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龍人の村編
32 side サイオス
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日付が変わろうとしている真夜中。コスナー講師が置いて行った通信機から呼び出し音が鳴った。
『恐らく夜中になるでしょうがリュカから連絡が来ると思いますので質問に答えてやって頂けませんか?』
頭を過るのはコスナー講師が帰り際に残した言葉。講師の予言通りにフリューゲル隊長殿から連絡が来たようだ。
「はい」
通信開始のボタンを押し返事をすると、機械越しにフリューゲル隊長が神妙な面持ちで現れた。
『え⁉し、失礼した。アランが通信機を待っていると思っていたので』
「いえ、気にしないで頂きたい。コスナー講師が貴殿から質問が来るからと置いて行かれた」
『アイツは……確かにその通りなのだが、こんな夜中に申し訳ないが、今から時間を頂けるだろうか?』
講師では無かったことに動揺していたフリューゲル隊長は、私が了承すると安堵の表情を浮かべた後、ルナが体調を崩している事を教えてくれた。昼間の通信の際に言わなかったのもルナが家族に心配掛けたくないと言ったせいだろう。黙って聞いていると、妹の態度や言葉に違和感を感じている様だった。
『家族である貴殿にこんな質問は失礼だとは承知しているが、ルナ嬢は家族と折り合いが悪かったのだろうか?』
「その質問の意図を教えて頂きたい」
質問に質問で返してしまったが、何故、その疑問にたどり着いたのかが不思議だった私は答える前に尋ねた。
『先程、眠る直前に彼女が溢した言葉が気になった』
そう言って話し始めたのは先程まで夜中に目を覚ましていた妹と一緒にいたらしいフリューゲル隊長が聞いた言葉。眠りにつく直前に漏れた言葉は妹の隠された本音ではないかと言う。
『初めて気づいた様に聞こえたので』
フリューゲル隊長は言葉を選んで言っているが、要は妹に誰か付き添った事があるのかという事だろう。その疑問は他人から見れば当然か。幼い子供が泣いていれば付き添い、落ち着くまで傍に居るだろう。
「両親が妹に付き添った事は無い。元々、強い魔力のお陰で病気をすることは無かった上に、婚約が嫌で泣いていた時でさえ、私以外の人間は魔力の暴走を恐れて近づかなかった」
『暴走?そんな馬鹿な。呪具の作用で阻害されていたはずだ。前兆でもみられたのか?』
魔力の暴走には必ず前兆として魔力の放流が現れるが、それが現れたのは呪具を外した時の一回だけ。産まれて間もない時でさえ、魔力が漏れても暴走し周囲を巻き込んだ事は一度もない。
「いや、前兆など一切ない。妹にとって両親は近くにいる他人と変わらない。特に父は家族として認識すらしていないだろうな」
『家族ではないと?』
「あぁ、自分が一番の無能な父と口だけで何もしない母。私は二人を家族と認めないし妹も無意識だが距離を取っている」
『だから“納得出来ない”のか』
フリューゲル隊長は以前、妹から父の態度に納得出来ないと聞いていたようだ。その時は、親子喧嘩でもしたのかと聞き流していたと言うが、私からすれば警戒心の強い妹が出会って間もない人間にそこまで話したことが驚きだった。その後、週に一度、今日と同じ時間にお互いに状況を報告する約束を取り決めて通信を終えた。
日付が変わる頃、最後の書類に手を伸ばす。人生の中で一番厄介な“両親”というお荷物の監視をしている使用人からの報告書だが、今日の内容は私に隠れて外部と連絡を取り妹の養子手続きを取り消ししようとして使用人に見付かった様だ。
「今まで蔑ろにしておいてルナと一緒に暮らす事を諦めて無いだと……くそ親が」
グシャッと音を立てて手の中の書類が潰れた事も気にせず、隣の部屋に控えている従者を呼び出した。間もなく部屋に来た従者にシワだらけの書類を渡し読むように促す。最初は怪訝な表情を浮かべていた従者も最後には呆れた表情に変わった。
「お二人はお嬢様に何をしたか自覚されていないようですね」
幼馴染でもある従者は両親が妹に何をしてきたか間近で見てきた一人だ。妹の話しも聞かず自由を奪った父と、嘆きの言葉を掛けるだけで寄り添うことのない母。そして、そんな妹を助ける事が出来なかった私の後悔も……
「親子だからで許される範囲を超えている事にも気づいていないだろうな」
「虐待でお二人から引き離す事は出来ないのでしょうか」
「虐待や育児放棄と呼ぶには弱い。衣食住はしっかりしていたし教育もしている。ただ、妹の意見を聞かず無視した。それだけと捉えられる」
「しかし、その無視がお嬢様を追い詰めた原因ではないですか」
従者の言う通りだ。幼く甘えたい年頃の子供が両親から無視される事は心に深い傷を負う。だが貴族のしかも魔力の強い子供。世間では両親に同情的だ。暴走の危険があるが隔離もせず自宅で学ばせただけで“立派な親”とはヘドが出る。この手は使いたくは無かったが仕方がない。
「侯爵家がルナにした仕打ちと呪具の存在。それに気付かなかった間抜けな両親として公式に発表する」
「良いのですか⁉そんな事をすればお嬢様の魔力が更に強くなった事も公になりますよ!」
「大魔法使い様の養子になった今なら安全だ。逆に今しか無い。ルナが学園に戻る前に全てを終わらせる」
妹の安全を考えて公表していなかったが、これ以上、魔力の事を隠していても仕方がない。元々、目立っていたが呪具の影響を加味すれば、間違いなく問合せが殺到するだろう。だが、公表する事で両親の立場は“子供を取られた親”から“呪具に気づかなかった無能な親”に変わる。これ以上、妹を傷つけるなら……
徹底的に叩き潰す
『恐らく夜中になるでしょうがリュカから連絡が来ると思いますので質問に答えてやって頂けませんか?』
頭を過るのはコスナー講師が帰り際に残した言葉。講師の予言通りにフリューゲル隊長殿から連絡が来たようだ。
「はい」
通信開始のボタンを押し返事をすると、機械越しにフリューゲル隊長が神妙な面持ちで現れた。
『え⁉し、失礼した。アランが通信機を待っていると思っていたので』
「いえ、気にしないで頂きたい。コスナー講師が貴殿から質問が来るからと置いて行かれた」
『アイツは……確かにその通りなのだが、こんな夜中に申し訳ないが、今から時間を頂けるだろうか?』
講師では無かったことに動揺していたフリューゲル隊長は、私が了承すると安堵の表情を浮かべた後、ルナが体調を崩している事を教えてくれた。昼間の通信の際に言わなかったのもルナが家族に心配掛けたくないと言ったせいだろう。黙って聞いていると、妹の態度や言葉に違和感を感じている様だった。
『家族である貴殿にこんな質問は失礼だとは承知しているが、ルナ嬢は家族と折り合いが悪かったのだろうか?』
「その質問の意図を教えて頂きたい」
質問に質問で返してしまったが、何故、その疑問にたどり着いたのかが不思議だった私は答える前に尋ねた。
『先程、眠る直前に彼女が溢した言葉が気になった』
そう言って話し始めたのは先程まで夜中に目を覚ましていた妹と一緒にいたらしいフリューゲル隊長が聞いた言葉。眠りにつく直前に漏れた言葉は妹の隠された本音ではないかと言う。
『初めて気づいた様に聞こえたので』
フリューゲル隊長は言葉を選んで言っているが、要は妹に誰か付き添った事があるのかという事だろう。その疑問は他人から見れば当然か。幼い子供が泣いていれば付き添い、落ち着くまで傍に居るだろう。
「両親が妹に付き添った事は無い。元々、強い魔力のお陰で病気をすることは無かった上に、婚約が嫌で泣いていた時でさえ、私以外の人間は魔力の暴走を恐れて近づかなかった」
『暴走?そんな馬鹿な。呪具の作用で阻害されていたはずだ。前兆でもみられたのか?』
魔力の暴走には必ず前兆として魔力の放流が現れるが、それが現れたのは呪具を外した時の一回だけ。産まれて間もない時でさえ、魔力が漏れても暴走し周囲を巻き込んだ事は一度もない。
「いや、前兆など一切ない。妹にとって両親は近くにいる他人と変わらない。特に父は家族として認識すらしていないだろうな」
『家族ではないと?』
「あぁ、自分が一番の無能な父と口だけで何もしない母。私は二人を家族と認めないし妹も無意識だが距離を取っている」
『だから“納得出来ない”のか』
フリューゲル隊長は以前、妹から父の態度に納得出来ないと聞いていたようだ。その時は、親子喧嘩でもしたのかと聞き流していたと言うが、私からすれば警戒心の強い妹が出会って間もない人間にそこまで話したことが驚きだった。その後、週に一度、今日と同じ時間にお互いに状況を報告する約束を取り決めて通信を終えた。
日付が変わる頃、最後の書類に手を伸ばす。人生の中で一番厄介な“両親”というお荷物の監視をしている使用人からの報告書だが、今日の内容は私に隠れて外部と連絡を取り妹の養子手続きを取り消ししようとして使用人に見付かった様だ。
「今まで蔑ろにしておいてルナと一緒に暮らす事を諦めて無いだと……くそ親が」
グシャッと音を立てて手の中の書類が潰れた事も気にせず、隣の部屋に控えている従者を呼び出した。間もなく部屋に来た従者にシワだらけの書類を渡し読むように促す。最初は怪訝な表情を浮かべていた従者も最後には呆れた表情に変わった。
「お二人はお嬢様に何をしたか自覚されていないようですね」
幼馴染でもある従者は両親が妹に何をしてきたか間近で見てきた一人だ。妹の話しも聞かず自由を奪った父と、嘆きの言葉を掛けるだけで寄り添うことのない母。そして、そんな妹を助ける事が出来なかった私の後悔も……
「親子だからで許される範囲を超えている事にも気づいていないだろうな」
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「虐待や育児放棄と呼ぶには弱い。衣食住はしっかりしていたし教育もしている。ただ、妹の意見を聞かず無視した。それだけと捉えられる」
「しかし、その無視がお嬢様を追い詰めた原因ではないですか」
従者の言う通りだ。幼く甘えたい年頃の子供が両親から無視される事は心に深い傷を負う。だが貴族のしかも魔力の強い子供。世間では両親に同情的だ。暴走の危険があるが隔離もせず自宅で学ばせただけで“立派な親”とはヘドが出る。この手は使いたくは無かったが仕方がない。
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「大魔法使い様の養子になった今なら安全だ。逆に今しか無い。ルナが学園に戻る前に全てを終わらせる」
妹の安全を考えて公表していなかったが、これ以上、魔力の事を隠していても仕方がない。元々、目立っていたが呪具の影響を加味すれば、間違いなく問合せが殺到するだろう。だが、公表する事で両親の立場は“子供を取られた親”から“呪具に気づかなかった無能な親”に変わる。これ以上、妹を傷つけるなら……
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