婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

文字の大きさ
上 下
33 / 91
龍人の村編

18 side リュカ

しおりを挟む
 村人から貰った籠をルナ嬢の部屋へ置いてリビングに戻ると、ソファーに凭れかかって眠る彼女がいた。

「静かにおし」

 婆さんが小さな声でそう言うと、ついて来るようにと手招きする。婆さんの後を着いて家の外に出ると玄関のドアを半分閉じて中の様子が確認出来るようにした。

「何で卵を育てることになったんだい?」

「何でって」

「ドラゴンは皆で守り育てるはずじゃないか。それにあの卵の色」

 急に警戒する様な表情で質問してきた婆さんの意図が読めず、答えを濁すと逃げ腰になりそうな程の殺意を込めて睨まれた。

「あの色は普通じゃない」

「分かった。順を追って説明するよ」

 婆さんからの尋問紛いの言葉に、降参の意味を込めて両手を上げると翁から聞いた話をそのまま伝えた。卵が珍しい無属性の辺りでは表情を変えなかった婆さんも、親や他のドラゴンの魔力を拒んだと聞いて眉をしかめた。

「何でまた、拒んだんだか。そして、契約は出来ずに帰って来たのかい。全く何の為に行ったんだか」

 呆れた視線と言葉を向ける婆さんに俺は何も言い返さず黙って受け入れた。

「ドラゴンとの契約はあの娘にとって重要なんだよ」

「重要ってなんだよ」

「はぁー、この馬鹿。あの娘の魔力は人間の体では耐えきれない。心の問題だけじゃなかったんだ」

 婆さんは部屋の中に視線を向けルナ嬢がまだ寝ている事を確認すると、重い口を開いた。
 婆さんの説明では本人が魔法の訓練で最大限の魔力を使った上で、契約呪具により更に吸われていた。その為に魔力が体の中に有る状態に慣れていない彼女の体は悲鳴を上げているらしい。今も魔力を使って落ちついた様に見えるが、魔力が回復すると逆に体調を崩しかねないという。

「だから、常に魔力を使うドラゴンと契約した方があの娘の為なんだよ」

「何でそんな大事な話を本人にしないんだ」

「あの娘が知れば逆に契約を拒むだろうよ。“自分が助かる為の契約”でもあるんだからね」

「あっ……」

 婆さんの言葉に納得した。この数日だけだが彼女と一緒にいて感じたのは、“他人に迷惑をかけたくない”という静かだがはっきり言って拒絶に近い感情。出会って間もない自分達の知らない何かが、彼女のなかにあるのかもしれないと、この時初めて思った。

 何故、あそこまで人の手を拒むのか……しかも貴族の令嬢だ。いくら寮生活が長いと言っても、食事の支度や片付けまではしないはずだ。それが全て教える必要もなくやるって事は、日常的にやっているという事でもある。寮には簡易キッチンはあるが食堂で食事をするはずだ……まさか、食堂でも嫌がらせが?

「それにしても、あの卵はえらい自我はハッキリしているじゃないか」

「あ、あぁ、翁が卵を置いて帰れば無理にでもついて行きそうだと」

「卵の中のドラゴンと契約出来れば一番なんだろうがね」

 ため息混じりに再び視線を部屋に向ける婆さんは、珍しく不安気な表情でルナ嬢を見詰めていて引っ掛かりを感じた。さっきから次々と出てくるが、まだ何か隠してるのか?

「なんだよ、その含みのある言い方」

「いくら相性が良かろうがドラゴンの方が望んでも、あの娘が受け入れなきゃ契約出来ないだろう」

 受け入れる……か。他人と距離を取る彼女は、ドラゴンとの交流が出来るのだろうか。いや、逆にドラゴンぐらい自分の心に素直な方が受け入れられるかもしれない。

「兎に角、ドラゴンの卵を育ててみるしかないね。少し魔力が減った方がコントロール出来るだろう」

「魔法が使えるようになれば自信もつくだろうし良いんじゃ無いか?」

「……呑まれなければね」

 強大な魔法を手に入れた途端、魔力に呑まれ闇に染まり暴走する人間が後を絶たない。それは人間だろうが龍人だろうが変わらない。氷の魔女も闇に染まった龍人の一人だ。婆さんの弟子の中にも闇に染まった者がいたな。
 闇に染まると厄介だ。自我を失くして魔物の様になるか、知能・知識を残して魔人になるかのどちらか。どちらになっても討伐対象となり世界中の国から“人類の敵”と認識され、討伐すれば各国から褒賞金も出る。そんな事になる前に彼女には何か対策出来れば良いんだが……

「兎に角、今はあの娘を休ませておやり。陛下への報告は私がする」

 “陛下への報告”

 その言葉を聞いて目を見開くと、婆さんは意地の悪い笑みを浮かべて俺の肩を叩いた。

「バレてるよ。監視も兼ねんだろう」

「グッ……よ、宜しくお願い致します」

 婆さんが肩を揺らしながら静かに部屋に戻ると、ルナ嬢にブランケットを掛けてから置くの部屋に消える。婆さんに監視がバレた気不味さから天を仰ぐとため息を吐き出した。

……先ずはネグルの世話をしてくるか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。 けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。 そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。 消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。 救国の聖女「エミヤ」の記憶を。 表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...