婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

文字の大きさ
上 下
28 / 91
龍人の村編

14

しおりを挟む
 ゆっくり休んだ翌日の早朝。太陽が顔を出してまもなくリュカ様と共にドラゴン達が棲む谷に向かって歩き出した。谷に行くには徒歩か、契約しているドラゴンの背中に乗って一緒に行くの二つしかない。私は契約していないので前者の徒歩を選択する事になった。


「ルナ嬢がズボンを持ってて良かったよ」

「学園の訓練で一人登山とかあったので無意識に持ってきてました」

「一人登山?」

 山に不馴れな私の為にゆっくりと山を登るリュカ様が、立ち止まり後ろにいる私に視線を向けた。その顔には驚きというよりあり得ないと書いてあった。あれ?騎士の学校にはないのかな。

「授業の中に体力作りも兼ねた登山があって、学園裏にあるテヤル山とか隣街のユキア山も登りました」

「いや、登山授業は知ってる。ただ、危険だから複数で行う決まりになっているはずだ」

「へ?」

 リュカ様の言葉に驚き過ぎて変な声が出てしまった。複数で行う?え~もしかして、それも嫌がらせだったのかなぁ。まぁ、無事に帰れたし体力ついたから良いけど。
 暢気にそんな事を考えていると、前を向き歩き出したリュカ様は昨日、私が気絶していた間にアラン先生から聞いた話を教えてくれた。

「ルナ嬢への嫌がらせというか差別は異常だし危険だ。授業連絡不備やテストの不正以外にも問題が出てきたから学問統括部長の王弟殿下に報告を上げてたと言っていた」

「そんなに危険だったんですか?」

「大まかにしか聞いていないが、おそらく一人での登山も嫌がらせの一つだろう。無事で良かった」

 リュカ様の言葉を聞いて思い出したのは、頂上で講師と合流した時の彼らの表情。凄く複雑な表情をしていた彼らは、もしかしたら、無事に登山を終えた安堵と罪悪感が入り交じっていたのかもしれない。でも、複数で行う決まりなら、知らないで一人でした私はどうなるの?問題あり?

「決まりを破った私もお咎めがありますかね?」

「いや、騙されたルナ嬢にはないな。ただ、講師はよくて免職。最悪、懲戒解雇と投獄だな」

 “騙された”その一言でも驚いたけど、思ったより大事になりそうな事を言われて引いた。講師でこれならエリザベスはどうなるかもなぁ。彼女、攻撃特化型だけど実力もあるし重い罰にならないで欲しいな。私が口を挟むと逆に彼女は怒りそうだけどね。


 途中、休憩したりこの山にしか生えていない薬草を取ったりしながら登る事、約一時間。濃い霧に覆われた谷の上に到着した。事前に濃い霧は目眩ましの結界と聞いてはいたけど、一人で来たら足を踏み入れる事はないと思えるほど先が見えない。目印の木の側を通らないと谷の底にいるドラゴン達に会えない様になっているらしい。

「はぐれるといけないから」

 そう言って差し出されたリュカ様の手に自分の手を乗せると一歩踏み出した。濃い霧はリュカ様の姿まで消してしまって手を離したら間違いなく迷子になる。長い様で短い霧を抜けると目の前には緑溢れる大きな谷が広がっている。かなり深いこの谷は昔、怪我をしたドラゴンが偶然見つけた場所らしい。リュカ様に手を引かれて岩肌を削って作られた階段を下りて行くと、時々、岩壁の穴からドラゴンが顔を出した。

「ドラゴンって色々な色をしているんですね」

「あぁ、魔力の属性によって変わるんだ。因みにネグルは闇だ」

 一般的な五属性に合わせて火は赤。風は緑。土は茶。雷は黄。水は青。それとは別にネグルの様な黒い闇属性や金色の光属性が希にいるんだとか。金色……目が痛くなりそうな響きね。白じゃないんだ。学園の上空を緑色のドラゴンが通り過ぎた事があったけど、風属性だったのかも。


 ドラゴンについて質問しているうちに最下層に到着したけど、上から見るより背の高い木々に視界を奪われ現在地が把握出来ない。リュカ様が谷底の森に足を踏み入れると、木々の枝が揺れ分かれ道が出来た。

「え?道なんて無かったのに」

「翁だよ。このまま進めば大丈夫」

 何か確信があるのか大丈夫と断言したリュカ様の後ろに続いて私も森を歩き出す。サラサラと葉が揺れる道をかなり奥まで進んだところで、大きな洞窟の前に出た。
 ソフィア様の家が五個は入りそう。ここが翁さんの家?

「ルナ嬢は、ドラゴンが怖くないのか?」

 リュカ様の質問に少しだけ今更と思って笑えた。ここに来る途中に何体ものドラゴンに会ったのに、怖かったら……

「怖かったら今頃、泣き叫んでますよ」

 思った事を素直に言葉にすると、リュカ様は困った様に眉を下げた。

「あ、まぁ、そうなんだが翁は体が大きいだけで心優しいドラゴンだ。逃げないで話を聞いて欲しい」


 何それ、会った瞬間に驚いて逃げたくなるって事?いや、いや、いや、大袈裟…………ですよね?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」 「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」  公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。 * エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

らんか
恋愛
 あれ?    何で私が悪役令嬢に転生してるの?  えっ!   しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!  国外追放かぁ。  娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。  そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。  愛し子って、私が!?  普通はヒロインの役目じゃないの!?  

前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。 けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。 そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。 消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。 救国の聖女「エミヤ」の記憶を。 表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...