35 / 91
龍人の村編
20
しおりを挟む
翁さんの話を聞いてから私の卵に対する接し方が少しだけ変わった。魔力を送る時に話し掛けてみる事にしたの。女の子の声はたまに聞こえてくるけど、単に私が下手なのか会話が成立した事は、まだ一度もない。
あれから数ヶ月。ここに来た頃は初夏だったけど季節は移り秋の実りと朝晩の肌寒さを感じ始めた。
卵のドラゴンは順調に育って今は一日に四回くらい魔力を送るだけで大丈夫になっている。そして、魔法の練習も順調に進み最初に比べると、魔力過剰にはならなくなってきた。そんなある日の午後、私はソフィア様に呼ばれてソファーに座って話を待っていた。
「どれ、お茶も入った事だし話を始めようか」
そう言って始まった話は冬支度の事だった。この村は寒さが厳しくて秋の始まりと共に冬場の食料確保をするらしい。野菜は畑から取れば氷魔法で保存したり干すけど、肉や魚はそうはいかない。家畜を全て食料にする訳にもいかない為、この時期から狩りをして山から調達するらしい。そして、今年は私の分も増える訳で……
「私も狩りをするんですか?」
思わず聞き返した私に向かってソフィア様は、満面の笑みで大きく頷いた。え~、そんなはっきり頷きますか。
「攻撃魔法の訓練も兼ねて、リュカと一緒に行って来ておくれ。動くモノに当たらないと意味が無いからね」
ソフィア様の後ろに立つリュカ様に視線を向けると、苦笑いしながら頷いている。確かに実践的訓練になるけど、私の場合、やり過ぎてみじん切りになりそうな気がするけどね。実践あるのみって事ですね。
「分かりました」
「巻き込む危険かあるから卵は家に置いておきな」
「はい」
勿論、そうします。私の攻撃魔法の命中率は、はっきり言って低い。ソフィア様はかなり上達しと言ってくれるけど、私自身は全く自信も自覚も無いのよね。
その後、リュカ様と打ち合わせして今から行くと帰りが遅くなるから、明日の早朝に狩りに行くことに決まった。
夜、寝る前に窓から明日狩りに行く予定の外の森を眺める。明日、自分が生き物の命を奪うと考えると無意識に足元から震えがくる。気を紛らす為にベッドの横に置かれた籠の中に視線を向けると、卵が微かに揺れた気がした。あれ?魔力をあげた後だけど足りなかったのかな?
最近、卵に魔力を送る回数は減ったけど、一回の魔力量が増えて私の魔力の半分くらいなくなる時もある。魔力が減った方が魔法を使いやすいから丁度良いけど、狩りに行くって何時間くらい掛かるかな?
「ご飯が足りなかった?明日は、朝ごはんの後でリュカ様と狩りに行くんだよ。狩りなんてしたこと無いけど私に出来るかなぁ」
震える様に揺れる卵を撫でながら話し掛けていると、パリッと小さな音が聞こえた気がして部屋の中に視線を巡らせた。今、何かが割れた様な音に聞こえたけど……気のせい?
念のため卵の表面を隅々まで目で確認するけど、ひび割れなどの異常はなく安心すると急に眠気に襲われてそのままベッドに潜り込んだ。
「お休み、小さなドラゴンちゃん」
その一言を最後に意識は闇に溶けていく中で、また、パリッと割れる様な音が聞こえた気がした。
翌日、朝。目を覚ましたら枕の横にある白い塊に気付いて目を擦る。夕べは枕元に何もなかったはずなのそこには、小さな白いドラゴンが寝ていた。
「は?……え?え?」
言葉にならない声と寝起きで働かない頭。状況が飲み込めずに部屋の中に視線を巡らせてから、やっと籠に入れていた卵が割れている事に気付いた。
「あ……卵が割れてる」
私の声で目を覚ましたらしいドラゴンが私の顔をペロッと舐める。
「……ひぇ!ど、ドラゴンが孵ったぁぁぁ!?」
やっと現実と思考が追い付いた私は、まだ薄暗い中、大きな声で叫んでしまった。
その声が聞こえたらしい。ドアの向こう側からガタガタと音がしたかと思うと、リュカ様とソフィア様が慌てて入ってくる。
二人は私の横のドラゴンを見て一瞬、動きを止めた。
「……ドラゴンが孵った?」
リュカ様のポツリと漏れた言葉にドラゴンが反応してキューと小さく鳴く。泣きそうな私と目が点になって驚いているリュカ様をよそにソフィア様一人が冷静で静かにドラゴンに近づくと話し掛けた。
「あんた、この卵から孵った子かい?」
ソフィア様の言葉を理解しているのか、小さく鳴き声を上げる。ソフィア様が返事をしたドラゴンをそっと撫でると、手のひらの頭を擦りつける様にしてキュルルと鳴いている。
「どれ、先ずは着替えて、じいさんに連絡かね」
ソフィア様に促されたリュカ様が先に部屋を出る。残ったソフィア様が呆然としている私の目の前に顔を近づけた。
「ルナ、ルナ。起きたかい?あんた寝間着のままで話をするつもりかい?」
「へ?寝間着……!?」
「正気に戻ったね。ほら、着替えて下に降りといで」
ソフィア様は、私の思考がまともになった事を確認するとドラゴンを連れて部屋を出る。ドアが閉まると同時に私は布団に顔を埋めると、叫んでしまった事を後悔しながら支度を始めた。
あー、朝から叫ぶなんて恥ずかしい……
あれから数ヶ月。ここに来た頃は初夏だったけど季節は移り秋の実りと朝晩の肌寒さを感じ始めた。
卵のドラゴンは順調に育って今は一日に四回くらい魔力を送るだけで大丈夫になっている。そして、魔法の練習も順調に進み最初に比べると、魔力過剰にはならなくなってきた。そんなある日の午後、私はソフィア様に呼ばれてソファーに座って話を待っていた。
「どれ、お茶も入った事だし話を始めようか」
そう言って始まった話は冬支度の事だった。この村は寒さが厳しくて秋の始まりと共に冬場の食料確保をするらしい。野菜は畑から取れば氷魔法で保存したり干すけど、肉や魚はそうはいかない。家畜を全て食料にする訳にもいかない為、この時期から狩りをして山から調達するらしい。そして、今年は私の分も増える訳で……
「私も狩りをするんですか?」
思わず聞き返した私に向かってソフィア様は、満面の笑みで大きく頷いた。え~、そんなはっきり頷きますか。
「攻撃魔法の訓練も兼ねて、リュカと一緒に行って来ておくれ。動くモノに当たらないと意味が無いからね」
ソフィア様の後ろに立つリュカ様に視線を向けると、苦笑いしながら頷いている。確かに実践的訓練になるけど、私の場合、やり過ぎてみじん切りになりそうな気がするけどね。実践あるのみって事ですね。
「分かりました」
「巻き込む危険かあるから卵は家に置いておきな」
「はい」
勿論、そうします。私の攻撃魔法の命中率は、はっきり言って低い。ソフィア様はかなり上達しと言ってくれるけど、私自身は全く自信も自覚も無いのよね。
その後、リュカ様と打ち合わせして今から行くと帰りが遅くなるから、明日の早朝に狩りに行くことに決まった。
夜、寝る前に窓から明日狩りに行く予定の外の森を眺める。明日、自分が生き物の命を奪うと考えると無意識に足元から震えがくる。気を紛らす為にベッドの横に置かれた籠の中に視線を向けると、卵が微かに揺れた気がした。あれ?魔力をあげた後だけど足りなかったのかな?
最近、卵に魔力を送る回数は減ったけど、一回の魔力量が増えて私の魔力の半分くらいなくなる時もある。魔力が減った方が魔法を使いやすいから丁度良いけど、狩りに行くって何時間くらい掛かるかな?
「ご飯が足りなかった?明日は、朝ごはんの後でリュカ様と狩りに行くんだよ。狩りなんてしたこと無いけど私に出来るかなぁ」
震える様に揺れる卵を撫でながら話し掛けていると、パリッと小さな音が聞こえた気がして部屋の中に視線を巡らせた。今、何かが割れた様な音に聞こえたけど……気のせい?
念のため卵の表面を隅々まで目で確認するけど、ひび割れなどの異常はなく安心すると急に眠気に襲われてそのままベッドに潜り込んだ。
「お休み、小さなドラゴンちゃん」
その一言を最後に意識は闇に溶けていく中で、また、パリッと割れる様な音が聞こえた気がした。
翌日、朝。目を覚ましたら枕の横にある白い塊に気付いて目を擦る。夕べは枕元に何もなかったはずなのそこには、小さな白いドラゴンが寝ていた。
「は?……え?え?」
言葉にならない声と寝起きで働かない頭。状況が飲み込めずに部屋の中に視線を巡らせてから、やっと籠に入れていた卵が割れている事に気付いた。
「あ……卵が割れてる」
私の声で目を覚ましたらしいドラゴンが私の顔をペロッと舐める。
「……ひぇ!ど、ドラゴンが孵ったぁぁぁ!?」
やっと現実と思考が追い付いた私は、まだ薄暗い中、大きな声で叫んでしまった。
その声が聞こえたらしい。ドアの向こう側からガタガタと音がしたかと思うと、リュカ様とソフィア様が慌てて入ってくる。
二人は私の横のドラゴンを見て一瞬、動きを止めた。
「……ドラゴンが孵った?」
リュカ様のポツリと漏れた言葉にドラゴンが反応してキューと小さく鳴く。泣きそうな私と目が点になって驚いているリュカ様をよそにソフィア様一人が冷静で静かにドラゴンに近づくと話し掛けた。
「あんた、この卵から孵った子かい?」
ソフィア様の言葉を理解しているのか、小さく鳴き声を上げる。ソフィア様が返事をしたドラゴンをそっと撫でると、手のひらの頭を擦りつける様にしてキュルルと鳴いている。
「どれ、先ずは着替えて、じいさんに連絡かね」
ソフィア様に促されたリュカ様が先に部屋を出る。残ったソフィア様が呆然としている私の目の前に顔を近づけた。
「ルナ、ルナ。起きたかい?あんた寝間着のままで話をするつもりかい?」
「へ?寝間着……!?」
「正気に戻ったね。ほら、着替えて下に降りといで」
ソフィア様は、私の思考がまともになった事を確認するとドラゴンを連れて部屋を出る。ドアが閉まると同時に私は布団に顔を埋めると、叫んでしまった事を後悔しながら支度を始めた。
あー、朝から叫ぶなんて恥ずかしい……
10
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました
砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。
けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。
そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。
消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。
救国の聖女「エミヤ」の記憶を。
表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる