婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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龍人の村編

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 ドラゴンちゃんが目を覚ました後、リュカ様と三人で狩りに来たのは良いけど……

「魔法がまったく当たらない」

 動く物に魔法を当てるって、動きを予想したり魔法以外も気にしないといけないから集中力も続かない。魔法が発動しないで消えるか、獲物の横を通り過ぎたり届かなかったりして一度も当たっていなかった。
 結局、ドラゴンちゃんが氷のブレスで動きを止めてリュカ様が仕止めている。はぁ……魔法が発動しても命中率ゼロじゃ意味がないわ。

「ルナ嬢、疲れたのか?」

 自己嫌悪で俯いていた私を気遣う声に顔をあげると、いつもより一歩離れた場所から私の様子を伺うリュカ様がいる。狩りに出る前、ソフィア様に散々叱られて反省した様子の彼は先ずは物理的に距離を置くことにしたらしい。

「いえ、大丈夫です。一度も攻撃が当たらないので何から修正しようか考えていました」

「何からか……」

 私の言葉を聞いてリュカ様も一緒に考えてくれるらしい。腕を組み少し上を見上げる仕草で考えていた彼は、何か思い付いたのかポンと手叩いた。

「自分に合ったタイミングの取り方を探すのはどうだろうか」

「タイミングを取るのは分かりますが、自分に合ったとは?」

「騎士でもそうなんだが、攻撃するーー剣を振るーーそのタイミングは人それぞれなんだ」

 そりゃ、そうでしょう。何を言っているのかしら?意味が分からないわ。

「相手の呼吸に合わせて剣を振る人もいれば、リズムに合わせ振る人もいる。中には全てカンで動く人もいるんだ」

「リズムや呼吸にカンですか……統一性はないのですね」

「相手から動きを読まれては不利になるからな」

「うーん、何となく分かったような分からないような」

 自分の動きを敵に分かりづらくしているのは理解出来たけど、魔法攻撃とどう組み合わせれば良いのか考えが纏まらない。参考になるかと思ってリュカ様の動きを少し離れて見ていたけど、何をどうして良いか全く分からないわ。



「風の刃」

 その後、何度か試した結果、風を使った魔法攻撃は範囲を絞って出来た。それでも結局、獲物に当たらず側の木を斬り倒し薪の材料を増やしただけだった。
 逃げる獲物の後ろ姿を見てため息が漏れる。魔法は発動するけど当たらなければ“使える”とは言えないわ。

「キュ」

 ドラゴンちゃんの鳴き声に顔をあげると、思わずため息を漏らした私の頬を舐めて慰めてくれている気がした。クリクリの赤い目は心配そうな視線を向けている。小さな頭を優しく撫でるとすり寄る様に押し付けてくる。可愛い仕草に癒されていると、急にドラゴンちゃんが顔を上げ森の木々の奥をジッと見つめ始めた。警戒するような姿に首を傾げていると、倒木を片付けていたリュカ様も私の側に来て柄に手を置いていた。

「どうしましたか?二人とも様子が変ですよ」

「……ルナ嬢、走れるか?」

「え?は、はい、大丈夫です」

 リュカ様の質問の意味も分からず答えていると、二人が見つめる木々の奥に動く影が見えた。

「……あれは魔物ですか?」

「恐らくワーウルフの群れだ。まだ、向こうは気づいていないが……数が多い」

 リュカ様の剣もドラゴンちゃんのブレスも届かない奥に動く魔物の群れは、十匹を超えて数えられない塊に見える。ソフィア様が教えてくれた魔力を目に集中させるだけの視力強化を試すと、黒い大きなワーウルフの群れの中に一際、大きな個体が見えた。

「群れの中に一匹だけ頭一つ分は大きい個体がいます」

「チッ。リーダーがいるのか。厄介だな」

 リュカ様が群れに視線を向けたまま小さな声で教えてくれたのは、リーダーがいる群れとただの群れとの違い。ただ集まっただけの群れは、攻撃がバラバラだから何とか倒せるらしい。ただ、リーダーがいると動きが違う。リーダーが指令を出し統率のある攻撃をするから厄介なんだとか。

「村から近い場所だし、ここで討伐したいが……」

 言葉を濁すリュカ様が判断に迷う理由は私だろうな。ドラゴンちゃんは飛んで逃げる事が出来るけど私は無理。走って逃げても統率力があるなら、弱い私から狙われる。どうせ狙われるなら、私から行っちゃえば良くない?

「ワーウルフの弱点は火ですよね?」

「あ?……あぁ、火と光に弱い」

 リュカ様に弱点を確認した私は学園でアラン先生と練習していた炎魔法が頭に浮かんだ。

“火炎竜”

 火炎で出来た異国の細い体のドラゴンが、敵の周囲を回りながら焼き尽くす火炎系最大魔法。火力の強さはお墨付きだけど、大きな欠点が一つ。竜の動きで術者の位置がバレる事。

「……群れを炎で囲って足止めしますから、後はお願いしますね」

「ルナ嬢、君は何を言っているんだ?」

「ドラゴンちゃん、ソフィア様に魔物の群れの事を伝えて欲しいの。出来る?」

「キュ!」

 ドラゴンちゃんは元気良く返事をすると村の方角へ飛んで行く。その姿を見送ると視線を魔物の群れに戻した。

「火炎竜をやります」

 ただその一言だけ言うと私は魔力に集中する。私の足元にオレンジ色の魔法陣が広がる。リュカ様が陣の外から何か言っているけど、炎の音に掻き消されて聞こえなかった。

「火炎竜!」

 私の体をすり抜ける様に炎が集まり竜へと姿を変える。異国の神の姿をとも言われている炎の竜が群れに向かって飛び出すと同時に、群れもこちらに気づいて攻撃態勢になった。


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