婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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龍人の村編

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『どうして私だけ違うの?』

 頭の中に声が聞こえる。小さな女の子の様な声が一人で何か話しているけど、私は眠いせいか彼女の姿が見えなかった。

『みんな、どうして私を見て怯えるの?何も悪いことしてないのに!』

 女の子の叫びに近い声で目を覚ますと、ソフィア様の家の天井が見える。慌てて体を起こして回りを見ても、女の子の姿はなかった。

「あれ?」

「起きたかい」

 ポツリと漏れた私の声が聞こえたソフィア様が近づいて来るけど、頭の中にだけ女の子の声が響き二人の声を同時に聞いている様な感じになった。えー、何これ。聞き取りづらい~

「どうしたんだい?」

「ソフィア様、頭の中に女の子の声が聞こえます」

「女の子?うちの近くにはいないね。もしかしたら卵のドラゴンの声じゃないか」

 ドラゴンの声?しかも、卵の中のドラゴンって事は赤ちゃんよね?赤ちゃんに意識が……

「あー、自我がはっきりした卵だから意識っていうか感情があるかもって事ですか?」

「可能性はある。何を言っていたか聞き取れたかい?」

「あ、はい。何故、自分だけが違うのかとか悪いことしていないのに皆が怯えるとか」

「怯える?なんだいそりゃ」

 ソフィア様が眉を寄せて考えている間に、女の子の声は徐々に小さくなり聞こえなくなった。寝ちゃったのかな?

「谷でなんかあったのかね」

 独り言の様にポツリと漏れたソフィア様の言葉を聞いて、私は翁さんとの会話を思い返す。特に気になる事は言ってなかった様な……うん?逆に聞かされてない様な気もする。

「トラブルらしい事は聞いていませんが、翁さんに直接確認してみますか?」

 翁さんから貰った龍玉と逆鱗をポーチから取り出すと、ソフィア様の前に差し出した。

「は?翁はこんなモノまで準備していたのかい」

 ソフィア様は私の手の中の二つを呆れたような表情で見詰めた後、深いため息を吐き出した。ですよね~渡された私も引きました。

「レア過ぎて怖いですが連絡手段と、私の魔力コントロールにも役立つからと言って渡されました」

「まぁ、筋は通るが……怪しいねぇ」

 え?何が怪しいの?ソフィア様、お願いだから変な所で言葉を切らないで!この卵はいわく付きって事ですか!?

 私が頭の中でグルグルと悪い方向に考え込んでいると、龍玉を受け取ったソフィア様が聞き慣れない言葉を話ながら龍玉に魔力を流し始めた。

「∇Σ∬∬₩Ρ∌Π§」

 言葉が止まると龍玉全体が光り出す。その光りは、ゆっくりと天井に向かって束の様に集まると光りの中に翁さんの姿が現れた。凄い。目の前にいるみたいにはっきり見える。

「じいさん、起きてるかい」

『じいさんって、お前さんもばあさんじゃろうが』

「元気で何より。それでこの卵はなんだい」

『なんだいって無属のドラゴンじゃよ』

「そうじゃないって分かってんだろう?この卵に何があった」

 翁さんの返答に納得出来なかったソフィア様が間を置かずに突っ込む。ソフィア様の追及に少し黙った翁さんは、深いため息を吐くと重い口を開いた。

『その子は仲間に避けられておった』

 翁さんが語ったのは人の知らないドラゴンの中の言い伝え。
 滅多に産まれない無属性のドラゴンだけどゼロではない。ドラゴンが谷に移り住むよりずっと前にも、何度か産まれては育たず卵のまま亡くなっていた。

『仲間の魔力を拒否するのは無属の特徴らしい。無属故に属を持つ他の仲間と相容れないのだろう』

「それだけじゃないね」

『婆さんはせっかちじゃのう。そうじゃ、事が起きたのはこの谷に移ってからの事じゃ』

 谷にあった多くの魔結晶。その自然の力を吸収して育った無属性のドラゴンは産まれて直ぐに気付いた。

自分だけが違う異質な存在であり、両親すら近付かない事に…

『その子は孤独に堪えきれんかったのじゃろう。泣きながら言っておったそうじゃ。“どうして独りなのか”と』

「他のドラゴンと違うからかい?」

『それも一つ。そして、誰とも相容れない属である事もあったかもしれん』

 自分だけ違う属性。近付かない両親。見つからない番。幾つもの悪い事が重なったからなのか、ある日大きな叫び声と共に魔力を爆発させて消えてしまったという。

『その爆発で出来た穴がワシが今いる窟じゃと言われておる。その卵も再び爆発するかもと、一部を除き遠巻きにしておった』

「だからあんたが守っていたのかい」

『守るといっても傍に置くくらいしか出来なんだ。考えあぐねておった時、お嬢ちゃんの魔力にその子が反応したのじゃ』

「そうかい」

 まだ話すソフィア様の横で私は卵に視線を向け考えていた。

“孤独”

 その言葉を聞いて少し自分と重ねてしまった。魔力あるのに魔法が使えない私を学園内で遠巻きに見詰める生徒や講師。いつか魔力を暴走させると思われ孤立していた私に、手を差し伸べたのはアラン先生だけだった。先生が居なかったら私も孤独が嫌で同じ様になっていたのかもしれないわ。


 そう思うと少しだけ卵の中のドラゴンに親近感が持てた。人間だってドラゴンだって独りでは生きていけないものね。



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