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龍人の村編
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私が次に目を覚ましたのは夜中だった。暗い部屋の中で暖炉の炎が部屋の中を照らしていた。夕食を食べずに寝てたから、誰か様子を見に来てに薪を追加したのかな。
変な時間に起きたせいか眠気が全く来なくて寝ているのにも飽きた私は、ドラゴンちゃんを起こさない様に静かにベッドから出ると暖炉の前に敷かれたラグの上に座り炎が放つ光をボンヤリと眺めながら息を吐いた。
「私の体……本当にどうしたんだろう」
今まで健康で風邪で寝込んだ事など一度も無い私は、体調不良の時にどうしていいか分からない。そんな情けない自分に落ち込んでいると、小さなノックの音の後、静かにドアが動くのを返事もせずに眺めていた。
「……⁉ルナ嬢、起きていたのか」
静かに入ってきたのはリュカ様だった。頭を掻きながら暖炉に近づくと、追加の薪を近くに置いてくれた。
「……暖炉ありがとうございます」
「女性の部屋に勝手に入って申し訳ない。婆さんは一度寝ると中々起きなくてな」
そう言って頭を下げるリュカ様を見て申し訳なく思い首を横に振ると、彼は何故か私の横に並んで座った。
「寝れないなら付き合う。一人で考えると碌な事にならないからな」
「自分の体験ですか」
染々とした感情が言葉の端々に浮かんでいる気がして尋ねると、小さく笑ったリュカ様は暖炉に視線を向けたまま話し始めた。
「ああ、考えすぎてヤケを起こして、その後、婆さんにシバカれるはケビン団長から扱かれるは最悪だった」
「……何をしたらそんな事になったんですか?」
「俺は婆さんに魔法を教わったが才能が無くてな、解析や追跡といった補助魔法は使えるが他は全く駄目だった」
初めて知る重大な事実に、ボンヤリと聞いていた私は鈍器で頭を殴られた様な衝撃を受けた。驚いてリュカ様の顔に視線を向けると、彼は小さく息を吐いて頭を掻いている。他は駄目って、え?どういう事?
「驚いた?」
力なく笑うリュカ様に向かって、私は頷く事しか出来ない。何の躊躇いもなく話すけど内容は重い。魔力が強いだけでも周囲の期待は大きいのに大魔法使いの孫で魔力も強いなら、その期待は私以上に大きかったはず。他の魔法が使えないなんて……でも、呪具に直ぐ気付いたのに。
「でも、私が魔法が使えなかった原因を直ぐに気づいたじゃないですか」
「しかし、呪具を外す事は出来ない」
「それは経験や知識の問題ではないのですか?」
リュカ様がゆっくりと首を横に振って否定する。魔力はあるけど魔法として発動したり、装具に魔力を込めるといった細かいことは苦手だという。
「魔力の強さでいえばケビン団長と同じくらいなんだが、小さい頃から剣を振り回している方が楽しかった」
そう言って話し始めたのは、中級以上の魔法は何度習っても魔法陣が完成出来なかった事。入団したばかりなのにケビン団長やソフィア様と訓練する姿に、特別扱いだと嫉妬した魔法師団の団員から陰口を叩かれ嫌がらせもあったらしい。
「“騎士へ転向する”誰かに相談すれば簡単な事が一人で考えると気付かなくて、苛立ち紛れに放った魔法を暴発させて人を傷付けてしまったんだ」
城の魔法師団の訓練場で指導を受けていたリュカ様は、周囲からのヤジにカッとなって魔法陣に魔力を流し過ぎて暴発させて近くにいた人が爆風で飛ばされて怪我した。
「幸い軽い打撲や擦り傷ですんだんだが、不甲斐ない俺は二人から説教されてクタクタになるまで訓練させられたんだ」
二人がかりでと聞いて想像してみる。静かに怒るソフィア様だけでも怖いのにケビン団長が加われば、間違いなくボロボロになる姿しか思い浮かばなかった。
「ケビン団長は、まだ小隊長だったが次期団長候補だったし、婆さんは現役だったから包帯だらけになったな」
「手加減なしですか」
「全くなし。俺が立てなくなってから婆さんが騎士団団長を呼んで俺を預けた。団長が拾ってくれなかったら今頃、闇に呑まれていたかもしれないな」
“闇に呑まれる”
リュカ様は軽く言っているけど、魔力の強い人は誰しも可能性を持っている。私も学園で危険視されていたし、ソフィア様の元への弟子入りも闇に呑まれる事を阻止する為だと個人的に考えている。こんなにも身近な所で話しを聞くと考えていなかった私は、言葉に詰まり呆然と彼の顔を見詰めるしか出来なかった。
「持て余す魔力は剣技と合わせた攻撃や防御で使える様になったし、ネグルの食事にもなる。やっと魔力があって良かったと思える様になれた」
魔力があって良かった……私もそんな風に心から思える日が来るのかな。
そのまま少し話しをした後、促されベッドに入ると、リュカ様は眠り就くまで傍にいると言って小さな椅子に座った。
「お休み」
少し不安だった私はその提案を素直に受け入れ目を閉じた。そういえば誰かに付き添われて眠るのは久しぶりだわ。確か婚約が嫌で私が泣いた時、お兄様がずっと傍で何も言わずに寄り添ってくれた時以来だわ。両親も使用人も魔力が暴走する事を恐れて私の傍に来なくて……
……誰かが傍にいるって……安心……す……る……のね
変な時間に起きたせいか眠気が全く来なくて寝ているのにも飽きた私は、ドラゴンちゃんを起こさない様に静かにベッドから出ると暖炉の前に敷かれたラグの上に座り炎が放つ光をボンヤリと眺めながら息を吐いた。
「私の体……本当にどうしたんだろう」
今まで健康で風邪で寝込んだ事など一度も無い私は、体調不良の時にどうしていいか分からない。そんな情けない自分に落ち込んでいると、小さなノックの音の後、静かにドアが動くのを返事もせずに眺めていた。
「……⁉ルナ嬢、起きていたのか」
静かに入ってきたのはリュカ様だった。頭を掻きながら暖炉に近づくと、追加の薪を近くに置いてくれた。
「……暖炉ありがとうございます」
「女性の部屋に勝手に入って申し訳ない。婆さんは一度寝ると中々起きなくてな」
そう言って頭を下げるリュカ様を見て申し訳なく思い首を横に振ると、彼は何故か私の横に並んで座った。
「寝れないなら付き合う。一人で考えると碌な事にならないからな」
「自分の体験ですか」
染々とした感情が言葉の端々に浮かんでいる気がして尋ねると、小さく笑ったリュカ様は暖炉に視線を向けたまま話し始めた。
「ああ、考えすぎてヤケを起こして、その後、婆さんにシバカれるはケビン団長から扱かれるは最悪だった」
「……何をしたらそんな事になったんですか?」
「俺は婆さんに魔法を教わったが才能が無くてな、解析や追跡といった補助魔法は使えるが他は全く駄目だった」
初めて知る重大な事実に、ボンヤリと聞いていた私は鈍器で頭を殴られた様な衝撃を受けた。驚いてリュカ様の顔に視線を向けると、彼は小さく息を吐いて頭を掻いている。他は駄目って、え?どういう事?
「驚いた?」
力なく笑うリュカ様に向かって、私は頷く事しか出来ない。何の躊躇いもなく話すけど内容は重い。魔力が強いだけでも周囲の期待は大きいのに大魔法使いの孫で魔力も強いなら、その期待は私以上に大きかったはず。他の魔法が使えないなんて……でも、呪具に直ぐ気付いたのに。
「でも、私が魔法が使えなかった原因を直ぐに気づいたじゃないですか」
「しかし、呪具を外す事は出来ない」
「それは経験や知識の問題ではないのですか?」
リュカ様がゆっくりと首を横に振って否定する。魔力はあるけど魔法として発動したり、装具に魔力を込めるといった細かいことは苦手だという。
「魔力の強さでいえばケビン団長と同じくらいなんだが、小さい頃から剣を振り回している方が楽しかった」
そう言って話し始めたのは、中級以上の魔法は何度習っても魔法陣が完成出来なかった事。入団したばかりなのにケビン団長やソフィア様と訓練する姿に、特別扱いだと嫉妬した魔法師団の団員から陰口を叩かれ嫌がらせもあったらしい。
「“騎士へ転向する”誰かに相談すれば簡単な事が一人で考えると気付かなくて、苛立ち紛れに放った魔法を暴発させて人を傷付けてしまったんだ」
城の魔法師団の訓練場で指導を受けていたリュカ様は、周囲からのヤジにカッとなって魔法陣に魔力を流し過ぎて暴発させて近くにいた人が爆風で飛ばされて怪我した。
「幸い軽い打撲や擦り傷ですんだんだが、不甲斐ない俺は二人から説教されてクタクタになるまで訓練させられたんだ」
二人がかりでと聞いて想像してみる。静かに怒るソフィア様だけでも怖いのにケビン団長が加われば、間違いなくボロボロになる姿しか思い浮かばなかった。
「ケビン団長は、まだ小隊長だったが次期団長候補だったし、婆さんは現役だったから包帯だらけになったな」
「手加減なしですか」
「全くなし。俺が立てなくなってから婆さんが騎士団団長を呼んで俺を預けた。団長が拾ってくれなかったら今頃、闇に呑まれていたかもしれないな」
“闇に呑まれる”
リュカ様は軽く言っているけど、魔力の強い人は誰しも可能性を持っている。私も学園で危険視されていたし、ソフィア様の元への弟子入りも闇に呑まれる事を阻止する為だと個人的に考えている。こんなにも身近な所で話しを聞くと考えていなかった私は、言葉に詰まり呆然と彼の顔を見詰めるしか出来なかった。
「持て余す魔力は剣技と合わせた攻撃や防御で使える様になったし、ネグルの食事にもなる。やっと魔力があって良かったと思える様になれた」
魔力があって良かった……私もそんな風に心から思える日が来るのかな。
そのまま少し話しをした後、促されベッドに入ると、リュカ様は眠り就くまで傍にいると言って小さな椅子に座った。
「お休み」
少し不安だった私はその提案を素直に受け入れ目を閉じた。そういえば誰かに付き添われて眠るのは久しぶりだわ。確か婚約が嫌で私が泣いた時、お兄様がずっと傍で何も言わずに寄り添ってくれた時以来だわ。両親も使用人も魔力が暴走する事を恐れて私の傍に来なくて……
……誰かが傍にいるって……安心……す……る……のね
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