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龍人の村編

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 ドラゴンの卵を持ってソフィア様の元に帰ると、村は大騒ぎになった。ドラゴンの卵自体珍しくて見たこと無いのに、ドラゴンから子育てならぬ卵育てを頼まれたんだから。
 帰って来て早々に次から次と人が訪ねて来て、家に入れない人が窓の外に貼りついていたりもした。

「いやー、参ったね。爺さんに会いに行って子供作って帰って来たんだから驚いたよ」

「婆さん、言葉がおかしいだろ!」

 村の人が両手が塞がって大変だからと、赤ちゃんを抱っこする時に使う抱っこ紐を持って来てくれたり、魔力を毎日使うならと回復効果の高い薬草を持って来てくれた。

「タダで貰うのも悪いので」

 私がそう言ってお金を渡そうとしても、滅多に見られない卵を見れたからと言って皆に断れてしまった。えー、私が落ち着かないんですけど。でも、私がそう言うと必ず返ってくる言葉がある。

「ソフィア様が楽しそうだから良いんだよ」

 ソフィア様に内緒だと言って村の人達が教えてくれたのは一人暮らしになったソフィア様の変化。最初は自由気ままで良いと言っていたけど、一ヶ月もするとため息が増えていき最近はあまり笑わなくなっていたらしい。

「あの方は、一つの場所にじっとしていられないんだよ。でも、家族の帰る家を守りたいってね」

「なんとも複雑な心境ですね。どちらが良いとも言えないですもの」

 家族としては自由にして欲しいのかな?どちらでもソフィア様が幸せであって欲しいのかもしれない。

「ソフィア様も意地っ張りだから絶対に言わないだろうけどね」

「そうだね~。素直に言えば良いのにね。話変わるけど何時産まれるの?」

 そう必ず聞かれるコレ。皆、ドラゴンが産まれる瞬間を見たいだろうとは思うけど私にも分からない。だから翁さんの言葉をそのまま伝えた。

「へぇー。普通は一年で産まれるのかぁ」

「私、初めて聞いたわ」

「俺もだ。知らなかった」

 私も初めて知りましたよ。皆で和気あいあいと話していたが、暫くして村の人達が帰って部屋が静かになったタイミングで卵が揺れ始めた。あら?何かしら。
 揺れる意味が分からずに困惑していると、リュカ様が壁にある時計を指した。

「魔力が欲しいって合図じゃないか?」

「あっ!もう帰って来て三時間以上経ってる」

 慌てて卵に触れると、さっきまで無かった線で繋がった。ゆっくり線に魔力を流すと卵に魔力が吸い込まれ始める。やっぱりお腹空いてたのか。ごめんね気付かなくて。次からはちゃんとするからね。

「おや、時間が決まっているのかい?」

 卵に魔力を流す私を見ながらソフィア様が興味津々に覗き込んできた。え、ちょっと持って今、返事する余裕ない。

「婆さん、気が散るだろう。翁が言うには四・五時間くらいの間隔で魔力を注いでくれって」

「人間の赤ん坊と変わらないじゃないか」

「そうなのか?家に赤ん坊がいたことないから分からん」

 私の代わりにリュカ様が答えてくれて、その話を聞いたソフィア様は人間の赤ちゃんのお世話を教えてくれた。

「授乳が最初の頃は四・五時間おきかそれより短い子もいるね。成長すると徐々に間隔が長くなって、夜は飲まなくても大丈夫になるんだが……」

「が、何だよ」

 そのうち間隔が長くなるなら何とかなるかな?そう思った私がバカでした。

「人間の赤ん坊で言うなら三・四ヶ月経った頃と同じなんだよ。つまり暫くは夜中もやらなきゃならんだろうね」

「「夜中も!?」」

「なんだい。考えていなかったのかい」

 ソフィア様が声を揃えて驚いた私達に呆れた視線を向ける。リュカ様は額に手をあてて天井を仰ぎ、私は大きなため息を吐いた。

 えぇ、考えていませんでした。そっか九時に魔力を注いだら、次は夜中の一時か二時。更にその四時間後に、また起きて魔力を注いでまた寝る?いや、その頃には朝よね。わー、キツ!

「まぁ、人間みたいにオムツ換えたり風呂に入れたりしなくて良いからマシかねぇ」

「あー、確かに」

 夜中に起きてミルク飲ませてオムツ変えて片付けしてって想像してみると、魔力を流す為に体を起こして座るだけはなら少しは楽かも。
 話をしている間に魔力が足りたのか、繋がっていた線が消え卵が静かになる。今のうちにとリュカ様が村の人がくれた大きめな卵専用籠を部屋に運んでくれて、ソフィア様は私の手を握って体調を確認する。私は最初の時と同じ様に疲れてソファーに凭れかかって座っていた。
 だーるーいー。何かしら体力もだけど、卵が割れないか、異常は無いか気になるから精神的に疲れる。

「体調に問題は無いね。魔力は1/3は減ったようだ。確かに爺さんのいう通り一定の魔力を保つから訓練になるね」

「そうですか……魔力の調整が下手だからかですかね凄くダルいです」

「慣れない事をしたからだよ。少し休みな」

 ソフィア様が苦笑いしながら私の頭を撫でてくれた。頭を撫でるその手の温かさと優しさに、私は直ぐに眠りに落ちてしまった。

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