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龍人の村編
18 side リュカ
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村人から貰った籠をルナ嬢の部屋へ置いてリビングに戻ると、ソファーに凭れかかって眠る彼女がいた。
「静かにおし」
婆さんが小さな声でそう言うと、ついて来るようにと手招きする。婆さんの後を着いて家の外に出ると玄関のドアを半分閉じて中の様子が確認出来るようにした。
「何で卵を育てることになったんだい?」
「何でって」
「ドラゴンは皆で守り育てるはずじゃないか。それにあの卵の色」
急に警戒する様な表情で質問してきた婆さんの意図が読めず、答えを濁すと逃げ腰になりそうな程の殺意を込めて睨まれた。
「あの色は普通じゃない」
「分かった。順を追って説明するよ」
婆さんからの尋問紛いの言葉に、降参の意味を込めて両手を上げると翁から聞いた話をそのまま伝えた。卵が珍しい無属性の辺りでは表情を変えなかった婆さんも、親や他のドラゴンの魔力を拒んだと聞いて眉をしかめた。
「何でまた、拒んだんだか。そして、契約は出来ずに帰って来たのかい。全く何の為に行ったんだか」
呆れた視線と言葉を向ける婆さんに俺は何も言い返さず黙って受け入れた。
「ドラゴンとの契約はあの娘にとって重要なんだよ」
「重要ってなんだよ」
「はぁー、この馬鹿。あの娘の魔力は人間の体では耐えきれない。心の問題だけじゃなかったんだ」
婆さんは部屋の中に視線を向けルナ嬢がまだ寝ている事を確認すると、重い口を開いた。
婆さんの説明では本人が魔法の訓練で最大限の魔力を使った上で、契約呪具により更に吸われていた。その為に魔力が体の中に有る状態に慣れていない彼女の体は悲鳴を上げているらしい。今も魔力を使って落ちついた様に見えるが、魔力が回復すると逆に体調を崩しかねないという。
「だから、常に魔力を使うドラゴンと契約した方があの娘の為なんだよ」
「何でそんな大事な話を本人にしないんだ」
「あの娘が知れば逆に契約を拒むだろうよ。“自分が助かる為の契約”でもあるんだからね」
「あっ……」
婆さんの言葉に納得した。この数日だけだが彼女と一緒にいて感じたのは、“他人に迷惑をかけたくない”という静かだがはっきり言って拒絶に近い感情。出会って間もない自分達の知らない何かが、彼女のなかにあるのかもしれないと、この時初めて思った。
何故、あそこまで人の手を拒むのか……しかも貴族の令嬢だ。いくら寮生活が長いと言っても、食事の支度や片付けまではしないはずだ。それが全て教える必要もなくやるって事は、日常的にやっているという事でもある。寮には簡易キッチンはあるが食堂で食事をするはずだ……まさか、食堂でも嫌がらせが?
「それにしても、あの卵はえらい自我はハッキリしているじゃないか」
「あ、あぁ、翁が卵を置いて帰れば無理にでもついて行きそうだと」
「卵の中のドラゴンと契約出来れば一番なんだろうがね」
ため息混じりに再び視線を部屋に向ける婆さんは、珍しく不安気な表情でルナ嬢を見詰めていて引っ掛かりを感じた。さっきから次々と出てくるが、まだ何か隠してるのか?
「なんだよ、その含みのある言い方」
「いくら相性が良かろうがドラゴンの方が望んでも、あの娘が受け入れなきゃ契約出来ないだろう」
受け入れる……か。他人と距離を取る彼女は、ドラゴンとの交流が出来るのだろうか。いや、逆にドラゴンぐらい自分の心に素直な方が受け入れられるかもしれない。
「兎に角、ドラゴンの卵を育ててみるしかないね。少し魔力が減った方がコントロール出来るだろう」
「魔法が使えるようになれば自信もつくだろうし良いんじゃ無いか?」
「……呑まれなければね」
強大な魔法を手に入れた途端、魔力に呑まれ闇に染まり暴走する人間が後を絶たない。それは人間だろうが龍人だろうが変わらない。氷の魔女も闇に染まった龍人の一人だ。婆さんの弟子の中にも闇に染まった者がいたな。
闇に染まると厄介だ。自我を失くして魔物の様になるか、知能・知識を残して魔人になるかのどちらか。どちらになっても討伐対象となり世界中の国から“人類の敵”と認識され、討伐すれば各国から褒賞金も出る。そんな事になる前に彼女には何か対策出来れば良いんだが……
「兎に角、今はあの娘を休ませておやり。陛下への報告は私がする」
“陛下への報告”
その言葉を聞いて目を見開くと、婆さんは意地の悪い笑みを浮かべて俺の肩を叩いた。
「バレてるよ。監視も兼ねんだろう」
「グッ……よ、宜しくお願い致します」
婆さんが肩を揺らしながら静かに部屋に戻ると、ルナ嬢にブランケットを掛けてから置くの部屋に消える。婆さんに監視がバレた気不味さから天を仰ぐとため息を吐き出した。
……先ずはネグルの世話をしてくるか。
「静かにおし」
婆さんが小さな声でそう言うと、ついて来るようにと手招きする。婆さんの後を着いて家の外に出ると玄関のドアを半分閉じて中の様子が確認出来るようにした。
「何で卵を育てることになったんだい?」
「何でって」
「ドラゴンは皆で守り育てるはずじゃないか。それにあの卵の色」
急に警戒する様な表情で質問してきた婆さんの意図が読めず、答えを濁すと逃げ腰になりそうな程の殺意を込めて睨まれた。
「あの色は普通じゃない」
「分かった。順を追って説明するよ」
婆さんからの尋問紛いの言葉に、降参の意味を込めて両手を上げると翁から聞いた話をそのまま伝えた。卵が珍しい無属性の辺りでは表情を変えなかった婆さんも、親や他のドラゴンの魔力を拒んだと聞いて眉をしかめた。
「何でまた、拒んだんだか。そして、契約は出来ずに帰って来たのかい。全く何の為に行ったんだか」
呆れた視線と言葉を向ける婆さんに俺は何も言い返さず黙って受け入れた。
「ドラゴンとの契約はあの娘にとって重要なんだよ」
「重要ってなんだよ」
「はぁー、この馬鹿。あの娘の魔力は人間の体では耐えきれない。心の問題だけじゃなかったんだ」
婆さんは部屋の中に視線を向けルナ嬢がまだ寝ている事を確認すると、重い口を開いた。
婆さんの説明では本人が魔法の訓練で最大限の魔力を使った上で、契約呪具により更に吸われていた。その為に魔力が体の中に有る状態に慣れていない彼女の体は悲鳴を上げているらしい。今も魔力を使って落ちついた様に見えるが、魔力が回復すると逆に体調を崩しかねないという。
「だから、常に魔力を使うドラゴンと契約した方があの娘の為なんだよ」
「何でそんな大事な話を本人にしないんだ」
「あの娘が知れば逆に契約を拒むだろうよ。“自分が助かる為の契約”でもあるんだからね」
「あっ……」
婆さんの言葉に納得した。この数日だけだが彼女と一緒にいて感じたのは、“他人に迷惑をかけたくない”という静かだがはっきり言って拒絶に近い感情。出会って間もない自分達の知らない何かが、彼女のなかにあるのかもしれないと、この時初めて思った。
何故、あそこまで人の手を拒むのか……しかも貴族の令嬢だ。いくら寮生活が長いと言っても、食事の支度や片付けまではしないはずだ。それが全て教える必要もなくやるって事は、日常的にやっているという事でもある。寮には簡易キッチンはあるが食堂で食事をするはずだ……まさか、食堂でも嫌がらせが?
「それにしても、あの卵はえらい自我はハッキリしているじゃないか」
「あ、あぁ、翁が卵を置いて帰れば無理にでもついて行きそうだと」
「卵の中のドラゴンと契約出来れば一番なんだろうがね」
ため息混じりに再び視線を部屋に向ける婆さんは、珍しく不安気な表情でルナ嬢を見詰めていて引っ掛かりを感じた。さっきから次々と出てくるが、まだ何か隠してるのか?
「なんだよ、その含みのある言い方」
「いくら相性が良かろうがドラゴンの方が望んでも、あの娘が受け入れなきゃ契約出来ないだろう」
受け入れる……か。他人と距離を取る彼女は、ドラゴンとの交流が出来るのだろうか。いや、逆にドラゴンぐらい自分の心に素直な方が受け入れられるかもしれない。
「兎に角、ドラゴンの卵を育ててみるしかないね。少し魔力が減った方がコントロール出来るだろう」
「魔法が使えるようになれば自信もつくだろうし良いんじゃ無いか?」
「……呑まれなければね」
強大な魔法を手に入れた途端、魔力に呑まれ闇に染まり暴走する人間が後を絶たない。それは人間だろうが龍人だろうが変わらない。氷の魔女も闇に染まった龍人の一人だ。婆さんの弟子の中にも闇に染まった者がいたな。
闇に染まると厄介だ。自我を失くして魔物の様になるか、知能・知識を残して魔人になるかのどちらか。どちらになっても討伐対象となり世界中の国から“人類の敵”と認識され、討伐すれば各国から褒賞金も出る。そんな事になる前に彼女には何か対策出来れば良いんだが……
「兎に角、今はあの娘を休ませておやり。陛下への報告は私がする」
“陛下への報告”
その言葉を聞いて目を見開くと、婆さんは意地の悪い笑みを浮かべて俺の肩を叩いた。
「バレてるよ。監視も兼ねんだろう」
「グッ……よ、宜しくお願い致します」
婆さんが肩を揺らしながら静かに部屋に戻ると、ルナ嬢にブランケットを掛けてから置くの部屋に消える。婆さんに監視がバレた気不味さから天を仰ぐとため息を吐き出した。
……先ずはネグルの世話をしてくるか。
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