事を準備している。

「ルナは手際が良いねぇ」

「そうですか？寮で作っていただけなんですけど」

　他の人と何が違うのか比べた事もないから分からずに首を傾げていると、リュカ様が帰って着たのか玄関が騒がしくなった。

「なんだい煩いね」

　眉間にシワを寄せたソフィア様が玄関に向かうから私とミューも追い掛けると、玄関にはリュカ様と水色の珍しい髪をした女性がいた。

「ちょっとだけでも会わせてよ」

「しつこい！届け物を婆さんに渡したらさっさと帰れ」

　何を揉めているのか分からないけど、ソフィア様に何か持って来たのは間違いないみたい。親しい間柄なのか遠慮のない言い合いが続いている。

「リュカのバーカ、バーカ。ケチ！」

「マジで帰れ」

　子供みたいな文句を言う女性に対してリュカ様は顔を引きつらせている。舌を出してリュカ様を挑発する女性は私達に全く気付いていないみたい。誰だろうと疑問に思っているとソフィア様が大きく息を吸い込んだ。

「お前達、煩い！」

　ミューも驚くほどの大きな声で注意したソフィア様にやっと気づいた二人は錆びた玩具の様にぎこちない動きでこちらに顔を向けた。あーあ、ソフィア様に怒られるわね。

「マリン、頼んだ物は出来たのかい？」

「は、はい。頼まれていたローブです！」

　静かに尋ねるソフィア様が逆に怖い。マリンと呼ばれた水色の髪の女性は、青ざめた顔と震える手で黒い布を渡している。その横でリュカ様も青ざめた顔でソフィア様を見ているから、何かあるのかな？

「ルナ、おいで」

「はい」

　一歩下がって様子を見ていた私だけど、呼ばれたから素直にソフィア様の前に行くとマリンさんから受け取った黒い布を私に差し出した。

「師匠から弟子に渡すローブだよ。着てごらん」

「はい」

　受け取ったローブに袖を通すとサイズはピッタリで手直しの必要はなさそう。シンプルに黒一色で出来たローブは生地は厚みがあるのに軽く動き易かった。

「ソフィア様、ありがとうございます！嬉しいです！」

　その場でクルリと一回転して全体を見せると、ソフィア様も笑顔で頷いてくれた。

「ルナ、カッコいい～」

「ありがとうミュー」

　ミューの存在に気づいたマリンさんが、ジーっと穴が飽きそうなほどの視線を向けてくるからゾクッと寒気がして一歩後ろに下がった。え……何だろう……なんか怖い。

「はじめまして。私、マリン・フリューゲル。ケビン団長の妹でーす！宜しくね」

「あ、はい。ルナです。宜しくお願いします」

　自己紹介を受けて挨拶するけど、何故か彼女の手がワキワキって表現したら良いのかな。何だろう……不気味な動きして近づいてきてる。

「帰れ」

　何となく後ろに下がっているとリュカ様が、マリンさんから私を隠す様に前に立って手で払う仕草をしていると、小さいため息が聞こえた。

「もう、ソフィア様まで睨まないで下さいよ。可愛い子とお話したかっただけなのに～」

「マリンは限度を超えてるんだよ。その気持ち悪い手を引っ込めな」

「ソフィア様にまで言われちゃ仕方ないですねぇ。今日は帰りますよ。ルナさん、今度二人でご飯食べにいこうね～」

　笑顔で手を振りながら玄関を行くマリンさんは、家の前の広い芝生の上に立つと空に向かって手を伸ばした。

「ディープおいで」

　マリンさんの声に反応して空から降りて着たのは、水色の細長い体をした蛇の様な生き物。でも、よく見ると頭には二本の角と頬には細長いヒゲみたいな物があった。あれ？どっかで見たことある形。どこで見たのか私が記憶を辿っている間にマリンさんはディープと呼ばれた魔物の背中に乗って飛んで行ってしまった。嵐の様な人だわ。

「あれが異国で見つけたミズチって生き物かい」

　"ミズチ"と聞いて思い出したのは『火炎竜』と呼ばれる魔法の由来。確か外国のしかも海を挟んだ遠い国の水の神様と言われている魔物だわ。本物は綺麗な透明感ある水色で本当に水が流れる様な姿をしているのね。

「ミズチは海を挟んだ遠い異国の水の神様と言われている魔物ですよね。どうしてこの国にいるんでしょうか？」

「見聞を広げたいって外国を旅していた時に助けてからずっと一緒だって言ってたねぇ」

　恩返し？流石、ケビン団長の妹さん。助けた相手も凄いけど、恩返しについてきちゃうなんて何をしたんだろう？

「強いし賢い子なんだけどねぇ……ルナみたいな若い綺麗な女の子が大好きで、着せ替えしたり化粧して変身させるのが趣味なんだよねぇ」

「へ、変身ってどういう事ですか？」

「された側の人間から言わせれば迷惑だな」

「リュカ様もされた側？」

「……小さい頃に女装させられた」

　苦虫を噛み潰したような険しい表情でそう言ったリュカ様の横で、ソフィア様もこめかみに手を添えて大きなため息を吐き出していた。

わーお、リュカ様に女装って……ワイルドな女性ですね。

しおりを挟む