上 下
45 / 91
龍人の村編

30

しおりを挟む
 養子縁組も終わり家も決まった。後は、この子と契約するだけだけど………

「まだ体調が安定していないね」

 大きな魔法を使った反動で自分の魔力に酔ってしまった私は現在、二日酔い状態。お酒を飲んだ事がないから分からないけど、眩暈と吐き気が続いていてソフィア様から許可が出ていない。

「魔力は回復しているから、明日には大丈夫だろう」

「はぁ……お酒を飲むとこんな感じになるなら飲みたくないですね」

 思わず漏れた愚痴にリュカ様が目を丸くして私を見た。何ですか。私は未成年ですからお酒は飲みませんよ。

「今の言い方は飲んだ事が無いのか?」

「まだ未成年ですから。来年にならないと飲めません」

 素直に答えれば何故かリュカ様が青ざめた表情になる。そんな姿を見てソフィア様は背中を丸めて笑っているし、リュカ様は話さないから私は何に驚いているのか理解出来ずに首を傾げた。

「あの何か問題でも?」

「未成年……学園への入学は十六、成人してからじゃないのか?」

「魔力が強いので十三で入学してます。実技試験に合格すれば卒業なんです」

「卒業って普通なら四・五年掛かるはず」

 普通ならそうらしい。私は父が入学前から勉強漬けにしたのもあって座学は問題なかったけど、実技の方が全く出来なくて卒業出来ずにいるだけ。あら?アラン先生から何も聞いてなかったのかしら。
 リュカ様の態度を見て首を傾げていると、ソフィア様は呆然としているリュカ様の肩をポンッと叩くと、押し退ける様に移動させて私の目の前に顔を出した。リュカ様は何に驚いているのかしら?それにソフィア様は一人、楽しそうなんだけど。

「サイオスの歳は?」

「二十三です」

「リュカより歳下なのに、うちの脳筋とは大違いだねぇ。ルナ、うちの馬鹿の事は気にしなくて良い。今日はこのまま休んで明日しよう」

 ソフィア様の言葉を聞いて頷くと、私はドラゴンちゃんと一緒に部屋に戻った。あら?また脳筋って言ってたけど、あれってリュカ様の事だったのね。そんな事を考えながら階段を登っただけで私は息が切れた。部屋のベッドに腰掛けると、ゆっくりと息を吐き出し呼吸を整える。
 はあ、ソフィア様を疑う訳じゃないけど、魔力酔い以外にも何かあるんじゃないかと心配になってきたわ。呪具が壊れてから自分の体調がおかしいわ。

「キュー」

「心配かけてごめんね。明日には元気になるからね」

「キュ‼」

 私の言葉に元気よく返事をするドラゴンちゃんの頭を撫でると嬉しそうに目を細めた後、ネグルが谷から持って来てくれた魔結晶をボリボリと噛り飲み込んでいた。契約して私が魔力をあげれば魔結晶も少しですむし成長も進むと聞いたけど、こんなに不安定な魔力で大丈夫かしら……何だか心配になってきたわ。ソフィア様も翁さんも契約する事で逆に安定するって言うけど……

「そう言えば」

 グルグルと考え込んでいたら翁さんに渡された逆鱗の事を思い出した。確か魔力のコントロールに役立つって言われたけどどうやって使うのか聞いていなかったわ。装飾品に嵌めるのかしら。それとも別の方法があるの?自分の手首に着けている腕輪を眺めながら、取り留めもなく考えていると腕輪の内側に小さいけど透明な石が嵌められていることに初めて気付いた。
 何の石かな?初めて見るわ。小さいし透明過ぎて今まで気付かなかった。角度を変えると見えなくなる謎の石を暫く眺めていたけど、体が重くなってベッドに横になった。
 横にはなったけど寝る気になれなくて、腕輪の石にもう一度視線を向けた。装具の勉強は少ししかしていないから分からないけど、雪が溶けるまで外で魔法の練習も出来ないし、先ずは教科書の復習から始めようかな。
 ズキズキと痛み始めた頭に、ため息を吐くとドラゴンちゃんが心配しているのか顔を覗き込んでくる。

「大丈夫よ」

 ドラゴンちゃんに安心して欲しくて、そう言って頭を撫でると私の額をペロッと一舐めする。冷たい感触の後、不思議と痛みが消えて急に眠気がやってきた。
 眠気に逆らわず目を閉じて暫くすると、ベッドの端に誰かが座った振動を感じた。誰が来たのか確認したくても眠気に勝てず目が開かない。部屋に入ってきた人物は私の頭を撫でると静かに部屋を出て行った。


 誰の手か分からなかったけど、その手の暖かさに安心した私はそのまま意識を手放した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
恋愛
【第一部完結】  婚約者を邪険に思う王太子が、婚約者の功績も知らずに婚約破棄を告げ、記憶も魔力も全て奪って捨て去って――。  ハイスぺのワケあり王子が、何も知らずに片想いの相手を拾ってきたのに、彼女の正体に気づかずに――。 ▲以上、短いあらすじです。以下、長いあらすじ▼  膨大な魔力と光魔法の加護を持つルダイラ王国の公爵家令嬢ジュディット。彼女には、婚約者であるフィリベールと妹のリナがいる。  妹のリナが王太子と父親を唆し、ジュディットは王太子から婚約破棄を告げられた。  しかし、王太子の婚約は、陛下がまとめた縁談である。  ジュディットをそのまま捨てるだけでは都合が悪い。そこで、王族だけに受け継がれる闇魔法でジュディットの記憶と魔力を封印し、捨てることを思いつく――。  山道に捨てられ、自分に関する記憶も、魔力も、お金も、荷物も持たない、【ないない尽くしのジュディット】が出会ったのは、【ワケありな事情を抱えるアンドレ】だ。  ジュディットは持っていたハンカチの刺繍を元に『ジュディ』と名乗りアンドレと新たな生活を始める。  一方のアンドレは、ジュディのことを自分を害する暗殺者だと信じ込み、彼女に冷たい態度を取ってしまう。  だが、何故か最後まで冷たく仕切れない。  ジュディは送り込まれた刺客だと理解したうえでも彼女に惹かれ、不器用なアプローチをかける。  そんなジュディとアンドレの関係に少しづつ変化が見えてきた矢先。  全てを奪ってから捨てた元婚約者の功績に気づき、焦る王太子がジュディットを連れ戻そうと押しかけてきて――。  ワケあり王子が、叶わない恋と諦めていた【幻の聖女】その正体は、まさかのジュディだったのだ!  ジュディは自分を害する刺客ではないと気づいたアンフレッド殿下の溺愛が止まらない――。 「王太子殿下との婚約が白紙になって目の前に現れたんですから……縛り付けてでも僕のものにして逃がしませんよ」  嫉妬心剥き出しの、逆シンデレラストーリー開幕! 本作は、小説家になろう様とカクヨム様にて先行投稿を行っています。

これは一周目です。二周目はありません。

基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。 もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。 そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

処理中です...