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龍人の村編
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翁さんの話を聞いてから私の卵に対する接し方が少しだけ変わった。魔力を送る時に話し掛けてみる事にしたの。女の子の声はたまに聞こえてくるけど、単に私が下手なのか会話が成立した事は、まだ一度もない。
あれから数ヶ月。ここに来た頃は初夏だったけど季節は移り秋の実りと朝晩の肌寒さを感じ始めた。
卵のドラゴンは順調に育って今は一日に四回くらい魔力を送るだけで大丈夫になっている。そして、魔法の練習も順調に進み最初に比べると、魔力過剰にはならなくなってきた。そんなある日の午後、私はソフィア様に呼ばれてソファーに座って話を待っていた。
「どれ、お茶も入った事だし話を始めようか」
そう言って始まった話は冬支度の事だった。この村は寒さが厳しくて秋の始まりと共に冬場の食料確保をするらしい。野菜は畑から取れば氷魔法で保存したり干すけど、肉や魚はそうはいかない。家畜を全て食料にする訳にもいかない為、この時期から狩りをして山から調達するらしい。そして、今年は私の分も増える訳で……
「私も狩りをするんですか?」
思わず聞き返した私に向かってソフィア様は、満面の笑みで大きく頷いた。え~、そんなはっきり頷きますか。
「攻撃魔法の訓練も兼ねて、リュカと一緒に行って来ておくれ。動くモノに当たらないと意味が無いからね」
ソフィア様の後ろに立つリュカ様に視線を向けると、苦笑いしながら頷いている。確かに実践的訓練になるけど、私の場合、やり過ぎてみじん切りになりそうな気がするけどね。実践あるのみって事ですね。
「分かりました」
「巻き込む危険かあるから卵は家に置いておきな」
「はい」
勿論、そうします。私の攻撃魔法の命中率は、はっきり言って低い。ソフィア様はかなり上達しと言ってくれるけど、私自身は全く自信も自覚も無いのよね。
その後、リュカ様と打ち合わせして今から行くと帰りが遅くなるから、明日の早朝に狩りに行くことに決まった。
夜、寝る前に窓から明日狩りに行く予定の外の森を眺める。明日、自分が生き物の命を奪うと考えると無意識に足元から震えがくる。気を紛らす為にベッドの横に置かれた籠の中に視線を向けると、卵が微かに揺れた気がした。あれ?魔力をあげた後だけど足りなかったのかな?
最近、卵に魔力を送る回数は減ったけど、一回の魔力量が増えて私の魔力の半分くらいなくなる時もある。魔力が減った方が魔法を使いやすいから丁度良いけど、狩りに行くって何時間くらい掛かるかな?
「ご飯が足りなかった?明日は、朝ごはんの後でリュカ様と狩りに行くんだよ。狩りなんてしたこと無いけど私に出来るかなぁ」
震える様に揺れる卵を撫でながら話し掛けていると、パリッと小さな音が聞こえた気がして部屋の中に視線を巡らせた。今、何かが割れた様な音に聞こえたけど……気のせい?
念のため卵の表面を隅々まで目で確認するけど、ひび割れなどの異常はなく安心すると急に眠気に襲われてそのままベッドに潜り込んだ。
「お休み、小さなドラゴンちゃん」
その一言を最後に意識は闇に溶けていく中で、また、パリッと割れる様な音が聞こえた気がした。
翌日、朝。目を覚ましたら枕の横にある白い塊に気付いて目を擦る。夕べは枕元に何もなかったはずなのそこには、小さな白いドラゴンが寝ていた。
「は?……え?え?」
言葉にならない声と寝起きで働かない頭。状況が飲み込めずに部屋の中に視線を巡らせてから、やっと籠に入れていた卵が割れている事に気付いた。
「あ……卵が割れてる」
私の声で目を覚ましたらしいドラゴンが私の顔をペロッと舐める。
「……ひぇ!ど、ドラゴンが孵ったぁぁぁ!?」
やっと現実と思考が追い付いた私は、まだ薄暗い中、大きな声で叫んでしまった。
その声が聞こえたらしい。ドアの向こう側からガタガタと音がしたかと思うと、リュカ様とソフィア様が慌てて入ってくる。
二人は私の横のドラゴンを見て一瞬、動きを止めた。
「……ドラゴンが孵った?」
リュカ様のポツリと漏れた言葉にドラゴンが反応してキューと小さく鳴く。泣きそうな私と目が点になって驚いているリュカ様をよそにソフィア様一人が冷静で静かにドラゴンに近づくと話し掛けた。
「あんた、この卵から孵った子かい?」
ソフィア様の言葉を理解しているのか、小さく鳴き声を上げる。ソフィア様が返事をしたドラゴンをそっと撫でると、手のひらの頭を擦りつける様にしてキュルルと鳴いている。
「どれ、先ずは着替えて、じいさんに連絡かね」
ソフィア様に促されたリュカ様が先に部屋を出る。残ったソフィア様が呆然としている私の目の前に顔を近づけた。
「ルナ、ルナ。起きたかい?あんた寝間着のままで話をするつもりかい?」
「へ?寝間着……!?」
「正気に戻ったね。ほら、着替えて下に降りといで」
ソフィア様は、私の思考がまともになった事を確認するとドラゴンを連れて部屋を出る。ドアが閉まると同時に私は布団に顔を埋めると、叫んでしまった事を後悔しながら支度を始めた。
あー、朝から叫ぶなんて恥ずかしい……
あれから数ヶ月。ここに来た頃は初夏だったけど季節は移り秋の実りと朝晩の肌寒さを感じ始めた。
卵のドラゴンは順調に育って今は一日に四回くらい魔力を送るだけで大丈夫になっている。そして、魔法の練習も順調に進み最初に比べると、魔力過剰にはならなくなってきた。そんなある日の午後、私はソフィア様に呼ばれてソファーに座って話を待っていた。
「どれ、お茶も入った事だし話を始めようか」
そう言って始まった話は冬支度の事だった。この村は寒さが厳しくて秋の始まりと共に冬場の食料確保をするらしい。野菜は畑から取れば氷魔法で保存したり干すけど、肉や魚はそうはいかない。家畜を全て食料にする訳にもいかない為、この時期から狩りをして山から調達するらしい。そして、今年は私の分も増える訳で……
「私も狩りをするんですか?」
思わず聞き返した私に向かってソフィア様は、満面の笑みで大きく頷いた。え~、そんなはっきり頷きますか。
「攻撃魔法の訓練も兼ねて、リュカと一緒に行って来ておくれ。動くモノに当たらないと意味が無いからね」
ソフィア様の後ろに立つリュカ様に視線を向けると、苦笑いしながら頷いている。確かに実践的訓練になるけど、私の場合、やり過ぎてみじん切りになりそうな気がするけどね。実践あるのみって事ですね。
「分かりました」
「巻き込む危険かあるから卵は家に置いておきな」
「はい」
勿論、そうします。私の攻撃魔法の命中率は、はっきり言って低い。ソフィア様はかなり上達しと言ってくれるけど、私自身は全く自信も自覚も無いのよね。
その後、リュカ様と打ち合わせして今から行くと帰りが遅くなるから、明日の早朝に狩りに行くことに決まった。
夜、寝る前に窓から明日狩りに行く予定の外の森を眺める。明日、自分が生き物の命を奪うと考えると無意識に足元から震えがくる。気を紛らす為にベッドの横に置かれた籠の中に視線を向けると、卵が微かに揺れた気がした。あれ?魔力をあげた後だけど足りなかったのかな?
最近、卵に魔力を送る回数は減ったけど、一回の魔力量が増えて私の魔力の半分くらいなくなる時もある。魔力が減った方が魔法を使いやすいから丁度良いけど、狩りに行くって何時間くらい掛かるかな?
「ご飯が足りなかった?明日は、朝ごはんの後でリュカ様と狩りに行くんだよ。狩りなんてしたこと無いけど私に出来るかなぁ」
震える様に揺れる卵を撫でながら話し掛けていると、パリッと小さな音が聞こえた気がして部屋の中に視線を巡らせた。今、何かが割れた様な音に聞こえたけど……気のせい?
念のため卵の表面を隅々まで目で確認するけど、ひび割れなどの異常はなく安心すると急に眠気に襲われてそのままベッドに潜り込んだ。
「お休み、小さなドラゴンちゃん」
その一言を最後に意識は闇に溶けていく中で、また、パリッと割れる様な音が聞こえた気がした。
翌日、朝。目を覚ましたら枕の横にある白い塊に気付いて目を擦る。夕べは枕元に何もなかったはずなのそこには、小さな白いドラゴンが寝ていた。
「は?……え?え?」
言葉にならない声と寝起きで働かない頭。状況が飲み込めずに部屋の中に視線を巡らせてから、やっと籠に入れていた卵が割れている事に気付いた。
「あ……卵が割れてる」
私の声で目を覚ましたらしいドラゴンが私の顔をペロッと舐める。
「……ひぇ!ど、ドラゴンが孵ったぁぁぁ!?」
やっと現実と思考が追い付いた私は、まだ薄暗い中、大きな声で叫んでしまった。
その声が聞こえたらしい。ドアの向こう側からガタガタと音がしたかと思うと、リュカ様とソフィア様が慌てて入ってくる。
二人は私の横のドラゴンを見て一瞬、動きを止めた。
「……ドラゴンが孵った?」
リュカ様のポツリと漏れた言葉にドラゴンが反応してキューと小さく鳴く。泣きそうな私と目が点になって驚いているリュカ様をよそにソフィア様一人が冷静で静かにドラゴンに近づくと話し掛けた。
「あんた、この卵から孵った子かい?」
ソフィア様の言葉を理解しているのか、小さく鳴き声を上げる。ソフィア様が返事をしたドラゴンをそっと撫でると、手のひらの頭を擦りつける様にしてキュルルと鳴いている。
「どれ、先ずは着替えて、じいさんに連絡かね」
ソフィア様に促されたリュカ様が先に部屋を出る。残ったソフィア様が呆然としている私の目の前に顔を近づけた。
「ルナ、ルナ。起きたかい?あんた寝間着のままで話をするつもりかい?」
「へ?寝間着……!?」
「正気に戻ったね。ほら、着替えて下に降りといで」
ソフィア様は、私の思考がまともになった事を確認するとドラゴンを連れて部屋を出る。ドアが閉まると同時に私は布団に顔を埋めると、叫んでしまった事を後悔しながら支度を始めた。
あー、朝から叫ぶなんて恥ずかしい……
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