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龍人の村編
25 side リュカ
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「そこに寝かせとくれ」
婆さんに言われるがまま、ソファーにルナ嬢を寝かせると何故か拡大鏡を目に嵌めて彼女の左手を調べ始めた。こうなると納得いくまで話さない。黙って成り行きを見守っていると、深いため息とともにルナ嬢の手を放した後、拡大鏡を外した。
「リュカ、お前がルナに付添えるのは、あとどれくらい残ってんだい?」
「学園に戻るまでと言われた」
「そうかい……これから話すことはこの娘には言うんじゃないよ」
そう釘を指した婆さんは椅子に座ると、翁との話やルナ嬢の手に残る呪具の痕について話し始めた。婆さんが拡大鏡で調べていたのも、翁の言っていた魔女が使う”蔦の魔法陣”なのか確認していたという。
「じぃさんの言ってた通りだよ。蔦が絡んだ様な模様がはっきり見えたよ」
「じゃあ彼女は魔女に狙われているのか?」
「それは分からんよ。だが魔女の陣があるのは間違いない」
「陛下に」
「言ってどうすんだい」
婆さんに指摘されて黙るしかない。陛下に言って付き添うにも理由と証拠がいる。彼女の指に陣が刻まれているからと言っても、魔女の目的も陣が危険なのかも分からない以上何も出来ない。
「心配なら冷静におなり。このバカが」
言い返す言葉も見つからず押黙ると、ため息を吐いた婆さんがこれからの計画を話し出した。それは表向きはドラゴンの保護を理由に、暫くルナ嬢と暮らして魔女の動向を探り危険を排除するというもの。しかも、俺達が狩りに出ている間に、陛下とルナ嬢の親に許可を取ったのだから何も言えない。更にケビン団長やアランにも連絡済みなのだから質が悪い。
「決定事項かよ」
「そうさ。お前たちだけに任せちゃおけないからね。私はね、今度こそ終わりにしたいんだよ」
「終わり?」
「あぁ、魔女を止めるんだ。もう、ルナみたいな娘を出したくない」
婆さんの気持ちも分かるが、ルナ嬢本人に何も言わないことに違和感を覚えた。後から知れば傷つく気がして素直に聞けば婆さんは呆れた顔になった。
「お前は分かっちゃいないね。魔女に狙われている知ればこの娘は一人で立ち向かおうとするだろうよ」
「そんな無茶な」
「無茶・無謀と分かっていても、迷惑を掛けたくないと言って出ていくさ」
婆さんの言葉にハッとした。そうだった。彼女は未だに他人に頼ろうとしない。ここでの共同生活も半年たった今でも見えない壁は無くなっていない。
「脳筋が。やっとこさ気づいたかい」
「……脳筋って言うな」
「じゃあ、バカだね」
そう言った婆さんは陛下に頼んで学園近くに一軒家を探しているらしい。その意図が分からずにいると、残念な物を見るような視線を向けてきた。
「一軒家ならお前たちも泊まりに来れるだろう。騎士団の仕事をしながらでもあの娘を守ることは出来るんだよ」
「それは……無理があるだろう。家族でも婚約者でもない他人だぞ」
「私の孫じゃないか」
「貴族の世界じゃ通用しない」
婆さんの言いたいことは理解した。理解はしても同意は出来ない。俺は……
「彼女をこれ以上傷つけたくはないんだ」
そう彼女の心も体も守りたい。婆さんの計画ではルナ嬢の貴族の矜持を傷つけてしまう。只でさえあの大舞踏会での婚約破棄で傷ついたはずなのに、有らぬ噂で彼女を追い詰める様な真似だけはしたくない。何か理由があれば……
「だからドラゴンの護衛なんだよ」
「だから、それだけじゃ理由としては弱いだろう」
「お前は本当にバカだね。あのドラゴンの属性は何だい」
「属性って、無属性だろう」
「ドラゴンの血を飲むと不老不死になるとか龍人と同じ力が手に入る。そんな噂を知ってるかい?」
「あぁ、どれも根拠のないくだらない噂だろう」
「そうさ根拠のない噂だよ。その噂の元が無属性ドラゴンの血なんだ」
婆さんの言葉の意味を理解するまでに数秒。そんな危険な事実に開いた口が塞がらない。
「あのオチビちゃんの存在が表に出れば大事になる。私が護衛に付く事もお前たちが家に泊まり込む事も簡単に許可が下りたんだよ」
基本的に騎士団に従事している者は、緊急時に即座に対応する為に寮生活になっている。既婚者や貴族で家の仕事もある者は申請すれば毎日家に帰れるが、独身者は特殊任務で無い限り寮生活が暗黙の了解だ。
「それでも不満が出るだろう」
寮に居れば三食ついて洗濯や部屋の掃除もある程度して貰えて楽な分、規律や隣人とのトラブルもあり、それなりにストレスも溜まる。いくら龍人だからと言っても……
「一般の団員が私と一緒に戦えるかい?」
「婆さん、無茶言うなよ。団員を殺す気か?」
婆さんの言葉に即答すると、ニヤリと悪どい笑みを浮かべた。婆さんがこの顔をする時は録な事が無い。あー嫌な予感がする。
「そうさ、団員の方が堪えられないんだよ。お前たち以外に誰が一緒に護衛出来る」
「だが殆んどの団員はそれを知らないぞ」
「城で訓練すれば一発で黙るね」
あぁ、やっぱり録な事が無い。しかも婆さん、本気でヤルつもりだな。周囲を巻き込まなきゃ良いが……それは無理か。
どこか楽しげな婆さんの姿に思わずため息を漏らすと、また悪どい笑みを浮かべていた。はぁー、城に戻ってからが恐ろしい。
婆さんに言われるがまま、ソファーにルナ嬢を寝かせると何故か拡大鏡を目に嵌めて彼女の左手を調べ始めた。こうなると納得いくまで話さない。黙って成り行きを見守っていると、深いため息とともにルナ嬢の手を放した後、拡大鏡を外した。
「リュカ、お前がルナに付添えるのは、あとどれくらい残ってんだい?」
「学園に戻るまでと言われた」
「そうかい……これから話すことはこの娘には言うんじゃないよ」
そう釘を指した婆さんは椅子に座ると、翁との話やルナ嬢の手に残る呪具の痕について話し始めた。婆さんが拡大鏡で調べていたのも、翁の言っていた魔女が使う”蔦の魔法陣”なのか確認していたという。
「じぃさんの言ってた通りだよ。蔦が絡んだ様な模様がはっきり見えたよ」
「じゃあ彼女は魔女に狙われているのか?」
「それは分からんよ。だが魔女の陣があるのは間違いない」
「陛下に」
「言ってどうすんだい」
婆さんに指摘されて黙るしかない。陛下に言って付き添うにも理由と証拠がいる。彼女の指に陣が刻まれているからと言っても、魔女の目的も陣が危険なのかも分からない以上何も出来ない。
「心配なら冷静におなり。このバカが」
言い返す言葉も見つからず押黙ると、ため息を吐いた婆さんがこれからの計画を話し出した。それは表向きはドラゴンの保護を理由に、暫くルナ嬢と暮らして魔女の動向を探り危険を排除するというもの。しかも、俺達が狩りに出ている間に、陛下とルナ嬢の親に許可を取ったのだから何も言えない。更にケビン団長やアランにも連絡済みなのだから質が悪い。
「決定事項かよ」
「そうさ。お前たちだけに任せちゃおけないからね。私はね、今度こそ終わりにしたいんだよ」
「終わり?」
「あぁ、魔女を止めるんだ。もう、ルナみたいな娘を出したくない」
婆さんの気持ちも分かるが、ルナ嬢本人に何も言わないことに違和感を覚えた。後から知れば傷つく気がして素直に聞けば婆さんは呆れた顔になった。
「お前は分かっちゃいないね。魔女に狙われている知ればこの娘は一人で立ち向かおうとするだろうよ」
「そんな無茶な」
「無茶・無謀と分かっていても、迷惑を掛けたくないと言って出ていくさ」
婆さんの言葉にハッとした。そうだった。彼女は未だに他人に頼ろうとしない。ここでの共同生活も半年たった今でも見えない壁は無くなっていない。
「脳筋が。やっとこさ気づいたかい」
「……脳筋って言うな」
「じゃあ、バカだね」
そう言った婆さんは陛下に頼んで学園近くに一軒家を探しているらしい。その意図が分からずにいると、残念な物を見るような視線を向けてきた。
「一軒家ならお前たちも泊まりに来れるだろう。騎士団の仕事をしながらでもあの娘を守ることは出来るんだよ」
「それは……無理があるだろう。家族でも婚約者でもない他人だぞ」
「私の孫じゃないか」
「貴族の世界じゃ通用しない」
婆さんの言いたいことは理解した。理解はしても同意は出来ない。俺は……
「彼女をこれ以上傷つけたくはないんだ」
そう彼女の心も体も守りたい。婆さんの計画ではルナ嬢の貴族の矜持を傷つけてしまう。只でさえあの大舞踏会での婚約破棄で傷ついたはずなのに、有らぬ噂で彼女を追い詰める様な真似だけはしたくない。何か理由があれば……
「だからドラゴンの護衛なんだよ」
「だから、それだけじゃ理由としては弱いだろう」
「お前は本当にバカだね。あのドラゴンの属性は何だい」
「属性って、無属性だろう」
「ドラゴンの血を飲むと不老不死になるとか龍人と同じ力が手に入る。そんな噂を知ってるかい?」
「あぁ、どれも根拠のないくだらない噂だろう」
「そうさ根拠のない噂だよ。その噂の元が無属性ドラゴンの血なんだ」
婆さんの言葉の意味を理解するまでに数秒。そんな危険な事実に開いた口が塞がらない。
「あのオチビちゃんの存在が表に出れば大事になる。私が護衛に付く事もお前たちが家に泊まり込む事も簡単に許可が下りたんだよ」
基本的に騎士団に従事している者は、緊急時に即座に対応する為に寮生活になっている。既婚者や貴族で家の仕事もある者は申請すれば毎日家に帰れるが、独身者は特殊任務で無い限り寮生活が暗黙の了解だ。
「それでも不満が出るだろう」
寮に居れば三食ついて洗濯や部屋の掃除もある程度して貰えて楽な分、規律や隣人とのトラブルもあり、それなりにストレスも溜まる。いくら龍人だからと言っても……
「一般の団員が私と一緒に戦えるかい?」
「婆さん、無茶言うなよ。団員を殺す気か?」
婆さんの言葉に即答すると、ニヤリと悪どい笑みを浮かべた。婆さんがこの顔をする時は録な事が無い。あー嫌な予感がする。
「そうさ、団員の方が堪えられないんだよ。お前たち以外に誰が一緒に護衛出来る」
「だが殆んどの団員はそれを知らないぞ」
「城で訓練すれば一発で黙るね」
あぁ、やっぱり録な事が無い。しかも婆さん、本気でヤルつもりだな。周囲を巻き込まなきゃ良いが……それは無理か。
どこか楽しげな婆さんの姿に思わずため息を漏らすと、また悪どい笑みを浮かべていた。はぁー、城に戻ってからが恐ろしい。
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