49 / 91
龍人の村編
34
しおりを挟む
ミューが猫の姿になろうが日々やるとこは変わらない。契約の維持の為に魔力を常に使うから逆に訓練は順調で、他にも勉強がしたいと考えてソフィア様に伝えたら分厚い本を渡された。
「ソフィア様、これは?」
「ルナには有り余る魔力がある。じいさんがくれた逆鱗もあるんだ。装具や魔法補助具を作れば良いさ」
雪深い村ではこの時期はほぼ家に隠って、刺繍や編み物に工芸品や武器・装具を作ったりするらしい。何処の家でも一通り道具も揃っていて何でも出来ると言われたけど……
この本……教科書より分厚いですが、これを先ず読めと?読むだけで何日掛かるか分からない。それに急に装備とか補助具と言われても、何から手をつけて良いか思いつかなかった。
「どうせ外には出りゃしないんだ。ゆっくり読みな」
ソフィア様の言葉につられて自然と窓の外に視線を向けると、真っ白な雪だけの世界。雪の壁しか見えない中、リュカ様は二階の窓から外に出て素振りをしている。確かに私が外に出れば雪に埋まる姿しか想像できないしソフィア様の言う通りね。
そう考えた私は、暖炉の前の椅子に座り本を読み始め、ミューは足元で丸くなる。私が本を読み始めるとソフィア様はソファーに座り装具の点検を始めた。
本を読みながら、ゆったりとした時間が流れる日々。翁さんから貰った逆鱗は魔法補助の杖にする事に決めた。ソフィア様に何度も相談したり、リュカ様に意見を出して貰ったりしながらやっと杖が完成した時には、この村で過ごす時間も残り少なくなっていた。
「あと、二ヶ月で帰るのかぁ。早いですね」
「なに若い娘が年寄り臭いこと言ってんだい」
ソフィア様に呆れた表情で完成した杖をチェックしている。杖をそのまま持つと目立つから、ミューとお揃いの黒いリボンに銀のチャームが付いたチョーカーとして身に付けられる様にした。
「悪くないね。目立たないしミューと契約している目印にもなる」
「お洒落だな」
完成しチョーカーを眺めるリュカ様は、私の真後ろから覗き込んでいる。顔の真横にある顔に驚いて仰け反ると、ソフィア様がリュカ様に拳骨を落とした。
「女心の分からない脳筋は黙りな」
これも恒例となっているリュカ様へのダメ出し。距離感が可笑しいリュカ様は、ソフィア様に毎回拳骨を落とされている。時々、リュカ様が拳骨を避けるとソフィア様は更に怒って魔法で拘束してからのお説教になる。リュカ様は頭を押さえながらソフィア様のお叱りを黙って聞いているけど、男兄弟の中で育ったせいか本人の性格のせいか一向に治る気配はなくこの光景はまだまだ続きそう。
「ルナ嬢、すまなかった」
「謝罪は受け入れますが気をつけないと頭のたん瘤消えなくなりますよ」
「うっ……ぜ、善処する」
「善処じゃない止めろと言ってんだよ!本当に脳筋がぁ!!」
ゴンと豪快な音が部屋に響き再び頭を抑えて蹲るリュカ様を見てミューがクスクスと笑っている。涙目のリュカ様は不貞腐れた様子で部屋の角に置かれた椅子に座って、頭を冷やし始めた。リュカ様が余りにも痛そうで近づいて回復魔法をかけると、苦笑いしながらお礼を言った。
レア素材のドラゴンの逆鱗を使った杖のお陰で、攻撃魔法のコントロールも上達しダミー人形に必ず当たる様になった頃には雪も溶けて学園に戻るまで残り一週間。荷造りをしていると思っていたより小物が増えている事に気付いた。
帰る時に大変だからお兄様へのお土産以外、何も買わなかったはずなのにリュカ様から貰ったアクセサリーがこんなに増えているわ。……いくらお詫びだと言われても、これは貰い過ぎね。どうしたら止めてくれるかしら。そんな事を考えている時、ドアをノックする音が聞こえて返事をするとドアの隙間からリュカ様が顔を覗かせる。何故か部屋に入ろうとしない彼に首を傾げていると、ゆっくりとソフィア様に怒られた事を話し始めた。
「その……婆さんが物を贈り過ぎると相手は困るから止めろと……」
困った様な泣きそうな何とも情けない表情を浮かべるリュカ様は、私が困ってないか好みとかけ離れていないか気になってしまったらしく確認に来た様だ。私より歳上なのに叱られた子犬の様に見えてしまうから不思議。私が何も言わないから不安になったのかリュカ様の顔色が悪くなってしまった。
「そうですね。頂いた物は、やはり数が多いので今後は控えて頂けると助かります」
「いや、しかし何とお詫びしたら」
「お詫びなら“ごめんなさい”の一言で良いじゃないですか。それでも気になるのでしたら切り花を一輪下さい」
「一輪だけで良いのか?」
“一輪の花”と聞いて目を丸くするリュカ様はまるで少年の様に幼く見える。
「私を思って選んで下さった物ですから何でも良いんです。でも、これは金額的にも私の方が気になるので止めて欲しいです」
そう言ってアクセサリーが入った箱を指すと、改めてその数を見て贈った本人が黙り込んでいる。この顔は金額とか数とか考えていなかったわね。そりゃ、ソフィア様も怒るはずだわ。
「……あー、そこまで考えが及ばなかった」
決まり悪そうに頭を掻くリュカ様は気さくな方だから忘れてしまいそうになるけど、騎士団の小隊長を任されている方。本来ならしがない学生の私とは接点のない大人だから金銭感覚も違う。学生に不相応なアクセサリーは成人するまで日の目を見ることは無さそうだわ。
こうして魔法が使えない“ポンコツ魔法使い”と呼ばれていた事を忘れるくらい穏やかな日々は終わり学園に戻る日がやってきた。
「ソフィア様、これは?」
「ルナには有り余る魔力がある。じいさんがくれた逆鱗もあるんだ。装具や魔法補助具を作れば良いさ」
雪深い村ではこの時期はほぼ家に隠って、刺繍や編み物に工芸品や武器・装具を作ったりするらしい。何処の家でも一通り道具も揃っていて何でも出来ると言われたけど……
この本……教科書より分厚いですが、これを先ず読めと?読むだけで何日掛かるか分からない。それに急に装備とか補助具と言われても、何から手をつけて良いか思いつかなかった。
「どうせ外には出りゃしないんだ。ゆっくり読みな」
ソフィア様の言葉につられて自然と窓の外に視線を向けると、真っ白な雪だけの世界。雪の壁しか見えない中、リュカ様は二階の窓から外に出て素振りをしている。確かに私が外に出れば雪に埋まる姿しか想像できないしソフィア様の言う通りね。
そう考えた私は、暖炉の前の椅子に座り本を読み始め、ミューは足元で丸くなる。私が本を読み始めるとソフィア様はソファーに座り装具の点検を始めた。
本を読みながら、ゆったりとした時間が流れる日々。翁さんから貰った逆鱗は魔法補助の杖にする事に決めた。ソフィア様に何度も相談したり、リュカ様に意見を出して貰ったりしながらやっと杖が完成した時には、この村で過ごす時間も残り少なくなっていた。
「あと、二ヶ月で帰るのかぁ。早いですね」
「なに若い娘が年寄り臭いこと言ってんだい」
ソフィア様に呆れた表情で完成した杖をチェックしている。杖をそのまま持つと目立つから、ミューとお揃いの黒いリボンに銀のチャームが付いたチョーカーとして身に付けられる様にした。
「悪くないね。目立たないしミューと契約している目印にもなる」
「お洒落だな」
完成しチョーカーを眺めるリュカ様は、私の真後ろから覗き込んでいる。顔の真横にある顔に驚いて仰け反ると、ソフィア様がリュカ様に拳骨を落とした。
「女心の分からない脳筋は黙りな」
これも恒例となっているリュカ様へのダメ出し。距離感が可笑しいリュカ様は、ソフィア様に毎回拳骨を落とされている。時々、リュカ様が拳骨を避けるとソフィア様は更に怒って魔法で拘束してからのお説教になる。リュカ様は頭を押さえながらソフィア様のお叱りを黙って聞いているけど、男兄弟の中で育ったせいか本人の性格のせいか一向に治る気配はなくこの光景はまだまだ続きそう。
「ルナ嬢、すまなかった」
「謝罪は受け入れますが気をつけないと頭のたん瘤消えなくなりますよ」
「うっ……ぜ、善処する」
「善処じゃない止めろと言ってんだよ!本当に脳筋がぁ!!」
ゴンと豪快な音が部屋に響き再び頭を抑えて蹲るリュカ様を見てミューがクスクスと笑っている。涙目のリュカ様は不貞腐れた様子で部屋の角に置かれた椅子に座って、頭を冷やし始めた。リュカ様が余りにも痛そうで近づいて回復魔法をかけると、苦笑いしながらお礼を言った。
レア素材のドラゴンの逆鱗を使った杖のお陰で、攻撃魔法のコントロールも上達しダミー人形に必ず当たる様になった頃には雪も溶けて学園に戻るまで残り一週間。荷造りをしていると思っていたより小物が増えている事に気付いた。
帰る時に大変だからお兄様へのお土産以外、何も買わなかったはずなのにリュカ様から貰ったアクセサリーがこんなに増えているわ。……いくらお詫びだと言われても、これは貰い過ぎね。どうしたら止めてくれるかしら。そんな事を考えている時、ドアをノックする音が聞こえて返事をするとドアの隙間からリュカ様が顔を覗かせる。何故か部屋に入ろうとしない彼に首を傾げていると、ゆっくりとソフィア様に怒られた事を話し始めた。
「その……婆さんが物を贈り過ぎると相手は困るから止めろと……」
困った様な泣きそうな何とも情けない表情を浮かべるリュカ様は、私が困ってないか好みとかけ離れていないか気になってしまったらしく確認に来た様だ。私より歳上なのに叱られた子犬の様に見えてしまうから不思議。私が何も言わないから不安になったのかリュカ様の顔色が悪くなってしまった。
「そうですね。頂いた物は、やはり数が多いので今後は控えて頂けると助かります」
「いや、しかし何とお詫びしたら」
「お詫びなら“ごめんなさい”の一言で良いじゃないですか。それでも気になるのでしたら切り花を一輪下さい」
「一輪だけで良いのか?」
“一輪の花”と聞いて目を丸くするリュカ様はまるで少年の様に幼く見える。
「私を思って選んで下さった物ですから何でも良いんです。でも、これは金額的にも私の方が気になるので止めて欲しいです」
そう言ってアクセサリーが入った箱を指すと、改めてその数を見て贈った本人が黙り込んでいる。この顔は金額とか数とか考えていなかったわね。そりゃ、ソフィア様も怒るはずだわ。
「……あー、そこまで考えが及ばなかった」
決まり悪そうに頭を掻くリュカ様は気さくな方だから忘れてしまいそうになるけど、騎士団の小隊長を任されている方。本来ならしがない学生の私とは接点のない大人だから金銭感覚も違う。学生に不相応なアクセサリーは成人するまで日の目を見ることは無さそうだわ。
こうして魔法が使えない“ポンコツ魔法使い”と呼ばれていた事を忘れるくらい穏やかな日々は終わり学園に戻る日がやってきた。
14
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました
砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。
けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。
そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。
消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。
救国の聖女「エミヤ」の記憶を。
表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる